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映画で見る『選挙』

映画で見る『選挙』

吉岡 綾乃

Business Media 誠で編集長をしています。本ブログ&Twitterでは、Webメディアや紙メディア、ネットビジネス、携帯電話、非接触ICなどについての話題が中心になる予定。


今週末は参議院選挙の投票日です。誠でも、堀内記者が「参院選まとめサイトをまとめてみた」という記事を書いていますが、もう一本「なぜ、選挙カーでは名前だけが連呼されるのか?」という記事を見て思い出したのが、映画『選挙』。

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 想田和弘監督の映画『選挙』は、2007年に公開された作品。各国の映画祭にも出品され、かなり話題になったので、ごらんになった方もいらっしゃるかもしれません。映画といってもドキュメンタリーで、非常にリアルな"選挙の真実"が描かれています。

●政治家は「妻」ではなく「家内」と呼ぶ、その理由

 映画の舞台は、小泉人気が絶頂期の頃の川崎市議補欠選挙。自民党公認の落下傘候補として担ぎ出された新人が、初めての選挙活動を駆け抜けるようすを淡々と描きます。自民党から出馬した候補者・山内和彦さんは、東京で切手・コイン商を営む40歳。考え方も行動も政治家ではなくて"普通の人"な上に、選挙区の川崎市にはまったく地縁がないという状態。

 経験豊かな自民党選対スタッフが、山内さんに「ドブ板選挙のHowTo」をていねいに指導していくのですが、ここで描かれる選挙活動のディテールがいちいち興味深い。中でも印象深かったのが「(政治家だったら)『妻』ではなく必ず『家内』と呼ぶ」という話。これは「丁寧に『お』を付けると『おっかない』というギャグになって笑いがとれるから」と理由が説明され、映画の中でも実際にそのギャグが使われるシーンが出てきます。

 「家内」と呼ばれた山内さんの妻は、夫に輪をかけて"普通の人"なので、途中夫婦間で選挙活動を巡る言い争いが起こります。妻は仕事を休職して夫の選挙活動につきあうのですが、選対スタッフに「政治家の嫁なら仕事なんかやめて当然」と言われて腹を立てます。「『当選したらほかの(自民党)候補の選挙の時は手伝うのが当たり前』と説教された。大金持ちならともかく、仕事を辞めろなんて言われたって困る。言っちゃナンだけど市議くらいで嫁は仕事するななんて、何を勘違いしてるの?『夫が総理大臣なら、喜んで仕事をやめさせていただきます』って言い返してやろうかと思った」と夫にぶちまけるシーンには深く共感してしまいました。かつて女優の水野真紀さんが後藤田正純議員と結婚したとき、私は「政治家と結婚したって女優業をやめる必要はないだろうに」と思ったのですが、こうやって"政治家の嫁"という職業ができていくのですね......。

●こうしてどぶ板選挙ができていく

 この映画、ポイントはたくさんあるのですが、最大のポイントは「選挙というシステムのばかばかしさを痛感させられる」ということではないでしょうか。映画の中で、山中候補はひたすら、自分の名前と"小泉自民党"を連呼し続けます。山内さんが政策について語るシーンはほとんどありませんが(しどろもどろになるシーンはある)、握手の仕方は格段に上手になっていくのが面白い。映画の最初と最後では、握手の仕方がまるで別人です。

 日本の選挙というのは、結局「名前を覚えてもらう」に尽きるのだな、と思い知らされます。市議会選挙レベルでこれなのですから、国会議員の選挙ともなれば、さらに経験豊かなスタッフの手によって、きめ細やかで徹底的なドブ板選挙が繰り広げられるのでしょう。名前を覚えてもらった人が当選して、その結果政党の多数決で決まった政策で国の行く末が決まる......選挙というシステムで支えられる民主主義が、日本において正しく機能する日は来るのだろうか? 見終わったあと、そんなことを考えてしまいました。

●コメディ?

 『選挙』は上述の通りドキュメンタリーです。ナレーションもBGMもない、本当に淡々とした作品なのです。しかしベルリン映画祭で上映したとき、観客は大笑いし、上映後に挨拶のため壇上に登場した想田監督は拍手とスタンディングオベーションで迎えられた、とどこかで読んだ記憶があります(ソースが思い出せずうろ覚えです、申し訳ない)。ショックだったのは、上映中、観客がコメディでも見ているかのように大笑いしていたということ。名前を連呼した車が走り回る、ひたすらお辞儀、そして握手......外国人から見て日本の(どぶ板)選挙活動がいかに滑稽か。日本人としては笑えないですよね。

 この映画、実は後日談というか裏話があります。映画の主人公である山内和彦さんが『自民党で選挙と議員をやりました』という本を出しているのです。「中の人」の率直な思いがまとめられていてなかなか面白いですし、ドキュメンタリーの素材として監督にいろいろ言いたいこともあったんだろうなあというところが伝わってきます。映画が面白かった方は合わせて読んでみるのもいいかもしれません。なお、山内さんはブログも書かれています。

 市議会議員の補欠選挙でもかなりの額のお金が必要なわけで(映画&本の中でも選挙にかかるお金をどうやって捻出するか?は大きなテーマになっています)、ましてや参議院選挙となれば大金がかかっています。何かの記事で読んだところでは、総選挙一回につき、国民一人あたり800円の負担がかかっているとか(選挙権がない人も含めてです!)。日曜日はぜひ、一票を投じてこようではありませんか。なお、「どの党に入れたら分からない」という方は、この記事を参考に、ボートマッチをしてみることをオススメします。

 

※『選挙』は現在、新宿K's cinema、大阪シネ・ヌーヴォXで復活上映中だそうです。詳しくはこちらを。←すみません!大阪終わってました......(謝)。改めて確認したところ、7月10日現在上映しているのは、新宿K's cinemaと渋谷ライズX、新潟の十日町シネマパラダイスでした。その他のエリアの方はDVDをどうぞ!(7/10追記)

※※このブログは、メルマガ『ビジネス通信 誠  第78号』に書いたミニコラムを元に加筆したものです。メルマガの登録はこちらからどうぞ。