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「アベノミクスはうまくいくのか?という議論について」 ~私たちはこの経済政策をどうとらえるべきなのか?~

「アベノミクスはうまくいくのか?という議論について」 ~私たちはこの経済政策をどうとらえるべきなのか?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

「アベノミクス」。今年の流行語大賞はほぼこれで間違いないでしょうね。
ところで、私たちはこの経済政策をどうとらえたら良いのでしょうか?

「アベノミクス」。今年の流行語大賞はほぼこれで間違いないでしょうね。
ところで、私たちはこの経済政策をどうとらえたら良いのでしょうか?


■賛否両論のアベノミクス、どうなんでしょう?

安倍政権の経済政策である「アベノミクス」。この効果かどうかはわかりませんが、景気は間違いなく上向いてきましたね。
日本企業の重石となっていた円高が解消されました。株価も上がりました。
4月の日銀の地域経済報告では、すべての地域で景気判断を上方修正しました。企業の設備投資や仕入が増加したことで銀行の貸し出しも増加しています。消費も底堅く、流通業界は軒なみ好業績を発表しています。

ここまでうまくいっているにも関わらず、アベノミクスに対しては賛否両論があります。「円安で輸入物価が上昇。消費税増税前に庶民の生活が厳しくなる。」「株価が上がっても儲けているのは大企業と富裕層だけ。格差がますます拡大する。」「すでに市場は暴走している。日銀は為替も株価も金利もコントロール不能になるだろう。」「アベノミクスで日本は破たんの道を進む!」
・・・などなど、うまくいっているから余計になのかもしれませんが、マスコミ報道などはむしろ否定的な意見の方がクローズアップされています。

さて、このアベノミクス、うまくいくのでしょうか、それともうまくいかないのでしょうか。どっちなんでしょうね。


■「良いこと」と「悪いこと」、何事も両面ある

何事にも表と裏があります。メリットがあればデメリットもあります。
例えば、円安による今の物価上昇もそうですね。輸出企業にとって円安は歓迎すべきことですが、輸入企業にとっては仕入高が高騰することであり、決して良いことではありません。今、物価が上がって来ていますが、これは主に円安によるものであり、景気がよくなった結果ではありません。政府が目指す「よいインフレ」ではありません。
でも、だからと言ってこれまで通りデフレのままの方がいいのでしょうか。可処分所得は伸びず、若年失業者がどんどん増えていくような社会の方がよかったのでしょうか。今の物価上昇はデフレからの転換時には必ず起きる副作用のようなものです。
デフレ解消が始まったばかりのこのタイミングで、「悪くなった」とか「これからもっと悪くなるに違いない」などと騒いでも、なにも良いことはないんじゃないかな、と思います。


■「ピレネーで遭難した登山隊」が教えてくれること

ひとつエピソードがあります。ベストセラーになった『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建著)の中に書かれている「ピレネーで遭難した登山隊」の話です。

 『ある登山隊がピレネー山脈で雪崩に遭遇した。奇跡的に助かった隊員たちが意識を取り戻した時には背負っていた装備はおろかコンパスすらなくなっていた。食料もチョコレートなどの非常食が少しだけしかない・・・。隊員たちは「我々はもう生きて帰れない」、「どうやって山を下りるんだ・・・」と暗澹たる気持ちになった。

ところがある隊員のポケットから1枚の地図が出てきた。これを見ているうちに隊員たちはだんだん元気が湧いてきた。「尾根がこういう風に走っていて、周囲の地形がこうなっているということは、どうも我々はこの辺りにいるのではないか。」「いま太陽がこっちから出ている。ということはこちらのほうが東ではないか。」「だとするとこうすれば下山できるのではないか!」と、みんなが地図の上に道をつけるという作業を始めた。(中略)下山の過程ではさまざまな困難があったが、登山隊は地図の上につけた道を信じて、それを頼りに困難を乗り越え、奇跡的に下山することができた。

 雪崩の情報は麓にも届いていた。麓の人々は救助隊を組織したものの上空からの緊急捜索でも見つからない。状況から考えて生還は絶望的だとなかばあきらめていたところに登山隊が生きて戻ってきた。驚いた救助隊は登山隊のリーダーに「あの状況で一体どうやって戻って来られたのですか?」と訊ねると、リーダーは1枚の地図を取り出して答えた。「この地図のおかげで助かりました。」その地図をよく見た救助隊員は笑って言った。「こんなときによくそんな冗談を言う余裕がありますね。これはアルプスの地図じゃないですか。」

驚いたのは登山隊のリーダー。自分たちが道筋をつけた地図をあらためてよく見ると、それは実はピレネーではなくアルプスの地図だったのだ。(要約)』(「ストーリーとしての競争戦略」楠木建著 東洋経済新報社)

ビジネス戦略の背後にある論理をつまびらかにしている本書の中で、著者の楠木建氏はこのエピソ-ドをこう解説しています。
『経営戦略は当たり外れの問題ではなく、道筋がつけられた地図を手に進んでいく人々が信じているかいないかの問題である。』
そして、『戦略ストーリーは、「こうしよう!」という「意思の表明」であって、「こうなるだろう」という「将来予測」ではない。』とも説明しています。


■正しくなくてもいい。地図があることを幸せだと思おう。

もし地図がなければ隊員たちは絶望して動くことすらできなかったかもしれません。例え実際とは異なる地図であっても、それをみんなが見て、みんなが考えを言い合えた。地図というよりどころがあったからこそこの登山隊は前を向いて歩きだすことができたのだと思います。
これはビジネス戦略でも経済政策でも同じですが、私たちはついついどこかに「正しいもの」が存在しているかのように思ってしまいがちです。でも実際のところ、将来がどうなるかなんて誰にもわかりません。大事なのは未来予測が正しいかどうかではなく、未来への強い意思をみんなが持っているかどうか。
この登山隊にとって地図は「希望」でした。たとえ正しくなかったとしても、まずは私たちも「地図」を持つことが大切なのだと思います。

「アベノミクスはまだ何もしていない」と評論家の人は言います。確かにそうなんですが、でももしかしたらもう十分なのかもしれません。
「金融緩和して、財政出動して、成長戦略をとる」という地図はもう書いてもらいました。このおかげで私たちは、「ああじゃないか、こうじゃないか」と議論ができています。「良くなる」と思えるならそのまま前に進めばいいし、「悪くなるぞ」と思うならこれから予測されることに対して軌道修正しながら前に進めばいいでしょう。ここから先に必要なのは政府が何をしてくれるかではなくて、「絶対良くする!」という私たち国民の強い意志なのではないでしょうかね。

景気は「気」だと言われます。みんなが「絶対良くなる!」と思えばきっと良くなるものなんでしょう。よく仕事をして、よく遊ぶ。(←消費もしないと景気もよくなりませんからね)「未来は絶対良くなる」と信じて自分の持ち場、持ち場で、自分の仕事を一生懸命にやるしかないですね。

 今回は以上です。日本がもっと良くなりますように。


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