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「日本の小麦はなぜ高い?」~日本の小麦流通制度の問題点とは?~

「日本の小麦はなぜ高い?」~日本の小麦流通制度の問題点とは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。


最近色んなものが値上がりしています。
その中でも食料品の値上がりは厳しいですよね~。



■小麦価格値上げ!2007年の再来か?

この4月から小麦の政府売り渡し価格が約1割値上がりしました。
言うまでもなく、小麦はパンやうどん、パスタなどの原材料であり、今やお米に次ぐ日本の主食です。
一人当たりの年間消費量で言うと、お米58㎏に対して、小麦33㎏だそうです。年間総消費量でいうとおよそ670万トンくらいですが、そのおよそ9割を輸入でまかなっています。小麦の輸入価格の上昇は家計にも少なからぬ影響を及ぼしますよね。

<輸入小麦価格9.7%上げ 円安などで4月から 農水省「食卓への影響は限定的」>
(日本経済新聞 2013年2月27日付)
『農林水産省は、国が輸入して国内の製粉会社に売り渡す小麦の価格を4月1日から平均9.7%引き上げると発表した。小麦の国際価格の上昇や円安が進んだことで、輸入価格が上がったことが理由。値上げは2期連続。(中略)農水省は「食卓への影響は限定的」としている。』

小麦の価格は2007年にも急騰しましたね。
当時は、サブプライム問題がじわじわと表面化しつつあった頃でした。世界各国が金融緩和を行っていましたが、債権市場や株式市場に嫌気がさした投機マネーが原油市場や商品市場に流れ込みました。
日本でもガソリンがかなり値上がりしたのを覚えておられる方も多いと思います。その時には同じ構図で小麦も約40%近くも値上がりしました。パン屋さんやうどん屋さんだけでなく家計にも大きな影響が出ました。

今また小麦の価格は2007年並みに上がってきています。
そして今後もさらに上がっていきそうな気配もあります。


<小麦、12年度は供給不足 主要国、天候異変で減産>
(日本経済新聞 2013年5月6日付)
『米農務省によると、2012穀物年度(12年6月~13年5月)の世界の小麦生産量は6億5543万トンで前年度比6%減の見込み。需要は3%減の6億7255万トンで需要が供給を上回る。(中略)主要生産国が天候異変に見舞われ大幅な減産となった影響が大きい。』

今は2007年に近い状況になっています。
まず天候不順があって小麦の値段が上がりやすくなっています。今回の価格上昇も、米国やオーストラリアなどの小麦生産地の干ばつで生産量が減少したことが主な要因のようです。加えてそこに、金融緩和でダブついたマネーが小麦の値上がりを見越して流れ込んでいます。また日本では為替が円安ドル高になったことも輸入価格の上昇に拍車をかけています。

そして小麦の需要自体が世界的に増加しています。
特に大きいのが、中国とインドの小麦消費量の増加です。小麦消費量世界1位の中国の年間消費量は1億2000万トン、2位のインドで8700万トンです。日本の小麦消費量はおよそ670万トンですから、まさしくケタが違いますね。

ただ、今は中国もインドも消費量と同じくらいの生産量があって、ほぼ自給できていますから国際取引価格にはさほど影響を与えていません。しかし、もし中国やインドで干ばつでも起きて、輸入を増やしたりしたら、もともとのボリュームがハンパじゃないですからその瞬間に小麦価格は暴騰するでしょう。
要注意ですね。


■日本の小麦はなぜ高い?

さて、ここで日本の小麦の流通に関する問題点を見ておきたいと思います。
「日本の小麦は外国の小麦価格に比べて2~3割ほど割高である」とよく指摘されています。
それは政府の小麦価格維持制度の問題のことです。

日本は小麦に252%の関税をかけています。
でもこの関税はお米のように「国内生産者を守るために安い外国米の流入を防ぐ」というのとはちょっと性格が違うようです。

例えば、1トン3万円の小麦に対しては、252%の約7万5千円の関税がかかります。そうすると日本の製粉会社は、原料3万円+関税7万5千円=1トン10万5千円で小麦を仕入れることになります。
これでは海外の食品メーカーに太刀打ちできません。

ですので、小麦は農水省がまとめて無関税で買って、国内製粉会社に卸しています。
農水省は年間500トンくらいまである政府の無関税枠で小麦を輸入します。その価格に政府のマージンを乗せて製粉業者などに政府売り渡し価格で卸します。今のマージンはトンあたりおよそ17,000円。
ですから政府卸なら、原料3万円+政府マージン17,000円=4万7千円 で輸入できることになります。


10万5千円と4万7千円。
これだけの価格差があるなら日本のすべての製粉会社が政府から買うのも当然ですね。
小麦は、国家が国内価格を完全にコントロールしている価格統制品と言えます。
この小麦の政府マージンは農水省の貴重な財源にもなっています。
年間の小麦輸入量を約500トンとすると、500トン×17,000円=850億円の財源です。
これは農水省の特別会計に入っています。

この財源は、国内小麦生産業者を守るためなどに使われる、ということになっています。真面目にやっている小麦業者を守るのはもちろん大事です。でも政府がコントロールできる状態のものが10%も値上がりするにあたっては、ちょっと高くなりすぎていないか、また小麦輸入から得られている財源は適切に使われているか、といったことは国会などでしっかりチェックはしてもらいたいと思います。

いくら農水省が「家計への影響は限定的」と言おうが、実際に家計は影響を受けています。
そして、ただでさえ中国やインドの経済成長にともなって小麦の需要が増えて、ちょっとしたことで国際価格は上がりやすくなっています。
廃止までは難しくても、せめてマージンの引き下げくらいは検討していただきたいものです。



今回は以上です。

もっと日本が良くなりますように。

 


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