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「運用実績年利回り10%超!年金問題は解決したのか?」~今こそ構造的な問題を議論するべきでは?~

「運用実績年利回り10%超!年金問題は解決したのか?」~今こそ構造的な問題を議論するべきでは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

いよいよ参議院選挙ですね。
いつも争点になっている「年金問題」って今回耳にしませんね。
なぜでしょう?



■アベノミクス、年金運用実績にも好影響

参議院選挙を間近に控え、テレビや新聞などで各党が政策を訴えています。
いつも争点になるのが、「年金問題」ですが、今回は参議院選挙でも全然話題になりませんね。

「日本の年金制度はもう破たんしている!」などと、ここ数年間、センセーショナルに取り上げられることが多かった年金問題ですが、今それほど話題になっていません。

その理由のひとつはこれ↓でしょうか。


<公的年金運用益、過去最高の11兆円 12年度>
(日本経済新聞 2013年7月2日付)
『公的年金の運用が大幅に改善している。国民年金と厚生年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が発表した2012年の運用実績は、運用益が11兆2222億円、運用利回りが10.23%と、いずれも過去最高だった。昨年11月からの円安・株高の影響で国内外の株式の評価額が膨らんだ格好だ。』

11兆円の運用益、10%を超える運用利回り!
これはすごい実績です。
円安と株高のお蔭ですから、これもアベノミクスの副産物ですね。


■野党が年金問題を争点にしない理由とは?

日本の年金積立金を運用しているGPIFの運用資産総額はおよそ120 兆円。
世界で最大の運用規模をもつ公的年金です。
ただ、ここ数年は高齢化の進展に伴い支出が収入を上回っている上に、リーマンショックなどもあり運用益もマイナスの年も続きました。

そうして毎年おおよそ4~5兆円を取り崩してきました。
これでは世界最大の年金積立金もいずれは枯渇してしまうのでは?
・・・・という危惧があったわけですね。

それが、2012年度はなんと11兆円もの運用益です。
これまでの年金不安を吹きとばすような実績です。
厚生労働省の報告によると、円安と株高が進んだ昨年10月以降に収益が急激に改善、下半期(10月~3月)だけで12.7兆円の収益を上げたようです。

この発表があったのが、参議院選を控えた7月2日です。
今、年金問題については与党も野党もほとんど触れていません。
野党にしてみれば年金の話をすれば、アベノミクスの成果を誇られることになりますからね。
やはり安倍さんは「持って」いますね。


■年金不安の構図とは?

ただ、当然、年金問題はこれで解決したわけではありません。
たまたま運用実績が良かっただけであって、根本的には何も変わっていませんからね。

日本の年金不安の構図を簡単におさらいします。

・日本の年金制度は、「賦課方式」といって、現役世代の保険料負担で高齢世代を支えるという「世代間扶養」の考え方を基本に運営されています。

・少子高齢化が急速に進む中、負担する現役世代と受給する高齢世代の数的バランスが崩れ、2050年頃には一人のお年寄りを一人の現役世代が支えるような状態になることが予想されています。

・そこで政府は2004年に年金制度改革を行い、保険料の段階的引き上げや給付の調整制度などを取り決めました。

・そのときに想定された積立金の想定利回りは「4.1%」。

・ところが、平成24年度までの過去10年間の平均運用実績は約「1.7%」と想定を大きく下回ります。

・加えて、2010年代に入ると、団塊世代の大量退職と受給開始が拍車をかけます。

・もう毎年の保険料収入と積立金の運用益だけでは増加する年金給付をまかなうことが出来ません。

・それで、GPIFが年金積立金を毎年毎年4兆~5兆円程度取り崩して支払いに充ててきました。

・このようなことから「もう日本の年金制度は持たない」などと喧伝されました。

・あわせて、社会保険庁のずさんな年金管理が明らかになったこともあって、年金制度は国民の信頼を失いました。

・今、国民年金は未納率が40%を超えるような事態になっています。

まさに破たんへまっしぐら!という状況でしたね。


■今こそ年金制度のあり方を議論すべき!

投資をやっている方ならわかると思いますが、年10%を超える運用利回りなんて、毎年コンスタントに続けられる水準ではありません。

たまたま、円安のお蔭で外債の評価額が上がったことと日本の株価が急騰した結果です。
現実的には年金運用維持で必要だと想定されている利回りである「4.1%」だって続けるにはかなり厳しい水準です。過去10年の実績を見ても、よくて平均「2%」程度というところじゃないでしょうか。

高齢化は今後ますます加速します。年金や医療介護などにかかる社会保障費は今後も毎年1兆円増加していくことが予測されています。

・このまま賦課方式を続けていていいのか?
・年金保険料の値上げは今程度で大丈夫なのか?
・年金支給開始年齢は今のままでいいのか?

年金制度は今のままでいい、と考えている人は誰もいないと思います。

しかし、このあたりのことはどの政党もあまり触れていません。
現実的に選挙戦術的に言えば、参院選で目下優勢が伝えられる自民党があえて言う話ではないのはわかります。
でも耳障りのいい話ばかりではなく、こういう国民に負担を求めるような耳の痛い話ができる人が誠実な政治家なんだろうなと思います。

運用実績が悪かったら騒いで、良かったら何も言わないというのではなく、運用実績が良くて余裕がある今こそ制度のあり方そのものを考えたいものだと思います。



今回は以上です。

もっと日本が良くなりますように。

 


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