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「消費増税の条件、景気回復はどこまできたか?」 ~銀行融資姿勢の方針転換とは?~

「消費増税の条件、景気回復はどこまできたか?」 ~銀行融資姿勢の方針転換とは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

「消費税をこのタイミングで上げるべきか?」という議論がありますね。
景気の先行きはどう見ればいいのでしょう?



■消費増税先送り論の背景は?

最近になって、「消費税を今このタイミングで上げるべきなのか」という議論があります。「増税時期を延期すべき」とか「毎年1%ずつ上げよう」といった案が浮上しています。なぜ、今そんな議論が出るのでしょうか?

「デフレ脱却・景気回復」を旗頭にしている安倍政権が恐れているのは、消費増税することで消費が止まり、経済成長がマイナスになることですね。
増税が決まると駆け込み消費が起きます。駆け込み消費というのは消費の先食いですから、今年は良くても必ず翌年にはその反動で消費が減退します。

地デジ移行後に薄型テレビが全く売れなくなったように。
GDP(国内総生産)のおよそ6割を占める消費が減速したら、GDP成長率はほぼ確実にマイナスになります。経済成長+増税で税収を増やして財政再建の道筋までつけるというシナリオはその時点で失敗、ということになってしまいます。

今、速報でGDP成長率が年率2.6%のプラスになっていて、ようやく景気回復への兆しが少し見え始めてはいますが、消費税を増税してもその成長が止まらないほど経済の足腰はまだしっかりしていないのではないか?というのが「消費増税先送り論」の論調ですね。



■景気回復はどこまで進んでいるのか?

景気回復ってそんなすぐにできるものではありません。時間はかかります。

景気が良い状態とは消費活動と生産活動が双方活発になって、世の中でお金が回っている状態のことですがそのプロセスは次のような感じです。


↓↓↓
・企業が事業収益を期待して、設備投資をしたり、在庫を増やしたりする。
・それを売上にして収益を上げる。
・収益が上がると社員へは給料と言うカタチで還元される。上場企業なら株価も上がる。
・そうして個人が得た所得をまた次の消費に回す。
・さらにモノが売れて、企業はまた在庫を増やしたり、設備投資をしたりする。
・持続的な景気拡大へ

・・・というのが景気の好循環サイクルですね。

今はまず意図的に市場にお金を増やし、デフレ状態を解消して消費者の消費や生産者の設備投資などを促しています。
これがアベノミクス第1の矢である『金融緩和』なのですが、今まだ最初の「お金を市場に流す」というところで詰まっています。銀行貸し出しが伸びていないのです。


<日銀緩和 融資波及鈍く 預金、貸し出しに回らず6月、銀行の預貸率最低> (2013年8月16日付 日本経済新聞)

『日銀の異次元緩和効果の銀行融資への波及がまだ見えない。国内銀行の預金に対する貸出金の比率(預貸率)は6月に70.4%と四半期ベースで過去最低を更新した。中小企業の取引先が中心の信用金庫は初めて50%を割った。企業の設備投資需要には回復の兆しがあるが、大企業は手元資金が豊富で貸し出しが伸びにくい。成長分野への融資拡大が求められる。』


「預貸率」とは、銀行が集めた預金の内、どれくらいが貸し出しに回っているかという割合のことですね。景気がよくなってお金が回っていれば預貸率は高くなり、景気が停滞していてお金がまわっていなければ預貸率は低くなります。日銀は金融緩和の手法として、銀行から国債を購入することで銀行に大量の資金を供給しています。お金を回すためにはその資金は銀行が貸し出しに回してもらわないといけないのです。
しかしこれが伸びていないんですね。これでは景気拡大の一歩目である金融緩和の効果はまだでていないと言われても仕方のない状況だと思います。



■割と画期的!銀行貸し出し姿勢方針の転換

そこで政府としては、銀行の貸し出し姿勢を後押しする方針のようです。
↓↓↓

<成長企業 融資しやすく 金融庁検査、銀行の査定尊重 不良債権処理優先を転換>(2013年8月17日付 日本経済新聞)

『金融庁は独自の基準に基づいた画一的な銀行検査を見直す。1990年代はじめのバブル崩壊後の不良債権処理を目的としてきた検査を転換。融資先が健全かどうかの判断は銀行に大部分をゆだねる。銀行がリスクをとりやすくなり、技術力はあるのに決算上は赤字になっている中小・ベンチャー企業がお金を借りやすくなる。日本経済の成長を後押しする効果もねらう。』

この金融庁の方針転換は結構画期的なことだと思います。そもそも金融庁とは、銀行のバブル後の不良債権処理を加速させるために1998年に設置されました。その存在機能は「銀行の融資先に対する厳格な監視・監督」です。金融庁の検査は厳しくて、金融庁の検査で「この貸し出しは不良債権」とみなされると銀行はその企業への新規融資はもちろんできなくなるし、貸し倒れに備えて引当金も積まないといけません。金融庁の管理下に入った90年代後半からの10数年間で銀行はすっかり慎重になってしまい、これが景気回復のブレーキ役にもなってきたとも言われています。

この方針が転換されようとしています。
「もうバブル期のように甘い自己査定が原因で銀行の経営が揺らぐリスクは遠のいた」「金融危機が去って銀行の体力が回復したのに融資が伸び悩む背景には、金融庁検査で細かく銀行を拘束しすぎる弊害がある」(金融庁)という判断だそうです。

安倍政権としてはアベノミクス第3の矢である「成長戦略」の中で、成長分野としたい再生可能エネルギーや医療、農業向けなどに取り組むベンチャー企業などへの融資を増やすための地ならしでもあるのでしょう。そうはいっても長年に染みついた銀行の審査姿勢が急に変わって、一気に融資が増加するとはとても思えませんが、銀行が自分でリスクを判断して、成長意欲のある企業などに融資を推進することは金融機関として望ましい姿です。時間はかかるかもしれませんがあるべき金融システムに向かうことは経済環境を整えるという意味ではいいことだと思います。



■消費増税はどうなるか?

消費増税がどうなるかはわかりません。確かに景気回復はまだよちよち状態です。

ただ個人的には、もう「来年4月から8%への消費増税」というのは市場では織り込まれているので、今となっては「上げない」という結論を出す方も弊害は大きいのではないかと思います。
難しい判断ですね。

いずれにせよ日本の財政は時々刻々と厳しくなっています。日本が国際的に信認を失ったら本当に怖いことになります。子供たちによい国を残すためにも、早めに手を打ちたいものです。


今回は以上です。

次回もっと日本が良くなりますように。

 


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