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「なぜ消費税でなければダメなのか?」 ~直接税と間接税の違いとは?~ 

「なぜ消費税でなければダメなのか?」 ~直接税と間接税の違いとは?~ 

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

消費増税の議論がいよいよ大詰めです。
今回は私見ですが、「なぜ消費税なのか?」を考えてみたいと思います。



<消費税「予定通り増税」7割 聞き取り終了 景気対策 要望相次ぐ>
(日本経済新聞 平成25年9月1日付)
『消費増税の影響を検証する政府の集中点検会合が31日終了した。有識者60人のうち、7割超の44人が予定通り消費税率を2014年4月に8%に引き上げることに賛成だった。一方で景気への悪影響を緩和するため、税率の上げ幅を変えるべきだとの意見も出た。安倍晋三首相は今後発表される最新の経済指標も踏まえ、10月上旬までに消費税率の引き上げを最終判断する。』
 
この会議は「ほぼ出来レース」という声もあるようで、この結果自体は決して世論を反映したものではないかもしれません。ただ様々な意見があって議論されることは私たち国民にも税について考える機会をもらっていることになるのでとても良いことと思います。
 
私も、ことここに至っては、予定通り消費増税をするべきと思います。この有識者会議の中で「上げるのは今ではない」という意見がありました。景気腰折れの可能性を考えると増税時期は先送りした方がよいのでは、という意見ですが、これは理解ができます。

ただ、反対意見の中に、「消費増税そのものに反対!」という方もいらっしゃいます。反対の理由としては、「格差が広がる」とか「低所得者への影響が大きい」などといったものです。こういう方は大体、「消費税ではなく、企業や高所得者への課税を強化すべし!」と言います。

私は、これにははっきりと反対です。
考えないといけないのは直接税と間接税との性質の違いです。消費増税反対の人が言う、『法人税や所得税などの「直接税」を増やして、消費税などの「間接税」を増やさない』というのは今、そしてこれからの日本にはそぐわないと思うからです。



■直接税と間接税の違いとは?
 
「直接税」と「間接税」の違いをおさらいします。
「直接税」とは、税金を納める人とその税金を負担する人が同じである税金のこと。所得税や法人税などがそうですね。稼いだ人が稼いだ分に応じて直接、納税します。
「間接税」とは、税金を計算して収める人とその税金を負担する人が異なる税金のこと。消費税や酒税やたばこ税などがそうです。間接税の場合は、事業者が物やサービスの価格に税金を上乗せしてその分を計算して納税しますが、実質的にその税を負担しているのは消費者です。間接的に消費者が税負担をしているわけですね。
 
過去、日本はずっと「直接税>間接税」でした。間接税の代表である消費税が導入されたのは平成元年です。まだ25年しか経っていません。それまではずっと法人税と所得税が中心でした。でも昭和の時代は直接税中心でよかったのです。
あの頃は、日本の経済が高度に成長していたので企業も国民も順調に収入を増やしました。だから法人税や個人の所得税などの「直接税」だけでも安定的な税収があったわけです。
 
それが、経済が成熟し、高度成長から低成長の時代になるともう誰もが収入を増やすということができなくなります。伸びる企業もあればダメになる企業も出ます。個人でも稼げなくなる人も出てきます。いつまでも働けるという保証もありません。平均的な給与水準も下がってきました。
 
そうなると、直接税の税収は当然不安定になります。平成に入って以降、ずっと景気後退期が続いた日本がまさにそうでした。
直接税の収入が不安定になりますと財政が厳しくなりますから、税収を回復させるためにも景気を良くしようと断続的に景気対策を打ちます。財政出動を繰り返し、財政はどんどん悪化していきます。
つまり、経済が高度成長から低成長時代に入っているにも関わらず、景気に左右される直接税中心のままの税収体系が日本の財政をここまで悪化させたという側面があるわけです。
 
中小・零細企業の8割は赤字とも言われています。赤字法人は法人税を払っていません。バブル後の不良債権処理はとっくに終わっている大手銀行の多くもいまだに法人税を納めていません。個人所得も減り続けています。生活保護を受給する世帯は増加の一方です。

さらにこれから高齢化が進むと、所得税を負担しない世帯は今後ますます増えていきます。
低成長時代にはいっている日本はすでに直接税では財政を賄えなくなっています。だから税体系を消費税などの間接税主体に切り替えていかなければいけないのに、消費税反対論者の皆さんがいうように「大企業や高所得者へのさらなる課題を!」、つまり、「さらに直接税割合を強めよう」という方向性には無理があると思うのです。



■国民の半数でもう半数を養うのは無理

8月29日に新聞各紙は一斉に日本の生産年齢人口が減少したことを伝えました。

<現役世代の負担一段と 生産人口8000万人割れ 「団塊」の年金重荷 財源・歳出見直し不可避>(日本経済新聞 平成25年8月29日付)

生産年齢人口というのは15歳~65歳までの人口です。要するに働き手がどんどん減っているということです。
今、日本では、非正規雇用やフリーターも含めて働いている人の割合を示す就業率は56%です。景気の低迷とともに高齢化が進んでいるから仕方がないのですが、国民の半数近い44%の人は働いていません。

高齢者の方の年金・医療・介護の費用や働いていない人の生活保護や社会保障にかかる費用などを、どんどん減っていく働き手たちの所得税やその人たちが働いている企業の法人税だけに頼っていくのは無理があります。労働者世代への負担がこれからどんどん大きくなりすぎていってしまいます。今の子供たちが大人になったときにどれほどの不公平感を持つことでしょう。

「働いても働いても税金で持って行かれるような国では働きたくない」という若年が増えてしまうかもしれません。真面目な働き手や雇用を生み出してくれる稼げる企業を日本の外に追いやるような税体系では国力が落ちるばかりです。

 消費税などの間接税はお年寄りも含めて国民全体が負担する税です。
直接所得を得る人が減って行くのだから、これからの日本は間接税の割合を増やしていく必要があるのではないか、と思うのです。



■消費税を20%にするまでのスケジュールを出すべきでは?

日本の財政の現状から、将来的には欧州各国なみに15%以上にならざるを得ない、とも言われています。5%を8%にするくらいでワーワー言っている場合ではないんです。軽減税率や逆進性緩和のための給付金などは消費税が15%超えてからのことだと思います。
むしろちゃんと計算して消費税が20%必要となったら、もうそうすると決めたらいいと思います。そしてそのスケジュールをバーンと出してしまった方がいいのではないでしょうか。
税体系の組み換えなので所得税や法人税の直接税の減税も考えないといけないかもしれませんが、要するに「国の税体系と財政を〇年かけてこうします」とはっきりと決めた方がいいと思うのです。
その方が私たちも準備ができます。もし途中で財政が好転したら増税スケジュールをやめればいいのです。

前述のとおり、確かに生産年齢人口は減少しています(平成24年:7990万人→平成25年:7971万人)が、
実は、実際に働いている労働者数はプラスに転じています(平成24年:5492万人→平成25年:5502万人)
少し景気が良くなっているということだと思います。

このタイミングで消費税はさっさと上げて、秋の臨時国会はもっと大事な成長戦略をどうするかという議論に移ってもらいたいものです。


今回は以上です。

もっと日本が良くなりますように。

 


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