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『地方銀行の再編は不可避なのか?』 ~地銀は地方経済の構造的変化にどう立ち向かうべきか??~

『地方銀行の再編は不可避なのか?』 ~地銀は地方経済の構造的変化にどう立ち向かうべきか??~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

今回は経営環境の厳しい地方銀行さんについてです。
「ピンチはチャンス!」と行きたいですね。

■地方のお金が都心部に移動!?

先日、不動産コンサルタントの方との雑談で、「地方銀行は大変ですね」
という話が出ました。
「アベノミクス効果か、相続税の増税対策かわかりませんが、最近地方の地主さんやその息子さんが地元の不動産を売って、東京の収益マンション
などを買う案件がすごく増えています。『預金が出ていく!』って地銀の担当者が泣いていましたよ。」ということらしいです。

こういった不動産資産の「地方→都心への組み替え」はひとつの要因に過ぎませんが、実際に地方のお金が徐々に都心へ移動しているようです。
↓↓↓

<個人預金、地方伸び悩み 相続や人口減で 地銀再編を左右>

(平成26年2月3日付 日本経済新聞)
『地方の銀行で個人預金の伸び悩みが目立ってきた。全国銀行の2013年末の個人預金は424兆円と前年末に比べ3.5%増えたが、都道府県別にみると高知県
は2年連続で減り、北海道などは1%台の低い伸びだった。人口減や遺産相続を背景に都市部で預金が集まりやすくなり、対応を急ぐ銀行も出てきた。
個人預金の集散が地銀の再編を左右しそうだ。』

全体で個人預金が3.5%増加しましたが、内訳をみると、東京や神奈川が6%ほども伸びたのに対して、高知が0.3%減少、北海道、和歌山県、秋田県、青森県の伸び率はわずか1%台にとどまったとのことです。

要因として考えられるのは、地方から都心部への「人口移動」と地方の「高齢化」ですね。
総務省は、2013年度の人口移動報告で「昨年、東京圏へ約9万6000人が流入した。
人口集中が加速している。」と発表しました。逆に地方は人口が減少するとともに高齢化が進んでいます。
個人預金の大半は高齢者が保有していますが、高齢者は預金を取り崩しながら生活しています。また相続が起きると都市部で働く子世代に資産が移転します。
このようにして、地方の金融機関からお金がどんどん流出する傾向は今後ますます加速するとみられています。


■地銀を取り巻く事業環境は?

銀行のビジネスモデルは、預金者から集めたお金を企業や個人に貸し付ける時の預金者への利息支払いと貸付先からの利息収入の差で儲けるものです。

単純に言えば、
業務収入=資金量×(貸付金金利-預金金利)ということですね。

これに投資信託とか債券売買とかの収益が加わります。
要は、
いかに低コストで預金を集めて(調達)、より高く貸し出し(運用)できるか
の勝負です。
上の「貸付金金利-預金金利」のことを「利ざや率」といいます。利ざや率が大きい銀行ほどよく儲けているということになります。
ちなみに、今の地方銀行の「総資金利ざや率」の平均は「0.25%」(運用:1.30%、調達:1.05%)です。
(全国銀行協会統計より:平成25年中間期時点)

うす~い利益幅でやっていますよね。
この今でも薄い利ざやがこれからますます薄くなりそうな状況だから「地銀は大変」なのです。

個人預金の流出は、今までのように、さほどコストをかけず預金が自然と集まってくるような時代が終わったことを意味しています。
預金の流出を防ぐための対策として、金利を高くした定期預金の投入に踏み切った地銀もあります。これは銀行にしてみれば、「調達金利の上昇」ですね。
高い利息を付ければ預金は集まるかもしれませんが、それをより高い金利で運用できなければ利ざやはさらに悪化して、地銀の経営を圧迫することになります。

調達と運用のバランスをみてみます。
預金の内どれくらいを貸し出しに回せているか、という「預貸率(よたいりつ)」」の地方銀行の平均は「70.6%」です。預かったお金のうち、貸し出しに回せているのは7割で3割は余っているわけですね。

長引く不況の影響もあって地銀の貸し出しはずっと厳しい状況が続いています。
地銀の優良顧客だった地場ゼネコンは公共事業の削減でリストラが続いています。
農家は高齢化が進み元気がないし、地元の中小企業は設備投資も在庫の積み増しもできる状況にありません。大手企業の工場の多くも海外へ移転しました。

貸し出しできずに余った資金にもコストがかかっていますから遊ばせておくわけにはいきません。では何で運用しているかというと、一番は日本の「国債」ですね。
こうして貸し出しの減った地銀の国債保有額は全体で40兆円を超えました。過去10年間で倍増です。
これが今大きなリスク要因になっています。
昨年来、日銀の異次元の金融緩和で国債金利が低下しています。10年物は0.6%程度まで下がっています。
地銀にとっては「運用利回りの低下」ですね。
「余った資金はとりあえず国債で運用しておけばある程度の利益は上がる」
という時代ももう終わったのです。


■地銀の再編は不可避なのか?

ここ20年くらいで日本経済の構造が変わったことで金融業界の再編は進みました。
1989年時点で23行あった都市銀行や長信銀、信託銀行などの大手行は、7行に集約されました。
また旧相互銀行である第二地銀も、68行から41行に減りました。
でも、地銀は減っていません。統廃合はありましたが、銀行数でいうと1989年と同じく今も64行あります。
地方の経済力に対して地銀がオーバーバンキングになっている可能性が高いことから、再編が予想されているわけですね。

このじわじわと迫ってくる危機的状況を打ち破るにはどうすればよいのでしょうか。
そんな簡単に答えが見つかれば苦労はしませんが、ひとつ間違いなく言えるのは、「資金運用力を高めない限り先はない」ということです。
いくら預金金利を高くして預金流出を止めて「調達」をまかなったところで、「運用」が出来なければ利ざや率を悪化させるだけです。
運用といっても単純に債券を買う、ということではなくて、融資能力を上げることです。
でも単純な融資合戦をしても、すでに統合を終えて規模の経済パワーを持つメガバンクには勝てません。「量」での勝負はもうついています。

「多様性に富む地域金融ニーズに対応したきめ細やかなサービス」といったような「質」で競争するしかありません。地銀の強みは「地域密着」です。
地元顧客との接点をさらに増やしましょう。顧客関係性をさらに強くしましょう。

地銀の役員クラスの方がこう嘆いていました。

「今の行員は長年貸し出ししてこなかったことで融資能力が劇的に落ちている。
顧客のビジネスを知り、財務分析で仮説を立てて、経営改善のため支援をする、という銀行員の基本行動が出来なくなっている。」

もともと地銀には地元の優秀な人材がいっぱいいます。
国債を買ったり、投資信託を売ったりといったその場しのぎの施策ではなく、行員がもっと企業経営に関わって、課題分析力・課題解決能力を高めることで地銀のビジネスチャンスはまだまだ広げられるはずです。
地域中小企業のきめ細かい資金ニーズにメガバンクはなかなか入り込めません。
ビジネスマッチングや事業承継からみのM&Aなど地方銀行ならではの貢献が期待される分野もあります。いずれ地銀の再編が進むにせよ、各地銀がそれぞれの地域企業を支えていれば、広域で連携した時にはマッチングなどのビジネス機会が生まれてくると思います。

冒頭の不動産コンサルタントはこうも言っていました。

「逆に、海外や都心部の投資家は高利回りを狙って地方の収益物件を探しています。
また地方の特産品プロジェクトなどへの投資意欲も高いです。何かいい話ないですか?」

お金が都心部に流れるのを嘆くだけでなく、世界のお金を呼び込むことも地銀の使命です。
小粒でも力強く魅力的な産業を育てる役割を担っていただき、地方経済を元気にしていただきたいものだと思います。

今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。

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