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『日本の経営者は賃上げするつもりがない、ってホント?』~ネガティブな「気」に惑わされずに行きましょう!~

『日本の経営者は賃上げするつもりがない、ってホント?』~ネガティブな「気」に惑わされずに行きましょう!~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

今回は「賃上げ」についてです。
さて、私たちはどう考えたら良いのでしょうね。

アベノミクスの今後の成否は「賃上げ」にあると言われています。

4月の消費増税後も経済を拡大させるためには「消費が落ちない」ことが必須です。
そのために政府は企業に向けて、「景気は上向いています!賃金を上げましょう!」ということを喧伝しています。

賃金が上がることは私たちにとっては単純に「嬉しいこと」ですね。そしてそれが景気の好循環につながるのなら、できれば上がってほしいと誰もが願っていると思います。


■「日本の経営者は賃上げするつもりがない」?

でも、こういう時には必ず逆の報道がなされるんですよね。
↓↓↓
<経営者の賃上げ意向 日本、アジアで最も消極的 英社調べ>
(2014年2月5日付 日本経済新聞)

『日本の企業経営者の賃上げ意向はアジア主要国で最も保守的――。
英人材紹介大手ヘイズが実施したアジアの給与調査によると、2014年に従業員の平均賃金を「前年比で3%超上げる」と答えた企業は日本企業全体の24%で、アジア平均(69%)より大幅に低いことが明らかになった。春闘では賃金水準を底上げするベースアップ実施が焦点だが、経営者は固定費増につながる賃金改定にはなお慎重なようだ。』

ヘイズ社というところが、日本、マレーシア、シンガポール、香港、中国の5カ国・地域の約2600社に聞き取りをしてまとめた調査だそうです。

「2014年度に前年対比3%以上賃上げする」という企業がアジア諸国では「69%」だったのに日本では「24%」しかいなかったと。
日本は賃上げ率「0~3%以下」という回答が64%で最多。「0%(賃上げしない)」も12%もあった、と記事は続いています。

さて、この記事を読んでどう思われますか?
「やはり日本の企業は賃上げ意欲がない。日本企業の業績は回復してきているのに賃上げしないとは貯め込み過ぎではないか。これでは到底景気なんて良くならない。」・・・という声が聞こえてきそうです。

個人的意見ですが、この記事はあまり良いものとは思えません。
「日本の経営者は賃上げ意欲がない」という結論が先にあるようで、事実を客観的に報道するという姿勢に欠けているように思います。


■前提条件が違うものを比較しても・・・

まず、調査対象の企業規模や業種、各国のサンプル数などがはっきりしていません。
5か国・地域で2600社の調査とありますが、各国均等なサンプル数なんでしょうか。
大企業なのか、中小企業なのか。飲食業なのか、建設業なのか、IT関連企業なのか。
ただでさえ産業構造や生産性が違う国同士を比較するのは難しいものがあります。業種や規模などにもし意図的な片寄りがあれば結果は全然違ってきます。

それに、賃上げの判断基準のひとつでもある「インフレ率(消費者物価上昇率)」が考慮されていません。
つまり「名目」と「実質」の違いです。「実質賃金=名目賃金-インフレ率」ですね。
賃金が3%上がったとしても、物価が3%上がっていれば実質の賃上げ率は「0%」です。逆に、賃金が上がらなかったとしても、物価が3%下がっていれば、家計にとっては実質「3%」賃上げされたのと同じ効果があります。

ちなみに調査対象各国の2010年~2012年までの3年間の平均のインフレ率は以下の通りです。

・マレーシア :2.25%
・シンガポール :4.50%
・香港 :4.13%
・中国 :3.80%
・日本 :-0.26%

日本以外はすべて物価が3%前後上昇しています。
物価が上がったから賃金を上げるのか、賃金を上げているから物価が上がっているのかはわかりませんが、日本以外のアジアのどの国も3年連続して3%程度のインフレが続いています。
そういう国では3%以上賃上げしないと実質では賃金上昇率はマイナスになってしまいます。それなら7割近くの企業が「3%以上賃上げする」と答えるのも当然ですよね。

日本はずっと物価上昇率がマイナスのデフレ状態です。これだと、「賃上げしない(0%)」というのも無理もないということになります。
IMF推計値では、日本はようやく2013年度にインフレ率「0.68%」とプラスに転じます。
それなら、利益が上がった企業から「そろそろ1~2%くらい上げていこうかな」と思い始めても不思議ではないようになった、というレベルです。

言いたいのは、「前提条件がはっきりしないものや全く違うものを比較しても何の意味もない」ということです。


■景気は「気」から ポジティブな「気」が大事

「賃金が上がるかどうか」は確かに日本中の関心事ではあります。
ただ、じっとしていればいつか上がるものではありませんし、またインフレになれば必ず上がるものでもありません。

賃金が上がるのは、会社が儲かってこそ、です。会社の収益を社員数で割った「一人当たり利益」が増える、すなわち「生産性」が上がれば、結果としてその後に賃金は上がるものです。

上場企業の2014年3月期決算見通しが出始めていますが、多くの企業が好業績を出すようです。製造業などの生産性も高まっています。おそらく今年の「春闘」では多くの業界で賃上げの方向が出されると思います。それでも、「それは大企業だけの話で、中小企業は上がらない。」という悲観的な声もあります。これは当たり前のことですね。
業績の好転、生産性の向上、ひいては賃金の上昇というものは波及するのに時間がかかるものです。
まず大企業から。中小企業はその後、というのは普通のことです。

「賃上げってホントにあるのかな~」「アベノミクスなんて上手くいくのかな~」と報道を見ながら一喜一憂したところで何も変わりません。

いつの時でも私たちがやるべきことは、「自分の与えられた持ち場で、真面目に働いて、生産性を上げること」に尽きます。
過度に将来を悲観して縮こまる必要などなくて、明るい展望を持つことではないでしょうか。
そして暮らし向きに合わせて必要なものを必要な時に適度に消費もする。そのうち、世の中全体の需要が高まってくれば、デフレが解消されインフレにもなっていくでしょう。

景気は「気から」と言われます。「気」の持ちようで変わる部分も大きいのです。社会全体がネガティブな気持ちでは景気は良くなりませんね。明るく前向きに行きましょう。

今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。

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