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『異次元金融緩和の先にあるものはなにか?』 ~日銀はどう異次元緩和を収束させていくのか?~

『異次元金融緩和の先にあるものはなにか?』 ~日銀はどう異次元緩和を収束させていくのか?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

今回は「金融緩和」についてです。

さて、もう一段の「異次元緩和」は発動されるのでしょうか?

 

■異次元金融緩和から1年

アベノミクスの「第一の矢」である「金融の異次元緩和」が発動されてから1年が経ちました。

一年前の2013年4月4日の日銀金融政策決定会合にて、「マネタリーベースを2013年末に200兆円(うち長期国債140兆円)、2014年末に270兆円(うち長期国債190兆円)にする」ということを決定しました。

この1年間で、130兆円程度だったマネタリーベース(←お金の総量のことですね)は、2014年3月末時点で予定通り200兆円を超えました。

また、長期金利は1%を切って、最近は0.6%程度というかつてない低水準で安定しています。

 

「金融緩和」とは、市場に資金を潤沢に供給することで、金利を低く抑えながらお金の巡りを良くして経済を活性化させようというものですね。お蔭で今は企業も個人も低い金利でお金が借りやすくなっています。

 

今、日銀はこの金融緩和を、金融機関などから国債を買い入れ、その代金を各金融機関が保有している日銀当座預金に入れるという形で実施しています。狙いは「経済活性化によるデフレ脱却」ですから、黒田日銀総裁は、「物価上昇率が2%になるまで金融緩和を続ける」としています。

 

この日銀の一貫した姿勢に市場は安心しています。

金利は急には上がらないだろうし、追加でマネーは出てくるはずでしょう。現実にはまだまだ銀行貸し出しが伸びていなくてお金が市場に回っていない、といった指摘もありますが、効果はさておき緩和姿勢そのものが市場の安心感につながっているのは事実です。

 

■さらにもう一段の金融緩和が?

そして、最近の話題は「日銀はもう一段の追加緩和をするのか?」ということです。

消費税が増税されて、その反動で経済が落ち込まないように政府は動いています。公共工事も追加で実施します。ここで経済を停滞させるわけにはいきませんから、デフレ脱却への強い意思を市場に示そうとするのではないか、という観測です。

 

金融緩和は原則的に経済にはプラスですから悪いことではないのですが、しかし、そろそろ考えないといけないことがあると思います。

 

■緩和は止め時が難しい

それは「いつ、どのように金融緩和を止めるのか」ということです。

 

日本(というか日銀?)には苦い思い出があります。2006年に量的金融緩和を解除したときに長期金利が上昇したことです。当時も今と同じように、日銀は景気回復を支えるために2001年から市場に資金を供給する「量的金融緩和」を導入していました。

2006年3月に「解除はまだ早いのでは?」という市場の不安を抑えて量的緩和を解除した結果、10年国債利回りが上昇。その後、再び景気が減速してしまったことで、日銀が戦犯的扱いを受けました。

 

アメリカでも同様のことが起きています。

2013年の暮れに、アメリカが「金融緩和を段階的に縮小する」という方針発表をしたら、新興国の株価が暴落しました。日本の株式市場もその影響を少なからず受けましたよね。

アメリカが金融緩和を縮小することで、世界中に流れていたドルマネーの流れが減るだろうという連想からそうなったわけです。

アメリカは経済的には力強く回復していて株式市場も好調ですが、それでもイエレンFRB議長は量的緩和をどうやめていくかについて慎重に市場と対話をしています。

 

今の日本も同じ状況です。

日銀の国債買い上げですでに長期国債金利は0.6%。

国債はすでに流動性を失っていますので金利は実は急騰しやすい環境にあるとも言えます。

金融緩和をいつ、どうやってやめるのか、いわゆる「金融緩和の出口戦略」は実はとても難しい問題なのです。でも、黒田日銀総裁は国会で「金融緩和の出口戦略を考えるのは時期尚早だ」と明言しています。

 

■日銀は買い入れた大量の国債をどうするのか?

日銀の国債買い入れのおかげで、日銀の国債保有率はどんどん増え、逆に民間金融機関の国債保有率はどんどん下がっています。

金融機関にしてみれば採算性を考えると、0.6%台の利回りでは10年物国債は買いにくい。それでも買うのは間違いなく日銀が買ってくれるからですね。

もはや日銀は唯一の買い手なのです。

さて、日銀は買い入れた大量の国債をどうするのでしょうか?

理屈で言えば、買った国債は景気回復後に再び市場に売りに出せばよいのですが、そんなことは不可能に近いでしょう。

ただでさえ、取引が減っていて金利が急騰しやすくなっているのに、もしそこに、「日銀が国債を売る」となると、そんな噂が出ただけで国債の相場は暴落(金利は暴騰)するでしょう。

もし今、金利が高騰したら、まだ回復途上の日本経済はまた一気に冷え込んでしまうことでしょう。「2006年の悪夢が再び・・・」です。

 

現実的には、日銀が保有している国債の償還までの年数は3年から長くても7年程度ですので買い入れ額を減らしながら、償還を迎えていくことになるのでしょう。長い時間をかけて徐々に保有国債を減らしていくことになると思います。つまり、日銀は増えすぎた国債を一気に減らすことはできないのです。

 

■追加緩和は慎重に

日本は引き続き毎年40兆円以上の国債が新規発行されます。

誰かがまた買わないといけません。唯一の買い手である日銀は償還額を見ながら、新たな国債も買い入れていくことになります。この後、景気回復していったらマネタリーベースを減らしていかないと物価上昇が止まらずにインフレになってしまいますので、日銀は、金利上昇とインフレを制御しながら、新規国債を買い入れつつも長期国債の残高を減少させてマネタリーベースを減らしていくという、考えただけでこんがらがりそうな離れ業を数年かけてやっていかないといけません。金融政策の出口戦略って簡単ではないですね。

 

今の低金利は、デフレを背景にした国債バブルの結果です。アメリカをはじめとして世界的に景気が回復して金利が正常化する中で、金融緩和の出口戦略をどうとるかはとても重要なテーマになっており、すでに市場はそこを注目しています。

 

個人的にはすでにマネタリーベースは十分だし、日銀の国債保有残高も、金利0.6%も行き過ぎていると感じています。「2%物価上昇」が見えるなら、追加緩和は止めて、出口戦略について議論をした方が良いのでは、と思っています。

今のままではひょんなことから思惑で金利が急騰しないとも限りません。

 

今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。

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