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「相続税課税強化、高齢者資産はどうなるか?」~大増税時代の動向に注意しよう~

「相続税課税強化、高齢者資産はどうなるか?」~大増税時代の動向に注意しよう~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。




こんにちは!ハイアス・アンド・カンパニーの川瀬です。

昨年末に2011年度の税制改正大綱について書きました。
今回はその中でも目玉的改正である「相続税の課税強化」について見てみたいと思います。

「相続税がかかるのは一部の富裕層だけでしょ?ウチは資産なんてないから相続なんて関係ないよ。」
こんな考えが遠い過去のものになるかもしれません。

昨年12月に発表された「2011年度税制改正大綱」の中でも特に大きな動きがありそうなのが「相続税」です。資産を持っている方への課税ベースを拡大して課税を強化するとともに若年層に対する贈与税負担を緩和する方針です。


■相続税はどう変わるのか?

相続はどこの世帯にも確実に起きますが、ただし相続税が課税されるのはその内わずか4%の人しかいません。
残りの約96%は相続で財産を受け継いだとしても相続税はかかってきません。なぜなら相続には「基礎控除」があるからですね。相続税はその基礎控除額を超えた財産部分に対してかかってきます。

現行制度での基礎控除額は、「5,000万円+相続人一人につき1000万円」です。
例えば、お父さんが亡くなって、相続人がお母さんと息子さん2人の合計3人の場合の基礎控除額は、

5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円です。

この場合、お父さん名義の財産の評価が8,000万円以下なら相続税はかかりません。
8,000万円を超える部分に対して、累進で10%~最高50%までの税率で相続税がかかってきます。

今回の改正案はこの「基礎控除額の縮小」です。
改正後には、基礎控除額は「3,000万円+相続人一人につき600万円」になります。
先のお母さんと息子さん2人の相続人3人の場合の基礎控除額は、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円、になります。

基礎控除額を相続人数別に試算すると以下のようになります。
相続人1人:(改正前)6,000万円→(改正後)3,600万円
相続人2人:(改正前)7,000万円→(改正後)4,200万円
相続人3人:(改正前)8,000万円→(改正後)4,800万円
相続人4人:(改正前)9,000万円→(改正後)5,400万円

また課税資産2億円超の税率も上がりますのである程度の資産がある人には確実に増税になります。
政府の試算によると、この改正で相続税の課税対象は「4%」→「6%程度」まで増加、相続税を納める相続人は「約6万人」も増加するようです。

昔は、相続税といえば大企業の役員クラスや大地主だけが対象だったのが、大企業の部長さんクラスとか都市部の地価の高い地域に自宅を持っている人くらいまで対象になってくるかもしれません。


■こんなケースは要注意!不動産の扱いがポイント

日本人はその資産のおよそ70%を不動産で所有しています。
ですから相続に備えるということは「親名義の不動産をどうしておくか」ということがポイントになります。
例えば、両親だけが住んでいる自宅や自営業で使っていた宅地の扱いは特に注意が必要です。

以前は、親の自宅は一定面積までその評価額を「80%減額」(事業用は50%)できたのが、昨年以降、相続人(息子など)がその自宅に住まない場合(または事業を継続しない場合)には減額が一切認められなくなりました。
(「小規模宅地等についての相続税課税価格の計算の特例」平成22年4月1日以降相続より施行)

お父さんがお亡くなりになった時に母さんがご健在であれば「配偶者税額控除」という制度があるので、遺産の分け方を工夫すれば、相続税を抑えることはできます。

しかしすでにお一人になっている親が住んでいる自宅の相続を受ける場合には思わぬ金額の課税をされる場合がありますので要注意です。

不動産は評価が難しいのと切り分けにくいので相続時にはよくモメます。
例え相続税がかからない場合であっても、誰が受け継ぐかで兄弟間でモメることもよくあります。不動産はお父さんがお元気な内に誰がどういう形でどの資産を受け継ぐかを話しあっておくことも大事だと思います。

不動産はその立地や形、所有の仕方などで評価が大きく変わります。ちょっとした対策で相続税の評価額を下げることができたりします。
ここは専門的な知識が必要なところですから、早めに相続に詳しい不動産会社さんか不動産に詳しい税理士さんに相談しておいた方がいいと思います。


■相続税強化は日本だけ?

さて、今の日本の相続税強化の流れですが、国際的な潮流からは逆行している、という批判があります。
イタリア、カナダ、オーストラリアではすでに相続税は廃止されています。
またアメリカ、イギリス、フランスなどでも今後相続税は廃止を予定、または検討中で、一部の国では所得税の減税までも検討されているそうです。
先進各国が相続税や所得税を引き下げる方向へと向かっている理由は、少しでも自国へ富裕層を誘導したいからです。今は国際的に富裕層の取り込み競争が起きているのです。

その中で日本だけはむしろ富裕層を国外へ流出させたいかのような税制改正方針です。人の移動が容易かつ頻繁な欧米諸国と違って、日本は島国で移住が少ないから、と安心しているんでしょうかね?

今回の相続税強化方針には税収を上げたいということもありますが、相続税を強化して贈与税を緩和することで、高齢者に偏在している資産を、生前の早い段階で若い世代への移転を促進して経済を活性化させたいという狙いがあるようです。
日本には高齢者が貯蓄や不動産資産の多くを所有していて、消費の担い手である子育て世代などが資産を持っていないという事情があります。高齢者に偏在している資産を若い世代へ移転させてもっと消費を活性化させたいのでしょう。

でも「将来不安の時代」とも言える今の日本では、例え生前贈与を受けたとしても劇的に消費は増えないでしょうね。
だって強化された相続税が数年後にいずれやってくるわけですから、それに備えておかないといけませんからね。
消費を増やしたいならいっそのこと相続税も贈与税も無税にしたらどうか、と思うくらいです。3年間くらいの時限立法で。
そうすれば一気に資産移転は進むでしょうし、使わないといずれ相続税がかかるのですからその間に消費は確実に増えるでしょうからね。
(←すみません、勝手な印象で申し上げております。詳細に分析しているわけではありませんのであしからず・・・。)

いずれにせよ、この所有資産に対する課税強化の方向性は今後も変わらないと思います。
自分の資産について専門家と相談して、まずは相続税の診断をしておくべきでしょうね。


今回は以上です。次回もお楽しみに!


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