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『信用保証制度見直し、リーマン危機はようやく終焉へ』~中小企業金融は正常な「あるべき姿」を目指す方向に~

『信用保証制度見直し、リーマン危機はようやく終焉へ』~中小企業金融は正常な「あるべき姿」を目指す方向に~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

中小企業向け信用保証制度が見直されるようです。

今回は中小企業金融のあり方について考えてみたいと思います。

 

■中小企業融資の保証 原則80%に戻る

 

景気は明らかに回復してきましたよね。

13年度3月期決算の上場企業の7割が増収増益。前年対比で平均36%も経常利益が増えたそうです。

14年4月の物価上昇率も3.2%とデフレ脱却の気配を見せています。

中小企業も含めた有効求人倍率は4月には1.08倍と17か月連続で増加。様々な業種で人手不足感が出てきています。

 

そんな状況下、「100年に一度の不況」と言われた2008年秋のリーマンショックの後にゆがんでしまった中小企業金融の姿勢も見直されていきそうです。

 

<中小融資の保証縮小 政府検討、全額から原則8割に>

 (2014年5月20日付 日本経済新聞)

政府は中小企業の融資が焦げ付いた場合に国などが肩代わりする公的信用保証を、段階的に縮小する検討に入った。2008年秋のリーマンショック後に特例として認めた全額保証を縮小するのが柱で、約100業種を対象に保証率を危機前の原則だった8割に戻すことを議論する。信用保証は財政収支が悪化しており、国と民間の負担割合を見直す。

 

「公的信用保証」とは、信用力が乏しいために事業資金の融資が受けにくい中小企業に対して、その債務を公的機関(信用保証協会)が保証することで金融機関からの融資をスムーズに受けるようにする公的な金融支援制度です。

もし、その中小企業が融資の返済ができなくなった時には、信用保証協会が保証人として代わりに金融機関に返済(代位弁済)してくれます(債権者が銀行から保証協会になるわけで、債務がなくなるわけではありません)。

 

リーマンショック前までは、保証は融資額の8割まで、対象業種も100業種程度に限定されていました。それが、リーマン後には、経済緊急対策として保証を融資額100%、対象業種もスーパーやサービス業など約1000業種にまで広げて、中小企業の資金繰りを助けました。

 

今、全国の金融機関の中小企業向け融資残高は、約216兆7000億円。(14年3月末時点)

このうち信用保証を使った融資は約29兆8000億円。中小企業融資の約14%、約150万社が信用保証付きの融資を利用しています。

 

■100%保証は金融機関と企業、双方のモラルを下げる

 

当時のこのメルマガでも書きましたが、(ハッピーリッチ・アカデミー54号2008年11月8日)「100%全額保証」となるといわゆる銀行の「モラルハザード」(自己規律の喪失)が起きる懸念があります。

 

従来の80%保証なら万が一の時に銀行側にも20%相当分の貸し倒れが発生する可能性があるので、融資時には(一応)銀行も審査をします。それが、国が100%保証してくれるというなら銀行はもはやノーリスク。

もし、その中小企業の経営が行き詰まって返済が滞ったとしても国が全額補てんしてくれるなら、銀行はどんな会社に対してもいくらでも貸しますよね。銀行がやるのは企業と信用保証協会との書類のやり取りぐらい? と勘繰られそうですが・・・、それで金利収入が得られるのですから銀行にとってもありがたい制度です。

 

まぁ実際リーマンショックの時にはそれくらいの不況インパクトがあったわけで、確かにこの100%保証の緊急経済対策は中小企業の経営破たん防止に一定以上の成果を上げました。

 

ただ、信用保証協会が肩代わりした額(代位弁済額)はやはり増加しました。ここ数年は代位弁済額が徴収した保証料を上回る状態が続き、2012年度は3500億円の収支赤字だったようです。

信用保証協会は公的機関ですから、この赤字分は国が財政支援しています。

つまり私たちの税金ですね。

 

冒頭の記事はこれを「来年(2015年度)から80%保証に戻す」、つまり正常な状態にするとしたわけです。

私はこれはいいことだと思います。長くやりすぎたくらいだと思います。

100%保証はあくまでも「100年に一度の不況」に対する緊急対策だったのですから。

もはや景気はすっかり回復しています。これほどの経済状態の中で今でも経営危機だという会社は、おそらく事業構造そのものが悪いか、時代環境の変化に対応できていないのだと思います。環境のせいではなく、自社の経営改善努力が不足しているとするなら、国が税金を使ってまでその企業を保護する必要があるのかどうか、ちょっと疑問符がつきます。

 

■すでに保証付き融資は減少している

 

今回の見直しで、大企業だけでなく中小企業に至るまでリーマンショックの危機が終焉を迎えたとも言えそうです。6年もかかったのかというとちょっと驚きますが、実態としてはもうとっくに緊急対応は不要になっていたようです。

実は、現実的にはメガバンクなどは最近あまり信用保証制度を使っていません。なぜなら保証制度付融資はそれほど儲からないからです。信用保証を使うと貸し倒れリスクは減るものの、貸出金利も低くなります。今、金融機関の総合利ざや率は0.2%ほどです。1億円を1年間融資しても20万円しか儲けられていない計算です。利ざや率の改善が経営課題である中、通常融資よりもはるかに利ざやが少ない保証協会融資は敬遠されつつあります。

 

■中小企業金融の健全化は「成長戦略」

 

麻生太郎金融担当大臣はこの保証制度の変更について、「民間金融機関の目利き・経営支援を促すため」だと言っています。また「6月にまとめる政府の成長戦略に盛り込む」とも。

 

つまり、この信用保証制度の見直しは、「金融機関の審査能力を上げるため」であり、そして「成長戦略につなげるため」であると政府は考えているということです。

金融機関はみずからがリスクをとって貸し出しその対価として金利収入を得るのが基本。そのためには企業の事業への審査能力が不可欠です。国が100%保証していては金融機関の審査能力は落ちるばかりでしょう。

金融機関の厳しい目が企業を鍛え、産業を育成するのです。そうして、将来性のある企業を金融面で支え、一方で時代に合わない企業の退出を促すこと、これが経済の活性化や成長につながる、ということですね。

 

すでに時代遅れとなり存在価値を失った「死に体の企業」が、金融支援で延命されて生き残りのためにダンピングをしたりして市場を乱し、健全企業の足を引っ張る、といったことはよくあります。

 

金融を正常な姿にすることは市場経済をまともにする成長戦略でもあるという考え方、私は真っ当だと思います。

 

中小企業経営者は、保証なしでも事業資金を貸してもらえるような企業体質作りを目指していかねばなりませんね。

 

今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。

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