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「銀行から見た住宅ローン(その2)」~銀行が住宅ローンに力を入れる4つの理由とは?~

「銀行から見た住宅ローン(その2)」~銀行が住宅ローンに力を入れる4つの理由とは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。




こんにちは!ハイアス・アンド・カンパニーの川瀬です。

今回も前回に引き続き、「銀行にとっての住宅ローンについて」です。
銀行はなぜ住宅ローンに力をいれるのか?今回で全部わかります!

現在の住宅ローンの当初貸し出し金利は、金利優遇を含めると1%台前半のものも多く、すでに銀行の調達コスト1.2%を下回る水準になっています。つまり、貸し出し時点では調達金利よりも運用金利の方が低いという、「逆ザヤ=赤字」の状態なわけです。

それでも金利優遇をして住宅ローンを推進する理由が銀行にはある、というのが前回のお話しでした。
その理由のひとつは「銀行のお金が余っているから」でしたね。
でもまだまだ理由があるんですね。


■理由その(2):住宅ローンの安全度は10倍!なんです

銀行が住宅ローンを推進する理由その(2)は、「住宅ローンは貸し倒れ損失が少ない」からです。
「デフォルト率」ってご存知でしょうか?いわゆる「貸し倒れ率」です。地域にもよりますし時期にもよりますが、ざっくり言いますと一般的には法人向け融資のデフォルト率は「2%~3%」程度です。
それに対して住宅ローンのデフォルト率は「0.2~0.3%」程度。

つまり、企業向け融資にくらべて個人向けの住宅ローンは貸し倒れになる確率が10分の1程度なのです。逆に言えば、住宅ローンは銀行にとって企業向け融資よりも10倍安全な資産ということになります。
また、銀行がローン実行時にお客様からいただく手数料に「ローン保証料」というものがありますが、それが大体「融資額の0.2%」程度です。

つまり、デフォルトがローン保証料の範囲内でしか起きていないわけなのですから、銀行にとってみればほとんど貸し倒れ損失が発生していないということです。(今までのところ、であって今後はわかりませんけどね・・・)
住宅ローンは「自宅」という家族にとって大切なものへのコストです。普通は家族一丸となって返していくものです。

また住宅ローンには返済困窮時における救済措置も多いので、ローン審査時に相当無理やりにローンを組ませない限り、そう簡単にはローン破産なんて事態にはならないと思います。


■理由その(3):家計口座が取れる!

ただし、いくら安全な資産といえども、「赤字」の資産を増やすようでは意味がないように思います。
当初が赤字であっても住宅ローンを貸す理由その(3)は「長い目でみると総合的にメリットがあるから」です。
住宅ローンを組むと通常はその銀行が一生涯付き合う家計口座になります。
給与振り込み口座になりますし、公共料金やクレジットカードの引き落とし口座、子どもの学費の支払い口座にもなるでしょうから大学に入る頃には教育ローンも取れるかもしれません。
退職金を受け取り、そのまま運用してもらえるかもしれないし、老後には年金受取口座にもなるでしょう。

このように自然に家計のお金が集まる仕組みをつくることは銀行にとっては調達コストを下げることにつながります。住宅ローンそのもので儲からなくてもいいから総合的に収益を取ることを銀行は期待しているのですね。


■理由その(4):BIS規制上リスクアセットがいい!

最後の理由その(4)は、「企業融資より住宅ローンを推進した方が銀行の自己資本比率が良くなる」からです。
「自己資本比率」???
ちょっと耳慣れない言葉で難しい話かもしれませんね。
銀行には「自己資本比率規制(通称:BIS規制)」という世界中の銀行が共通で守らねばならないルールがあります。

自己資本比率規制(BIS規制)とは、銀行の財務の健全性を保つために国際金融当局が一律で定めている規制で、融資などのリスク資産を分母に、普通株や内部留保などの自己資本を分子として自己資本比率を計算して、一定割合(国際銀行は8%、国内銀行は4%)を上回るように義務付けているものです。

自己資本比率の計算式は、「自己資本÷融資総額」ですから、自己資本比率を上げたいと思うなら、分子を大きくする(=自己資本を増やす)か、分母を小さくする(=融資総額を減らす)かになります。
そういうわけで、自己資本比率規制が厳しくなると銀行は分母を小さくするために融資額を抑えるので「貸し渋り」や「貸し剥がし」なんてことが行われたりするわけです。
でも、融資額を減らさなくても分母を小さくする裏ワザがあるんです。
(というかそういうルールなので裏ワザでもなんでもありませんが・・・)
それは、「リスクウェイト」というものです。

BIS規制では、資産をリスクの度合いに応じてウェイト付けして査定した上で加重平均します。
一般法人向けの貸し出しは100%評価です。ただ、その企業の信用度が低いなら順次評価額が増えていきます。最大で150%で評価しないといけません。
つまり1億円貸したら、普通の場合でリスクウェイトは1億。最も信用度の低い先への融資の場合には1.5億円で計算しないといけません。

でも住宅ローンのリスクウェイトはなんと35%評価。(←BIS規制バーゼルII基準より)
住宅ローンを1億円貸し出しても、リスクウェイトは35%なので自己資本比率の計算上は3,500万円になるわけです。

だから法人向けの融資を1億円回収して、住宅ローンを1億実行したとすると、BIS規制の自己資本比率計算上は分母(貸出資産)が「1億→3,500万円」に減ることになって、結果として自己資本比率が良くなります。
だから銀行はどうせ貸すならリスクウェイトの低い住宅ローンを推進するのです。
住宅ローンのリスクウェイトが法人向け融資よりはるかに低いのは、前述したとおりデフォルト率が低いからですね。

ちなみにこの銀行の融資姿勢に大きな影響を与える自己資本比率規制。
2009年の金融危機をきっかけに、銀行の健全性を高めるためにまた規制が強化される方向のようです。注意しないといけませんね。

(※BIS規制やリスクウェイトについての詳細は下記コラムをご参照ください)
■住宅ローンはこれからもオイシイか?

いかがですか?
金余りの金融機関にとって住宅ローンは貸し倒れリスクが低くて、家計口座は取れるし、自己資本比率まで高めてくれるオイシイ資産だったのです。

・・・とはいうものの、すでに住宅ローンの金利優遇競争が激化してきたことで総合利ざや率はかなり低下していますから、住宅ローンの採算性は急激に悪化しています。これ以上の当初逆ザヤが進むようなら銀行としても金利優遇競争についていかないところも出てくると思います。

実際に大手メガバンクなど、預貸利ざや率がよくて法人向け融資もちゃんとできていて自己資本比率もまったく問題のない銀行は住宅ローンの金利優遇競争にはあまり参加していないんです。住宅ローンの金利優遇の状況はその金融機関の経営状況をも浮き彫りにするんですよね。いずれにせよこれから住宅ローンを新規で借りたり、または借り換えようと思っている方は今の低金利のチャンスを逃さないようにしてくださいね。


今回は以上です。次回もお楽しみに!

 

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