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「今こそ将来を鮮やかに展望しよう!」~政府は財政再建をあきらめてはいけない!~

「今こそ将来を鮮やかに展望しよう!」~政府は財政再建をあきらめてはいけない!~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


こんにちは!
ハイアス&カンパニーの川瀬です。

このたびの東日本大震災により被害を受けられた皆さまには
心よりお見舞い申し上げます。

■今は緊急事態です

緊急事態ですから、被災地を復旧すること、原発の放射能漏れに対処すること、避難されている皆さまの生活を守ること、そういった一刻の猶予も許されない目の前のことを優先して対処するのは当然のことと思います。
政府も、行政も、企業も、私たち市民も、心をひとつにしてしっかりやらないといけません。

それはそれとして・・・
でもだからといってこのタイミングで↓これはどうだろうか?と思いました。

<「税・社会保障改革」と「TPP」先送り 首相、2枚看板に手回らず>
(2011年3月30日付日本経済新聞)

『菅直人首相は29日の参院予算委員会で、消費増税を含む税と社会保障の一体改革の具体策と環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、予定していた6月の結論取りまとめを先送りする考えを表明した。
首相自ら推進してきたが、東日本大震災と原子力発電所事故への緊急対応を優先する。
政権運営の「錦の御旗」は野党から協力を得やすい震災復旧と復興に移り、税と社会保障などの方針決定をどの程度、延期するかは不透明だ。』

震災対策と同じように日本の財政再建も実は一刻の猶予もありません。
日本の財政を賄っている国債は既にGDPのおよそ2倍(約1,000兆円)にまで達しています。
このまま財政赤字が続き、国債発行が止まらないとすれば、いつ国債価格が下落(金利は上昇)するかと心配になってしまいますよね。
「日本国債は国内資産で消化されているから暴落はありえない」という話がありますが、それは「今」、そうであるだけです。
国民金融資産は約1,500兆円です。限りがあります。今のようなペースが続けば確実に「その時」が数年後にはやってきます。


■世界は日本をどう見ているのか?

それでもまだ世界の国々や投資家から「日本は大丈夫だ」と見られているそのワケは、まとめると以下のようなことです。

(1)「EU諸国では15%くらいなのに、日本の消費税はまだ5%。これまで政治抗争の
  ため税制改革が全く進んでこなかった。財政再建に本気になればまだまだ
  増税余地は十分にある。」

(2)「経済的に日本には規制が多く、競争力のある国内産業が本来の強みを
  活かせていない。縮小している国内市場だけでなく、市場開放をしてアジアの
  成長を取り込むことができれば日本の経済はまだ拡大できる。」

(3)「増税と市場開放を阻んできたのは政治。政治さえしっかり機能すれば日本は
  大丈夫!」

だから、「政権交代した民主党」が「税・社会保障の一体改革」と「TPP(経済成長戦略としての市場開放・規制緩和)」を打ち出すことは国際的にも日本の「伸びしろ」への安心感を高め、国債の暴落をおさえる効果があったわけです。

でも、実は政府はそれほど本気ではなかった、ということだったんでしょうかね・・・。

冒頭の新聞記事は以下のように続きます。

『「消費税」と「TPP」という大きな課題を首相が同時に掲げたことには、政権維持の大義名分にする狙いがあった。これ以上の求心力低下を食い止め、与党が参院で過半数に届かない逆転国会を何とかしのぎ、6月22日の会期末にたどり着く、というシナリオだった。首相は与野党協議の「呼び水」としての役割にも期待をかけていた。特に消費増税は自民、公明両党も与党時代に社会保障の財源とみて議論した経緯があり、政策を真正面から批判しにくい。
だが、今は大震災対策という政権を支える新たな大義名分がある。
数年がかりの震災復旧・復興は与野党協議には十分過ぎる理由だ。』
(日本経済新聞)

震災復興や財政再建といった国民にとっての最重要課題が、もしこの記事のように政権維持のための方便に使われているのだとしたら・・・
(そんなことはないと思いますが)それはとても残念なことだと思います。


■今こそ政治がすべきこととは?中期的展望だけが国際的信用を担保してくれる

経済低迷のあと、ようやく日本の経済が少し上向きかけてきたところに今回の震災が起きました。同時に二次災害で原発の事故が発生し、電力供給と人モノの流通がマヒしていまいました。これらによる経済的ダメージは甚大です。
そして今後、もし経済が本格的に落ち込んだら・・・もうこれは第三次災害と言えるでしょう。

過去最高額となった今年度予算92兆円に加えて、震災対策費として少なくともあと20兆円は必要になると言われています。
この震災対策予算の確保のために子ども手当や高速道路無料化などを見直そうというのはよくわかります。それだけでは全然足りないので、国債増発やおそらく復興税などの臨時増税も検討されるでしょう。
国債整理基金など特別会計にも手をつけることになるかもしれません。
それらが優先されるのは当然のこととは思います。
それと同時に世界中の誰もが「日本の財政はより悪化するだろうな」と考えます。
だからこそ、できるかできないか、すべきかそうでないかともかくとしても、TPPや税一体改革の見直しといった中期的課題に対して看板を下ろさずに「財政再建もしっかりやります!」と言い続けなければならないと思うのです。

経済・財政の問題解決の看板を下ろすということは、日本は自らの将来に対して、
「特に対処する気はありません」と言っているようなものです。
「やっぱ日本は危ないぞ!」と世界の国々や投資家から思われたら国債危機の到来が現実のものとなってきます。
それこそ政府は復興に手を貸すどころか足を引っ張ることになるでしょう。
少なくとも政府は国際的なメッセージとして『経済成長(TPP)も税改革もしっかりと対応していきます!』と言うべきだと思います。

目の前が大変な今だからこそ、政府は将来の展望を描くべき!
今回の大震災を日本の財政破綻のスタートとしてはいけません。
むしろ日本再生への第一歩としなければならないと強く、強く思っています。

今回は以上です。
次回、もっと日本が良くなっていますように。
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