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『回復の兆しをみせる住宅業界、今後の動向は?』  ~住宅会社は戦略が問われる1年8か月間をどう過ごすか?~

『回復の兆しをみせる住宅業界、今後の動向は?』  ~住宅会社は戦略が問われる1年8か月間をどう過ごすか?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

今回は私の関わっている「新築住宅業界」についてです。

さてこれから住宅業界はどうなっていくのでしょうか。

 

■昨年は住宅業界が景気回復の足を引っ張っていた

消費税の10%増税の延期の判断根拠になったのは14年7-9月GDP成長率でした。実質GDPが前期比-0.4%(年率換算-1.6%)と2期連続でマイナス成長となったことが衝撃を与えましたね。

その大きな原因のひとつが「住宅投資」でした。

GDPの約6割を占める個人消費は+0.4%、公共投資が+2.2%だったのですが、民間設備投資が-0.2%。そしてなんと住宅投資が-6.7%。景気回復の足を大きく引っ張りました。

 

14年4月から消費税が8%に上がりました。新築住宅は引き渡し基準なので14年3月末までに家の引き渡しを受ければ消費税は5%です。ただ、工事の遅れなどがあるといけませんのでその半年前の13年9月末までに住宅会社と建築契約を結んでいれば、もし引き渡しが14年4月以降にずれ込んだとしても消費税は5%でいいという特例がありました。

そのために13年9月末に向けて駆け込み契約が急増したわけですが、この反動も大きかったのです。13年10月以降、新築住宅の受注は業界全体でずっと前年対比マイナスが続きます。結局、このマイナスは丸一年間、14年9月まで続きました。

14年7-9月のGDPの住宅投資の前年対比-6.7%は、消費税の5%→8%増税の「駆け込み需要」(13年7-9月の大幅プラス)と「その後の落ち込み」(14年7-9月の大幅マイナス)の影響がモロに反映された結果だったのです。

 

■住宅業界にとってこの一年は厳しかった

住宅業界にとってこの一年間は本当に厳しかったと思います。

ようやく14年10月以降、住宅受注が回復してきているようです。

<戸建て注文住宅、12月受注プラス 大手住宅メーカー>

(2015年1月16日付 日本経済新聞)

『大手住宅メーカーの2014年12月の戸建て注文住宅の受注状況(金額ベース、速報値)が15日、出そろった。大和ハウス工業が前年同月比で6%増と1年2カ月ぶりに前年実績を上回った。積水ハウスは同12%増で2カ月連続のプラス。住友林業(16%増)やミサワホーム(11%増)、パナホーム(17%増)は3カ月連続で増加した。』

 

またこんな報道も。

<タマホーム、純利益98%減に下方修正>

(2015年1月15日付 日本経済新聞)

『タマホームは14日、2015年5月期連結業績予想の下方修正を発表した。純利益は前年同期比98%減の3,900万円となる見通しだ。従来予想は7%減の16億円だった。14年に実施された消費増税前の駆け込み需要の反動減が長期化している。(中略)

通期の売上高は前期比12%減の1,492億円を見込む。従来予想は3%減の1,649億円だった。住宅展示場の集客減少なども響く。営業利益は50%減の22億円となる見通しだ。』

 

この報道だけを見ると、「大手住宅メーカーはいいけど、タマホームさんは苦戦しているな。」と思われるかもしれません。

でも、この記事の続きの最後の一文を見るとそうとばかりも言えないと思います。

『同日発表した14年6~11月期の連結決算は、最終損益が14億円の赤字(前年同期は2億6400万円の赤字)だった。』(同記事)

 

上半期は14億円の赤字で終わっているのです。それが通期ではプラス3,900万円になるということは下半期に14億円以上の黒字を見込んでいるということですよね。

住宅会社の売上は引き渡し基準です。工事期間を仮に3か月とすると2月終わりまでには着工していないとタマホームさんの決算月である5月中に引き渡しできません。つまりすでに下半期は黒字に戻れるくらいの受注残があるということですね。

当初16億円の黒字を見込んでいたタマホームさんにしてみれば下方修正は不本意ではあると思いますが、上半期よりも回復してきていることは間違いないわけです。

 

ただ、大手住宅メーカーも含めて「前年対比」と言っていますが、比較対象である「前年」は駆け込み契約が終わって激減していた「13年」の12月です。ですので「前年対比で二桁プラス」と言っても知れているわけです。

棟数ベースで見ると、通常水準だった2年前の「12年」の12月を上回ったのは大手13社の中では「大和ハウス」と「一条工務店」の2社だけだったようです。まだまだ本格回復とまでは言えないかもしれません。

 

■今年の住宅業界は?

15年10月に予定されていた消費税10%への増税が延期になったのは住宅業界にとって良かったと思います。もし予定通り「15年10月から増税」となったら、その半年前の15年3月末までにまた駆け込みの動きが激しくなります。そしてその後また落ち込むのです。折角、回復してきたと思ったら半年もしないうちにまた落ち込むところでした。新築を考えているお客様にとっても、短い期間でバタバタ動かないといけないとなると大変ですしね。

 

2015年の住宅業界は少しずつ良くなっていきそうです。

消費税が延長されました。税制改正で贈与税非課税枠の延長・拡充、経済対策ではエコポイントの復活、フラット35の金利優遇などに約2000億円が投入されます。

金利は依然として史上最低水準のままですし、新築を考えているお客様にとってはとても良い環境が整っています。

政府にしてみると、景気回復の足を引っ張っている住宅部門には何とか回復してもらってGDPの成長を確実なものにしたいのでしょう。世の中全体の景気回復ムードと相まって、新築住宅の回復に拍車がかかるはず、です。

 

■経済対策としての新築促進は「?」

私は住宅業界で仕事をしていますので新築市場の回復は明るいニュースだと思っています。ただ、(こんなことを言うと業界の方々からは叱られるかもしれませんが...)客観的に見て、経済対策として新築住宅投資に公的資金を投入するのはもうそろそろ止めた方がいいのではないかとも思っています。

新築住宅は何もしなければこれから減っていきます。住宅を新しく買う30代~40代の人口が減っていくからです。それを今は経済対策というカンフル剤で何とか持ちこたえさせている状態ですね。でも全体需要のパイが縮小していっているのに新築住宅がこれまで通り建ち続けていることは将来の需要を先食いしているに過ぎません。だからカンフル剤が続けば続くほど切れたときの反動の落ち込みはどんどん大きくなっていきます。

また、空き家問題が深刻な社会問題になりつつあります。住宅はすでに供給過剰です。既存市街地の質の良くない家を質の良い家に建て替えるといったことならまだいいですが、郊外へどんどんと広げていくような宅地開発にはそろそろ慎重になった方がいいのではないかと思っています。

 

住宅業界はしばらく良いかもしれませんが、「次はもう延期はない」と言われている10%への消費増税は2017年4月です。したがって次の反動減のタイミングはその半年前の2016年10月です。

それまでの1年8か月を今からどう過ごすのか。

足下の市場の回復を捕らえながらも、いずれやってくる落ち込みに備えた体質改善が必要になります。

住宅会社各社の戦略が問われる1年8か月になると思います。

 

今回は以上です。

もっと日本がよくなりますように。

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