誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

「EUとのEPA交渉は日本に何をもたらすのか?」~規制緩和で経済成長政策を!~

「EUとのEPA交渉は日本に何をもたらすのか?」~規制緩和で経済成長政策を!~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

東日本大震災により被害を受けられた皆さまには心よりお見舞い申し上げます。

以前のコラム(こちらこちら)にて「TPP」(環太平洋経済連携協定)について書きましたが、今回はEUとの「TPA」(経済連携協定)についてです。
少し動きがあったようですよ。

■一転、EUとのEPA交渉開始!何が変わったのか?

<日・EU、EPA予備交渉へ~貿易で復興の後押し狙う~>
(2011年5月7日付日本経済新聞朝刊)

『欧州連合(EU)が日本政府に、経済連携協定(EPA)締結に向けた予備交渉の開始を提案したことが明らかになった。欧州委は震災後の日本の復興を後押しする狙いもあり、EPA交渉に慎重だった姿勢を転換、近い将来の対日EPA交渉開始がほぼ確実となった。(中略)欧州委はこれまで対日EPAについて「日本側が非関税障壁撤廃への意欲を示すのが前提条件」と慎重だった。
欧州委が予備交渉開始まで譲歩したのは、英国や北欧を中心にEU加盟国の間で震災後の日本の復興を貿易面で後押しするため「交渉をサポートしたい」(キャメロン英首相)との判断が強まったという背景がある。』


「EPA(経済連携協定)」とは、「特定の国・地域との間のモノの物流やサービスの移転にかかる関税や規制をなくし、人や資本の移動など幅広い分野で経済連携を図る条約のこと」、ですね。

今はEUへ輸出するときには、例えば自動車で10%、薄型テレビで14%の高関税が課されます。
これが無くなるのなら日本としては輸出が増えて、経済が活性化するというメリットがあります。
これは景気低迷に苦しんでいる日本にとってはいいことですね。

これまで、日本とのEPA交渉はEU内で反対が強くて進んできませんでした。
でもEUは韓国とはすでに「自由貿易協定(FTA)」が締結済。
7月からスタートします。
なぜ、韓国はよくて日本はダメだったのでしょうか?


■ヨーロッパが日本とのEPAを渋ってきた理由とは?

なぜEUは、韓国とは「OK!」で日本とは「NO!」だったのでしょうか?
一言で言えば、「EU側にメリットがないから」でしょう。

例えば自動車。
2009年にEU域内に輸入された外国車のうち日本車は約36%も占めています。
ハイブリッド車などエコ対応が進んだ日本車への輸入関税がなくなると欧州車にとっては大きな脅威になるでしょう。
一方、韓国車のシェアはまだ12%ですから、それほど影響はないのでしょうね。

またEUはずっと日本に対して貿易赤字が続いています。
(2009年度の貿易赤字は199億ユーロ=約2兆3000億円)。
EUにとっては貿易不均衡を是正して対日貿易赤字をなんとか改善するのが課題なわけです。
でもEUからの対日輸出の約7割は関税がかかっていない、無税だそうです。
実は日本は、農産物以外は市場開放が進んでいて、工業製品や工鉱物、化学製品、繊維など多くの製品に輸入関税はありません。
つまり日本はすでに多くが無税なのですからEU側にとってみればEPAをやっても日本への輸出が増えるとは限らないのです。

ですから、EU産業界は今も日本とのEPA交渉に反対しています。
冒頭の新聞記事のように「EPA交渉開始!」というのは小さな一歩に過ぎず、まだまだこの先難航することが予想されるわけです。

それでもEPA交渉が前進したのは評価できますね。
EUの態度が少し変わったのは、記事にあるように震災復興支援という理由もあるでしょう。
でもそれ以上に日本製部品の確保が大事だということの認識の高まりが大きいのではないかと思います。震災による日本製部品の供給停止が世界の製造業の生産見通しにも大きな影響を与えましたが、EU域内企業にも部品不足で減産せざるを得ないような影響が出たようです。
「やっぱり日本との経済連携は大事だな!」と改めて認識してくれたのではないでしょうか。


■やっぱりまずは経済成長!

今、政府は震災復興にかかる財源確保のために復興債や消費税増税などを検討しています。
でも、震災前から日本は不景気だったのですから不況時に増税することに対しては根強い反対があります。

「増税の前にまずは経済成長を!」とよく言われます。
確かに景気が良くなれば税収も増えて被災地にも予算を回せるようになります。

実際、今年も後半にもなれば震災復興需要は出てくるでしょう。
復興需要で建設業や素材産業などは潤うかもしれません。
でも、日本の将来を支える先端技術産業などが厳しい環境にあるのは変わらないでしょう。
工場を早く再稼働させて生産と物流を正常化させないといけないのですが、今後も電力制限は続くでしょうし、放射能の問題も風評被害も含めてあります。
今、多くの工場が移転計画を検討しているそうです。
心配するのは、その移転先が日本を飛び越えて海外に行ってしまうのではないかということです。

残念ながら、「経済成長政策」やそのための「規制緩和」は現政権の弱いところです。
企業への環境規制は厳しいし、円高もデフレもほぼ放置。
労働者派遣にも厳しいから雇用負担も大きい上に、法人税も高いまま・・・・。
日本から企業が出ていってしまってもおかしくない経営環境なわけです。
もし今のような状況でそうなったら・・・もう日本は立ち上がれません。

経済成長政策の手始めは「規制緩和」です。
EU側はEPAの条件として、参入障壁となっている規制の緩和・撤廃など、
「非関税障壁排除」にこだわっています。でも規制緩和は上手くやれば経済を活性化させますが、郵政民営化の例を見るまでもなく、既存のしがらみや利権構造などがあってなかなか進まないのが現実です。
今回のEUとのEPAという「外圧」を賢く利用して、進めて行ってもらいたいものですね。

今回は以上です。
次にお会いするまでにもっと日本が良くなっていますように。
-------------------------
今回の記事はいかがでしたか?
「ハッピーリッチ・アカデミー」の「カワセ君のコラム」では、過去のバックナンバーをご覧頂けます。
また、ハッピーリッチ・アカデミー会員に登録して頂くと隔週でメールマガジンにてお届けします。
是非あわせてご覧ください。