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「夜討ち朝駆けは違法です!」~不動産の営業規制強化で業界はどうなる?~

「夜討ち朝駆けは違法です!」~不動産の営業規制強化で業界はどうなる?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は不動産販売営業の規制強化についてです。

■不動産販売営業が規制強化されます

2011年10月1日から不動産取引に関する法律である宅地建物取引業法以下、宅建業法)施行規則の一部が改正されます。その理由はこれです。
↓↓↓

<深夜や長時間の勧誘禁止=マンション販売の規制強化―国交省>
(時事通信 8月18日付)
『国土交通省は、マンション販売において悪質な勧誘が相次いでいるとして不動産業者に対する規制を強化する方針を決めた。宅地建物取引業法の省令を近く改正し、宅地建物取引業者がしてはならない行為に、深夜や長時間の勧誘で困惑させることや、迷惑な時間に電話、訪問することなどを追加する。10月から新たなルールを適用する。勧誘時に社名や目的を明かさないことや、客が契約する意思がないのを示しているにもかかわらず勧誘を続けることも禁止行為に加える。』

マンション販売の中でも特にワンルームマンション投資の勧誘は社会問題にもなっていますね。断っても断っても電話がかかってきたり、長時間にわたってしつこく勧誘されたり、ひどい時には脅されたりするケースもあるようです。
費者庁消費者委員会の「マンション販売の実態調査報告」にはすさまじい事例が列挙されています。

・「断っても何度も何度も電話がかかってくる」
・「午前10時から夕方6時まで執拗に説明された」
・「絶対に損はしない、賃貸契約は必ず取れるなどと不確実なことを断定的に言われた」
・「夜8時にファミリーレストランで会い深夜2時まで説得された」
・「実家の所在も分かっていると言って脅された」

などなど・・・。

これらの被害報告を受けて、消費者庁から国交省へ圧力がかかり今回の規制強化の法制化に至ったようです。


■今後、不動産会社はこれらのことをしてはいけません!

今回の改正で禁止される行為は主に以下の4つです。(国交省の通達:国土動指第26号より)

(1)『勧誘に先だって業者名、担当者名、勧誘目的を告げずに勧誘を行うことの禁止』

営業の初めの段階でちゃんと自分の名前と営業の目的を告げなければダメ。
社名については入っているフランチャイズの名前だけではダメで自社の商号を名乗らないとダメ。
また勧誘の目的について「老後の生活設計の提案」とか「将来の資産運用について・・・」などとぼかしてはダメ。
例えば「投資用マンション購入について説明させてください」と言わなければいけません。


(2)『客が契約する意思がないことを表示した場合の再勧誘の禁止』

お客様から「必要ないです」とか「結構です」という言葉があったらもう二度と勧誘してはダメです。(将来にわたってもずっと勧誘してはダメなのかどうかは個別に判断する、と記載あり)

(3)『迷惑な時間の電話または訪問による勧誘の禁止』

(4)『深夜または長時間の勧誘により客を困惑させる行為の禁止』

午後9時以降の夜中や午前8時前の早朝の営業はダメ。また長時間にわたって執拗に営業してはダメということです。

私にも投資マンションの勧誘電話は今まで何度も何度もかかってきていますのでよくわかります。
あまり知識や経験がない人が多いのか、結構いい加減なことを言って勧誘してきます。知識のない営業マンが適当なことを言って強引に勧誘する、そういう悪質な営業は絶対やってはいけません。
今後、悪質な勧誘を受けたら当局へ通報しましょう。


■不心得者が基準になることで業界はダメになる?

今回の規制強化でそういった悪質な業者に退場してもらうのは歓迎すべきことではあります。
ただ、心配なこともあります。

マンション投資自体は違法でもないし、必ず損するわけでもないし、決して悪いことではありません。
確かに新築のワンルームマンションは価格が高いので借入をして投資をするとリスクが高くなりがちですが、中古で割安な物件を選んで自己資金を厚めにして長期運用をすれば安定的に収益を生んでくれるケースもあります。

問題は一部の業者の勧誘の仕方です。
平成20年に一部改正された「特定商取引に関する法律」は、さまざまな商材の強引な訪問販売やしつこい電話での勧誘行為への規制を強化したものですが、この特商法において不動産営業は適用除外でした。その理由は、不動産業者は宅建業法によって消費者保護が図られていると判断されたからです。それがごく一部の悪質な業者のせいで消費者庁が「もう我慢ならん!」「規制強化せい!」となったんでしょうね。

今回の規制強化は被害を受けられた方には朗報だと思いますが業界にとっては残念なことです。一部の不心得者のために真面目にやっている業者の営業活動に対してまで抑制の力が働くことになります。これは決して業界にとっても、お客様にとっても良いことばかりではないと思うのです。
不動産営業では電話や訪問による営業は基本的な活動のひとつです。ほとんどの業者は真面目に常識と節度を持って電話をしたり訪問をしたりしています。
部屋を借りることや家を買うことや売ること、こういった不動産取引に関することはわかりにくいことが多く、業者が営業をかけた初めの段階ではお客様が「まだ結構ですから・・・」とか「やっぱり断ります・・・」となることはよくあることです。昔は、「営業は断られてからがスタートだ!」などと教えられていたものです。
お客様にとっても業者の営業は正しい情報をタイムリーに入手するひとつの重要な手段です。営業の仕方が必要以上に規制されると、インターネットや雑誌などからの断片的な情報だけで大事な不動産取引を判断しなければならなくなってしまうような不健全な状況すら生みかねないのでは、という危惧もあります。

ただでさえ大人しい草食系の営業マンが増えたと言われている不動産業界。
上司が「断わられてもいいから当たって砕けてこい!」と言っても、「それ業法違反ですから」と部下から言われたりして。
これで業界の先行きは明るくなるんでしょうか・・・。

今回は以上です。
もっと日本が良くなっていますように。


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