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「銀行の不良債権が増えている!?」~健全な銀行経営を阻む金融円滑化法の功罪とは?~

「銀行の不良債権が増えている!?」~健全な銀行経営を阻む金融円滑化法の功罪とは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は銀行の不良債権についてです。

■日本の金融機関に「隠れ不良債権が!?」

「欧米の銀行に比べて日本の銀行は不良債権の割合が2%程度と低いから欧米に比べて金融機能が安定している。」
欧州も米国も経済的な不安定さが続く中、日本に対するこういった評価を聞いたことはありませんか?でも実はそうでもないようです。

<不良債権「予備軍」44兆円 5年で1.5倍>(2011年10月10日付 日本経済新聞)
~銀行融資の1割 金融円滑化法で悪化~

『銀行融資のうち「不良債権予備軍」といえる貸し出しが全体の1割、44兆円規模に上ることが日銀の調査でわかった。2008年秋のリーマンショック後の中小企業金融円滑化法(返済猶予法)の導入などで不良債権化こそしていないものの、経営改善が遅れている企業が多いことを裏付けた。欧米銀に比べ、邦銀の財務は比較的健全とされるが、こうした企業の再生が課題となる。』

日銀によると、「不良債権予備軍」に対する銀行全体の貸出金額は3月末で44.3兆円。日本の金融機関の貸出金合計額が454.8兆円なので、その割合は9.7%にもなります。認定されて公表している「不良債権比率」は2%であっても、本当の実態はもっと悪くて、10%近くが不良債権かもしれない、という話です。もしそうなら、今はいいかもしれませんが、ある日突然に不良債権が増加して、急激に銀行の貸出情勢が悪化してしまうかもしれません。そうなると日本はまたまた「金融危機→経済悪化」となりますね。


■なぜ「不良債権予備軍」が増えたのか?

銀行は貸出債権を、貸出先の経営状態に応じて、「(1)正常先、(2)要注意先、(3)破たん懸念先、(4)破たん先・実質破たん先」の4つに分類して管理しています。「(3)破たん懸念先」と「(4)破たん先」は全額不良債権として計算されますが、「(2)要注意先」の中には不良債権と正常債権が混在しています。赤字が続き経営は厳しいもののまだ返済も滞っておらず、金利減免などの貸し出し条件の大幅変更もない、今後経営再建の見込みは高い、と判断された先は要注意先であっても正常債権と査定されているのです。この正常債権と不良債権の間のような「分類がグレーな貸出金」が現在およそ44兆円。5年前(30兆円)に比べて1.5倍にも増えたというのが冒頭の記事です。

なぜ、この不良債権予備軍といわれるようなグレーな分類が増えたのでしょうか?それは政府がリーマンショック後に打ち出した中小企業支援策の影響が大きいと思います。
2009年12月に、政府は銀行に対して「経済危機により経営が厳しくなった企業には返済猶予などの金融支援をすべし!」とした『金融円滑化法』を施行しました。金融庁によると金融円滑化法で銀行が返済猶予などに応じた貸出金はこの2年間で累計34兆億円にもなるそうです。金融庁は銀行の検査の基準も少し緩和しました。これらの施策のお陰で不良債権にならずに「不良債権予備軍」でとどまっている貸出金が増えたと言われています。


■金融円滑化法の功罪

金融円滑化法は、当初「金融のモラルをゆがめる」として反対も多かったのですが、「今は100年に一度の経済危機ですぞ!」と民主党が強硬採決をして、その危機を乗り越えるための施策として1年間という期限付きで実施されました。この法律のお陰で経営破たんをまぬがれた企業は少なくないでしょう。危機を乗り越えて経営再建を果たした会社もあると思います。企業が破たんを免れることでその企業で働く従業員の雇用が継続されるといったこともあったでしょう。そういう意味では政府の方針は評価されると思います。
しかし、それはあくまでも「非常事態を乗り切るための施策」としての評価です。この「非常事態に対する措置」が、気が付けばさらに1年延長されて今もまだ継続中です。
その結果、リーマンショックとは関係なく、すでに倒産せざるを得なかった企業がまだ生き延びているケースも増えたようです。これは評価の分かれるところです。倒産寸前で金融条件の緩和を受けているような企業が、従業員の賃金をカットしたり、仕事欲しさに不当な値下げをしたりすることは、同じ市場にいる健全な競合企業の体力を奪います。ダンピングに巻き込まれて適正な利益が得られなくなり、本来なら従業員に払うことのできた賃金まで減らさざるを得なくなります。こうなると業界全体が地盤沈下を起こしてしまい、共倒れになってしまうということも起きかねません。


■健全な銀行経営が健全な地域経済の源です

日本はリーマンショックや大震災という非常事態が続きました。緊急事態に対応して円滑な金融措置を取ることは言うまでもなく重要です。しかしそれが常態化すると悪い側面が出てきます。企業側のモラルの低下や金融システムの悪化などです。金融システムの悪化は間違いなく経済基盤を弱めます。

企業はどれだけ赤字を出そうとも銀行がお金を融通する限り倒産はしません。すでに役目を終えている企業を市場から退場させ、再生・再建を促し、健全な市場を維持することも銀行の重要な役割です。
だから銀行は延命の法律があるからとか、不良債権にしなくてすむからなどと安きに流れるのでなく、貸出先の企業に対しては本当に再建できるのかをしっかり見極めて対応するべきです。そうしないと銀行自身の首も絞めることになります。
銀行がおかしくなると地域経済全体までもがおかしくなることを私たちはこの20年でいやというほど見てきました。銀行が健全な経営をして、地域の金融機能を円滑にしてくれることを願うばかりです。

今回は以上です。
もっと日本が良くなっていますように。

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