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「住宅ローン破産がない国っていいですよね?」~安心してローンを組める環境作りは可能か?~

「住宅ローン破産がない国っていいですよね?」~安心してローンを組める環境作りは可能か?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
前回、金融円滑化法などの中小企業救済政策の功罪について書きました。実質的に破たんしているような企業に向けた融資を継続することは銀行にとっても地域経済にとっても決して健全ではありません。
リーマンショックや震災など不測の事態に対しての一時的な救済策は意味がありますが、それがずっと続くのはよくありません。早めに正常化した方がいいですから、銀行は自己査定の運用を厳格にすべきだし、金融円滑化法などの返済条件緩和施策もできれば今年で終わりにすべきだと思います。

・・・というのは法人向け金融の話。 
個人向け、特に住宅ローンに関しては話は別だと私は思います。
住宅ローン返済困窮者に対する返済条件緩和については、金融円滑化法が終わった後もカタチを変えても存続すべき、いやむしろ拡充してほしいくらいです。


■個人破産は激減している

金融円滑化法は住宅ローンなど個人向け融資についても適用されています。各銀行のこの2年間の金融円滑化法への対応実績はそれぞれのホームページで公開されています。それを見ますと、平均しておよそ90%の人が返済条件を変更されています。
ローン返済が厳しくなった人が銀行に相談に行くと、なんと9割方の人が返済条件を見直してもらえているのです。これはとても大きな変化です。
かつては銀行にローン返済条件変更の相談に行っても相談にも乗ってもらえない、ほぼ門前払いが普通でした。突然の会社の倒産や解雇、不景気による給与削減などで住宅ローン返済が厳しくなった人は返済条件を見直してもらえないので、最後は自己破産して自宅は競売、という事態が避けられませんでした。
ただここ数年、金融円滑化法の影響もあり、銀行が返済条件の見直しに応じるようになったことで住宅ローン破産者は激減しています。
裁判所の司法統計によりますと、個人の破産者は平成15年の25万人をピークに年々減り続け、平成22年には12万人と約半減しています。

企業の場合は、銀行が融資条件を緩和しても再建できるかどうかはわかりません。事業が時代の変化に合わなくなっていたり、放漫経営など経営力そのものに問題があるケースなどはむしろ時間が経つほど状況が悪化するケースすらあります。
再建できない企業の破たん処理を進めることはやむを得ません。従業員も再建見込みのない会社で安い報酬で働くより、早めに転職した方が幸せかもしれません。

でも個人の場合は法人と同じではありません。ギャンブルや過剰消費が原因の多重債務者の方はやむを得ないかもしれませんが、住宅ローンの破たんは出来る限り避けた方が社会的にも良いと思います。


■住宅ローン破産にいたる3つのケースとは?

住宅ローンで返済が厳しくなるのは主に次の3つのパターンが考えられます。

1)金利の変動で返済額が急激に上昇したために、今まで通り払えなくなった場合
2)労働環境の変化で収入が減ったために、今まで通り払えなくなった場合
3)そもそも初めから無理な金額のローンを組んでいた場合

1)のケースは、低金利がずっと続いている現在はあまりこのパターンはありませんが、変動金利の上昇リスクを甘くみていたケースなど事前の想定が甘いのが原因です。
金利が上昇した時に備えて貯蓄をしておくなどの準備をしておくべきでした。でも本人の収入はあるのですから、返済期間を少し延ばして正しい返済パターンに変えてあげれば十分返済は続けられます。

2)のケースが最近多いパターンです。
これは本人には原因がないので気の毒ですね。真面目に働いていたのに急に会社が倒産したり、リストラされたり・・・。これは予測できません。でも新しい給与水準や再就職先での給与体系に合わせて返済条件を見直せば本人に働く意思がある限り、これも十分返済は続けられます。

3)のケースは貸し手側のモラルの問題だと思います。
ローン破産は借りる側の責任もありますが、「住宅ローンが初めての大きな借金」という方がほとんどなのですから、プロである銀行や住宅会社がモラルを持って適切なローンの組み方、返し方をお客様に説明してあげれば防げる問題です。売上を増やすために、適正予算を超える物件を勧めたり、買える資力がないお客様にまで無理に買わせたりするような業者は規制すればよいだけです。


■住宅ローン破産をなくすには?

法人と個人は違います。
法人は時代に合わなくなった事業を継続していく社会的意味はありません。でも個人の暮らしは続きます。何があろうと寿命ある限り生活しなければいけません。住宅ローンは家族の大切な家にかかるコストです。生活を維持するために何かがあったとしても家族一丸となって返済をします。
だからもともと住宅ローンは企業向け融資に比べて破たん確率は10分の1程度です。銀行にとっても個人向けローンはできれば破たんさせない方がいいはずです。個人住宅を競売にかけたところで回収できる額など知れています。それより多少返済期間が延びたとしても返済を続けて完済してくれる方が良いのです。

住宅ローン破産はなくせます。
まず、銀行の個人向け住宅ローンの不良債権の引当基準を変更して銀行が住宅ローンの返済条件を緩和しやすくしたらいいと思います。これは金融円滑化法の下でこの2年間実施できていたのでできるはずです。また、初めに無理なローンを組ませないように、また変動金利のリスクをきちんと説明するように業者に統制をかければよいと思います。今、「住宅ローンアドバイザー」という資格がありますが、これを免許制にするのも良いでしょう。

このようにして住宅ローンに対する不安を減らし、安心して家が買える環境を作れば家を買う人はもっともっと増えると思います。住宅ローン減税など税金を使わずとも住宅は売れるようになるのではないかと思います。住宅ローン破産のない国ってよくないですか?


今回は以上です。
次回、もっと日本が良くなっていますように。


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