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「若年層失業率48.9%!なぜスペインには仕事がないのか?」~日本とスペインの類似性とは?~

「若年層失業率48.9%!なぜスペインには仕事がないのか?」~日本とスペインの類似性とは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は、世界経済を揺るがしている「欧州債務危機」について。
中でも経済情勢の悪化が懸念されているスペインについてみてみたいと思います。


■若年層失業率48.9% 群を抜く失業率の高さのスペイン

欧州債務危機の行方を世界が固唾を飲んで見守っています。中でも、失業率が欧州連合(EU)で最悪水準なのがスペイン。スペインの全体の失業率は22.8%。25歳以下の若年層失業率はなんと48.9%!若者の2人に1人が失業中です。

スペイン同様、危険視されている他のEU各国の失業率は以下の通り。
・ギリシャ :全体 18.3% 若年失業率 45.1%
・アイルランド :全体 14.3% 若年失業率 30.2%
・ポルトガル :全体 12.9% 若年失業率 30.4%
・イタリア :全体   8.5% 若年失業率 29.2%

唯一の勝ち組と言われているドイツでは・・・
・ドイツ :全体 5.5% 若年失業率 9.8%
(ちなみに日本は :全体:4.5% 若年失業率 8.0%)

スペインの雇用環境の悪さは群を抜いていますよね。
なぜスペインはこれほど経済状態が悪いのでしょうか?


■スペインこの20年の盛衰
 「経済開放、移民・人口増加、住宅ブームで高成長国に」

実は私、仕事の関係で1992年~1993年の1年間と1995年~1998年の間の足掛け3年半ほどスペインに住んでいました。
バルセロナオリンピックでスペインが盛り上がっていた1992年当時、私はマドリードにいましたが、実はスペインは大不況でした。
当時も失業率は25%程度で、若者のほとんどは失業中。
それでも明るく陽気なスペイン人達は、歌ったり踊ったり、楽しく過ごしていた(ように見えた)のですが、EU統合を控えていたスペイン政府は必死に経済立て直しを図っていました。

(記憶に頼って書いていますので正確ではないかもしれませんが・・・)当時の民衆党政府が取った政策はおおまかに言うと、「極端な通貨安+外資開放」。
当時の通貨であるペセタは私がいた92年~93年の1年で2回も切り下げが行われました。(翌年帰国した時に手持ち現金を両替したら半分くらいの価値になっていたことを覚えています)

その通貨安をテコに外資を積極的にドンドン受け入れました。その結果すでに国債競争力を失っていた国内製造企業を中心に次々と買収が行われましたが、強い外資系企業が来たお陰で工場従事者など多くの雇用が生まれました。
また人口増加政策として移民の受け入れも推進。
同じスペイン語圏の中南米諸国から多くの移民がやってきました。

それらの政策が功を奏したのか、経済は回復していきました。
スペインのGDPは毎年成長を続けて右肩上がりに増加、1992年には25%ほどあった失業率も、2007年には8%まで下がりました。
さらにユーロ導入後の2002~08年まではまさに「バブル」。
この02年~08年の6年間でGDPはユーロ建てで1.5倍に増加しました(ドル建てでは2倍増)。
(この頃のレアル・マドリードはお金にものを言わせてすごい選手を集めてましたよね~)

この急成長は、人口増加に伴う「住宅ブーム」によるものが大きかったようです。
住宅ブームで主要産業である建設業は大いにうるおい、移民労働者が急増。人口増加で消費内需も拡大し、住宅価格も高騰。住宅の資産効果の拡大で物価・賃金ともに上昇。低金利で割安なユーロのお陰もあって国外からの資金もいっぱい入ってきました。
当時のスペインはEU経済の牽引役だったのです。


■スペイン経済暗転
 「サブプライム破たん、人材流出、国内製造業移転、産業空洞化」

しかし、バブルは一気に崩壊します。
アメリカのサププライムとほぼ同じ構図で経済成長を果たしてきたスペイン経済でしたが、2009年頃より本家アメリカ発のサブプライム問題~リーマンショックに至る世界金融危機で一気に急落に向かいました。
スペインの住宅市場は、2007年~2009年の2年間で販売件数44.7%減。着工件数74.1%減と急減。それまでの好循環を支えてきた過剰なマネー流入もストップ。さらに個人消費と企業投資が急速に冷え込んだことで大量の失業が発生。一気に失業率は20%台に逆戻りしました。

スペイン政府は手を打ちます。
以前ならペセタを切り下げたり、強烈な金融緩和をしたりして競争力を取り戻していたのでしょうが、ユーロを使っている以上独自の金融政策も取れません。
ですから速やかに増税路線に転換。2009年に増税をしましたが、景気低迷で税収増にはつながりませんでした。また歳出削減策として公共工事予算を全面的にストップ。公務員給与の削減や子ども手当などの社会支出削減にも手を付けました。
日本政府と違ってやるべきことはやっています。でも景気・財政とも好転せずに今にいたります。政府としてはもう後がないところまできている感じです。


■なぜスペイン経済はここまで弱体化したのか?
 「問題の多いぜい弱な産業構造、特殊な雇用環境、人材流出」

スペインはなぜここまで急激に経済が弱体化したのでしょうか?
また、なぜここまで失業率が高くなってしまうのでしょうか?
これはスペインの産業構造と労働市場の特殊性に原因があります。
スペインの産業構造は建設業や観光業といった季節変動の大きい特定の部門に大きく依存しています。
90年代に外資開放政策を取ったスペインにはドイツのような強い自国の製造業がありません。不況時の雇用の受け皿企業がないのです。

またスペインの雇用形態は、「有期雇用」と「無期雇用」があります。
日本で言えば「非正規雇用」と「正社員」の違いのようなものですが、スペインの「無期雇用」はもっとがっちり保護されています。解雇保証金はEU最高ですし、強い組合が決める労働協約によって高水準で維持されている賃金システムが存在しています。一方、有期雇用は賃金水準や解雇コストがはるかに低い。これが不景気になると若年層にそのあおりが行って、雇用市場を大きくゆがめている一因です。


■若者の失業は国の将来に影を落とす

現代では経済のグローバル化は不可避です。スペインの経済開放政策は自然の流れでしょう。
問題だったのは、国の基幹となるような新産業を育成してこなかったこと。また国の将来を担う若者の働き場を用意してこなかったことだと思います。
92年不況の当時、スペインの学生に将来について聞くと、「まずイギリスに留学。英語をマスターしてスペイン以外の国で就職したい。」と皆、口をそろえて言っていました。
その理由は、「スペインには仕事がないし、あったとしても将来有望な就職先ではないから。」
失業率が25%だった20年前に、有望な若者がどんどん海外に流出していったことと今のスペインの経済基盤の弱さには強い関係があるように思います。

これまでバブルにも例えられるような見せかけの好景気にアグラをかいてずっと先送りにされてきた経済構造の中長期的な改革。それを怠ってきたツケが今のスペインの高失業率につながっているのではないでしょうか。昨年政権交代したスペイン新政府は、高付加価値・ハイテク・環境産業をメインにすえた成長モデルへの転換を策定しています。抜き差しならない今こそ未来のスペインへの種まきが必要なのでしょう。

デフレ・円高を放置して、雇用を守るために企業に負担を強いる。企業が海外に流出しても引き留めない。若い人たちが働くことができず希望も持てないのに政府は構造的な改革を先送りにし続ける・・・。
日本もまったく他人事ではありませんね。他山の石としたいものです。

今回は以上です。
日本がもっともっと良くなりますように。



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