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「どうなる欧州債務危機!?」~日本の預貸率をみれば欧州の今後が見えてくる?~
»2012年3月21日
世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる
「どうなる欧州債務危機!?」~日本の預貸率をみれば欧州の今後が見えてくる?~
ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。
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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は「欧州債務危機について」です。
ギリシャ国債のデフォルトは回避されたもののまだまだ予断を許さない状況ですね。
明るさを取り戻しつつある世界景気の中で、一点の暗い影を落とす「ユーロ債務危機」。
ギリシャ国債のデフォルト(債務償還不履行)は欧州中央銀行(ECB)の大量の資金供給や個人投資家の債務削減受け入れなどで回避されました。今、ギリシャの資金繰りについての不安はひとまず解消されています。
でも欧州の経済不安はまだまだこれからだと思います。早速次の不安のタネが頭をもたげてきました。
それは、「欧州各国の銀行による貸し渋り」です。
■欧州で始まった次の不安・・・「貸し渋り」
私は今年年頭のこのメルマガで以下のように書きました。
( ハッピーリッチ・アカデミー133号 『今年も勝手に展望 どうなる2012年~国際情勢から目が離せない一年に~』)
『昨年世界経済を揺るがしたユーロ圏の債務危機。ギリシャや欧州各国の国債が「いよいよヤバイ」ということになりますと、国債を多く保有する欧州の金融機関の信用度が問題になってくるでしょう。心配なのは欧州金融機関の資本不足です。「債務危機」→「金融機関の資本不足」→「金融システム不安」と来れば、次に来るのは「貸し渋り」でしょうね。銀行が貸し渋るとなると欧州各国の企業は防衛に走るでしょうからすぐに雇用不安(失業問題)が出てきます。失業が増加しつづけると欧州がいよいよ本格的な不況になりかねません。』
そしてやはり、貸し渋りは始まっているようです。
<欧州銀の預貸率低下、世界経済に影 貸し渋り懸念 融資圧縮、新興国にも余波>
(2012年3月19日 日本経済新聞)
『株価上昇などで明るさが見え始めた世界景気に、欧州銀行の「貸し渋り」懸念が影を落としている。ユーロ圏では預金と貸出金のバランスを示す預貸率が低下し始めており、3兆ドル(約250兆円)規模、15%程度の貸出資産の圧縮につながる可能性がある。日米が経験したような調整を欧州が迫られれば、その影響は新興国経済にも及びかねない。』
「預貸率」ってわかりますか?
「預かった預金の内、どれだけ貸出で運用できているか」、この割合を「預貸率」(貸出÷預金)といいますね。銀行は個人や企業から集めた預金を、企業の設備投資融資や運転資金融資、個人への住宅ローンなどの貸出金で運用しています。欧州の銀行は伝統的に預金より貸出金のほうが多くて、預貸率は120~130%程度でした。預貸率120%ということは、例えば預金が「10兆」あったときに貸出金が「12兆」あるということです。貸し出しするのに預金だけで足りない「2兆」は資金市場から調達します。
新聞記事によりますと、その欧州各銀行の預貸率が今年1月に115%まで下がったそうです。
その一因は、ギリシャなどの債務危機をきっかけに、市場で欧州銀行の信用力が低下したためです。欧州各行は信用力が低下したことで、資金市場から低い金利で資金を調達しにくくなりました。そのため企業向け融資を抑えざるをえなくなってきたようです。
専門家の間では「今後も欧州銀の預貸率はさらに低下する見込み。ユーロ圏の預貸率は100%程度まで下がるのではないか。」と指摘されています。
もし預貸率が100%まで低下するとなると、欧州全体で銀行から企業への貸出金は約3兆ドル(約250兆円)も減ることになるそうです。そうなると欧州企業は資金繰りが不安になりますから一斉に防衛に走るでしょう。新規投資を控えるだけでなく、人員削減などのリストラが断行されるかもしれません。(←欧州企業はすぐに人員削減しますからね)
■日本の預貸率の過去の推移をみれば欧州の今後が見えてくる?
ところで日本の預貸率はどうなっているのでしょうか?
長期の景気低迷に陥っている日本。この15年間くらいの間で銀行の預貸率は大幅に低下してきました。1995年、日本の銀行の預貸率は平均115%程度でした。
90年代後半、北海道拓殖銀行や山一證券が倒産するなど日本全体で金融危機が起きました。
当時の日本の銀行は世界から完全に信用を無くしていましたので、日本の銀行が資本市場で資金を調達しようにも、金利が上乗せされるという屈辱的な扱いを受けていました(←ジャパンプレミアムなどと言われていましたね)。どの銀行も資本不足が懸念され、それが金融不安を引き起こしていましたので、銀行はこぞって新規融資をストップ(←貸し渋り)して、貸出金の回収(←貸し剥がし)に走ったわけです。そうして115%前後あった預貸率は一気に70%前半程度にまで下がりました。これで金融システム不安は免れたわけですが、一方で世の中へお金が回らなくなったわけですから景気は冷え込み、デフレがいよいよ深刻化していったわけですね。
そして、金融システム不安が完全になくなった今でも日本の預貸率は約74%。デフレと需要不足に苦しむ日本の企業は積極投資を避けて、新規の借り入れには慎重なままですし、個人の家計も将来不安から消費を抑えて預金を積み増しているからです。
貸出に回らずに銀行に余っている160兆円ほどの預金は、政府が大量に発行している国債の引き受けに回っています。デフレ不況で生まれた金余りの状態が政府の財政規律を甘やかしているわけですね。銀行の預貸率が100%を切っているようでは景気が回復したとは言えません。預貸率が74%ではデフレも解消しないし、金利も低いままでしょう。そして政府だけが借金増やしていく、という悪循環が続いていきます・・・。
■欧州銀行の貸し渋り、日本への影響は?
銀行が貸出資産の圧縮を進めれば、市場に十分なお金が回らなくなり、企業の経済活動は滞ります。欧州の銀行はグローバルに展開していますのでその影響がユーロ圏だけにとどまらない恐れがあります。前出の新聞記事によりますと、欧州銀の融資先を地域別にみると欧州向けは50~60%にとどまり、アジアと中南米向けがそれぞれ5%程度を占めるそうです。アジアや中南米の経済的新興成長国は、成長性はあるもののその分リスクも高いですから、まっさきに銀行の資産圧縮のターゲットになりやすいでしょう。特に日本経済と関係の深いアジアの新興国で資金の流れが滞り、その成長力が鈍化すると日本への影響も少なくないことが心配されますね。
悪い先例である日本は、不良債権処理にもたついたのがきっかけで貸し渋りに走り、経済の潤滑油であるお金を融資という形で市場に出していくことができなくなりました。余ったお金は政府の国債で運用しています。
直接的に企業や家計へお金が回っていないわけなので需要を呼び起こすことが出来ず、結果として預貸率がいつまでたっても上昇しないという悪循環を生んでいます。欧州経済にとっても預貸率の低下が、デフレや本格不況の入り口になりかねません。
その影響は世界に及びます。
欧州経済はまだまだ楽観できる状態ではないのです。
しっかり注視しておきたいものです。
今回は以上です。
日本がもっともっと良くなりますように。
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