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「雇用延長義務化と年金問題の関係とは?」~老後の不安に負けないように!~

「雇用延長義務化と年金問題の関係とは?」~老後の不安に負けないように!~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は定年延長の義務付けに向けた法改正についてです。
長く働ける社会は確かにいいですけど・・・。

政府は今、企業に『希望者全員の65歳までの継続雇用を求める高年齢者雇用安定法改正案』を国会に提出しています。この法案が通れば、希望する人は65歳まで働けるようになります。

この法案に対する働く側の人の気持ちは以下のようです。
↓↓↓
<雇用延長の義務化「賛成」49% 定期的収入ない不安強く>
(日本経済新聞2012年6月3日付)
『調査ではこの方針に「賛成」が約49%、「反対」が約15%。
「賛成」理由の第一位は「無収入・無年金では生活できないから」
「反対」理由の第一位は「若者の採用が絞られてしまう」。
回答を年代別に見ると、年齢が高いほど「賛成」が多く、若い層では少なくなる傾向も鮮明だった。』


■現在の定年制度は?

今の制度はどうなっているか確認します。
今の法律(高齢者雇用安定法-2006年)でも、すべての企業は従業員に65歳までの雇用機会を提供するために以下の3つのどれかを導入することが義務付けられています。

(1) 定年延長:定年を65歳まで引き上げる
(2) 雇用延長:定年後も引き続き雇用する継続雇用制度を導入する
(3) 定年廃止:定年制度を廃止する
 
今の実施状況は82.6%の企業は(2)雇用延長で対応しています。60歳かそれ以前に一旦退職させた従業員を嘱託など雇用形態や役職を変えて再雇用するような形ですね。
 ここで注意すべきは、企業に義務付けられているのは「制度の導入」であり「再雇用」ではないということ。 ですから「継続雇用制度」を導入している企業でも全員が再雇用されているわけではなく、選別されて再雇用されない場合もあるということです。


■雇用延長の背景にあるものとは?

政府(というか厚生労働省)が雇用延長の義務化を進めている一番の理由は、厚生年金の支給開始年齢の引き上げがもう始まっているからです。
ご存知の通り、年金の支給開始年齢は段階的に上がっていっています。
今は60歳からですが、来年(2013年)には61歳から、2025年以降は完全に65歳からになります。ですから昭和36年生まれ以降の男性、昭和41年生まれ以降の女性の方は原則として65歳からしか年金はもらえません。そうなると従来からの60歳定年の慣習のもとでは、「年金もなければ、仕事もない」となって生活に困る人が出かねない、という懸念です。
厚生労働省は、「希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は47.9%にとどまっている」という発表もしています。
この流れを受けて、労働組合側はさらに「希望者は65歳以降も再雇用を!」と気勢を上げています。
一方で、経済界は雇用規制が強化されることになるのでこの改正案に反発しているというのが現状です。


■60歳以降の生活はそんなに厳しいのか?

でも個人的にはこの改正案には首を傾げて「ちょっとなぁ・・・」と思います。
効果についても「?」です。

まず実態として60歳以上の雇用環境はそれほど悪くありません。
厚生労働省の調べでは、60歳~64歳までの人で「仕事がしたい」と希望する人の74.8%が仕事に就いています。男性に限って言えば81%です。雇用を希望したけど雇用されなかったというという人はわずかに1.8%だそうです。
要するに現時点では結果として継続雇用を希望すればほとんど雇用ができている状態です。
先の厚生労働省データで「希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は47.9%にとどまる」とありましたが、内訳を見ると大企業では10%程度ですが、中小企業では50%です。すでに中小企業では半数の企業が希望者全員を65歳まで雇用しているということです。
中小企業の求人倍率はいまも1倍を超えています。職種や企業規模で選り好みをしなければどこかに働き場はある、というのは若者も高齢者も変わらないのではないでしょうか。

もし、不幸にして60歳で仕事を失った人が65歳まで年金がもらえないから生活できない、というなら年金の支給時期の繰り上げを希望すればいいと思います。年金には最大5年の繰り上げ支給の制度があります。希望すれば60歳からでももらうことは可能です。早めにもらうと1か月につき0.5%の減額になる(逆に繰り下げの場合には0.7%の増額)などいろいろ条件はありますが、どうしても厳しい人はやむを得ないでしょう。


■老後の不安は収入不安

今後ますます高齢化が進む中、60歳を過ぎても元気で意欲がある人ならばいつまでも働き続けることができる社会は確かに理想的です。でもそれを国が企業に希望者全員を65歳まで雇用することを義務付けるのはどうなんでしょう。そもそも年金問題の尻拭いをこれ以上企業に押し付けるのはお門違いではないでしょうかね。
どんな形にせよ労働規制の強化は企業側にとっては負担が増えることになります。企業に元気がない今、定年延長が義務化されたら間違いなく若年層にしわ寄せがいくでしょう。非正規雇用もさらに増えると思います。大企業では早期退職制度の年齢がもっと早まっていくかもしれません。そうなると逆に高齢者の失業を増やしてしまうことにもなりかねないと心配します。

まず、厚生労働省自身ができることをちゃんとやってほしいですね。
国民年金の未納者が40%もいるようでは制度そのものが持ちません。年金制度そのものを見直すのは大変ですが、まず年金未加入者を減らすといったできることから努力をしていただきたいですね。

そして私たち現役世代も、国に老後の不安をあおられるばかりでなく、「自分の老後は自分でなんとかしたる!」という気概と準備が欲しいところです。
老後の備えも含めてライフプランを組んでおくべきでしょう。住宅購入や積立預金、保険などについての方針の設計や見直しは早めにやっておいた方がいいでしょうね。あと老後の不安は収入不安ですから、いつでも働き口が見つかるような能力の向上に努めること、そしてなにより大事なのは何歳になっても健康であることと、でしょうね。
厳しい時代ですが、がんばりましょう!ご同輩。

今回は以上です。
日本がもっともっと良くなりますように。






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