誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

「消費増税の目的はなんなのか?」~増税にどんな政策を加えるかが大事なのでは?~

「消費増税の目的はなんなのか?」~増税にどんな政策を加えるかが大事なのでは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回は消費増税についてです。

6月26日、「社会保障と税の一体改革関連法案」が衆院を通過しました。
これで消費税が増税されることはほぼ決まりでしょうね。

法案に反対票を投じた小沢一郎元代表は、「増税だけが先行するのは国民への背信行為。」と現民主党執行部を批判しました。
しかし、政局としての戦略はあるのでしょうが、こと政策に関して言えば「どっちもどっちだなぁ」と思います。


■増税は仕方ない、でも・・・

厚生労働省の試算では、社会保障負担は2012年度の101兆円から25年度には146兆円まで膨らむとしています。
昨年度の一般会計では、歳出が94.7兆円に対して、歳入は50.4兆円。差額の44.3兆円は、借金である国債で賄われました。

日本国民もバカではありません。
厚生労働省に言われるまでもなく、これだけ毎日メディアで「高齢化で社会保障費が毎年1兆円ずつ増えていく!」「国の借金は世界一!」などと喧伝されれば、「増税も仕方ないな」と思っています。
私たち国民は多かれ少なかれ、「今の社会保障費が借金によって賄われていて、それはつまり将来の世代に負担が先送りされている。」ということに問題意識を感じています。


■世代間負担の格差は増税だけでは解消しない

世代によって給付と負担に大きな格差があることは周知の事実です。
今の「給付世代(60歳以上)」と「現役世代(60歳以下)」と、今そしてこれから生まれてくる子供たちの「将来世代」。世代が下がっていくほど国から受ける給付よりも負担する方が大きくなっていきます。
その理由は大きく2つ。
ひとつは、「財政事情が厳しいこと」。もうひとつは「少子化で将来世代が減少していくため」です。
増税は財政健全化に向けて重要な施策ではあります。
しかし増税だけに依存して財政を立て直すときの問題点は、将来世代のためにはなるものの今の現役世代への負担は増すことですね。すでに存在する今の受給世代と現役世代の負担と給付の格差はさらに広がっていきます。
つまり、増税だけではなくて、今現在の歳出の削減が不可欠なのです。


■抑制策が必要なのに、むしろ充実策が進行している。

野田首相は、「増税だけが先行しているわけではない!」と言っています。
それはどういうことかと言うと、増税だけではなく「社会保障の充実策も進めている。」ということです。

調べてみると確かにそうです。
・子育てに関しては、幼稚園と保育所の一体化(認定こども園の実現)や待機児童の解消施策(←ちなみに予算は約7,000億)。
・医療・介護に関しては、在宅医療の充実(←同じく約8,700億)、医療・介護機能の強化(←約5,000億)
・年金に関しては、最低保障年金や低所得者の保険料軽減(←約6,000億円)
などなど。
今法案に出ているものだけを足して行っても毎年約1兆円の予算が社会保障の充実策として出されています。

問題は法案に入れられたこれらの政策のほとんどが社会保障費のさらなる膨張につながることです。
逆に削減策である、70歳~74歳の医療費自己負担の引き上げ(削減予算▲約2,000億)や物価調整を見送ったためにマクロ経済スライドでデフレ適用されずに払いすぎている年金額の正常化などは横に置かれています。

高齢化の進展で1兆円の自然増。さらに追加の拡充策で1兆円の増。
これでは今よりもさらに負担は増えていきます。

消費税を増税して歳入を増やしたとしても、歳出をそれ以上に増やしていたらいつまでたっても財政は健全になりませんよねぇ。


■野田さんも小沢さんもどっちもどっち?

小沢グループが増税に反対していますが、反対の理由を考えると賛同しかねるのはその部分です。
小沢さんは「増税だけが先行するのは民主党の最初の約束と違う」と言っています。
小沢グループの政策は明らかになっていないので今のところ何とも言えませんが、推測してみます。
民主党が先の選挙のマニフェストで約束したことは、月26,000円の子ども手当や毎月7万円の最低保障年金などを増税せずに実施する、などでした。
どれもこれも結局財源がなくて破たんした政策です。
小沢さんが言っている「国民との最初の約束」というのがそういう施策なのであれば、つまるところ社会保障の充実策を増税より先にやれということになりますね。

野田さんと小沢さんの違いが、
「増税→社会保障の充実」(野田さん)
「社会保障の充実→増税」(小沢さん)

といった増税と社会保障充実策の順番だけなのだとするとどっちも大して変わりません。いずれも財政健全化や将来世代への負担を残さないという点では無策ということになります。


■増税の目的は「財政の健全化」

増税の目的は、「社会保障の充実」ではないはずです。
増税の目的は、「財政の健全化」です。
高齢化で自然に増加する社会保障費に備えて将来世代への負担を軽減することです。
ですので、財政健全化を考えるときに必要なのは、「増税+社会保障の充実」ではなくて、「増税+社会保障費の抑制」だと思います。
どう歳出を抑えて、歳入を増やすか。歳入を増やすには増税だけではなくて経済規模を大きくすること(成長戦略)も必要でしたよね。(←ここは以前、消費増税について書いたこちら↓もご覧ください)。


借金まみれなのに、「負担は少なく、保障は大きく」で上手くいくわけがないことは子供でもわかります。
だからもっと政府は誠実にこれからの国民負担と受益の関係を丁寧に説明してほしいものだと思います。社会保障の抑制というマイナスなこともしっかり説明できる人じゃないと信頼できません。
これ以上国民をバカにしないでいただきたいと思う今日この頃です。

今回は以上です。
次回、もっと日本が良くなっていますように。


-------------------------
今回の記事はいかがでしたか?
「ハッピーリッチ・アカデミー」の「カワセ君のコラム」では、過去のバックナンバーをご覧頂けます。
また、ハッピーリッチ・アカデミー会員に登録して頂くと隔週でメールマガジンにてお届けします。