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「なぜアメリカの住宅価格は下がらないのか?(前編)」~年平均5%上昇するシアトルの秘密とは?~

「なぜアメリカの住宅価格は下がらないのか?(前編)」~年平均5%上昇するシアトルの秘密とは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

当ブログ「世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/hyas/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
先日、不動産流通市場の視察のためにアメリカ・ワシントン州シアトルに行ってきました。
今回と次回はそのご報告とともに日米の不動産マーケットの違いについて書きたいと思います。


■住宅を買って資産形成ができる!?

「アメリカの住宅は資産価値が下がらない」という話を聞かれたことはありませんか?
住宅を買った価格と数年間住んだ後に売る価格にあまり差がないという話です。人気のある街区の住宅なら買った時の価格よりも高い価格で売れたというケースすらあります。
アメリカにはサブプライムローン問題の影響を引きずって住宅価格が大きく下がっている都市も確かに存在しますが、住宅による資産形成に結びつく都市計画に成功しているワシントン州シアトルではさほどサブプライムの影響もなく、最近では住宅価格はむしろ上昇しています。
その秘密はなんなのでしょうか?


■シアトルの住宅は年平均5%上昇している!

今回視察に行った街は米国北西部に位置するシアトルです。イチローがいたシアトル・マリナーズの本拠地としても知られていますね。シアトルに着いてまず印象的なのは街全体の美しさです。人口56万人の西海岸有数の大都市でありながらワシントン湖やユニオン湖などの数多くの湖に囲まれた街は豊かで美しい緑に包まれています。
住宅地は青々とした木々と芝生の前庭を持つ洗練されたデザインの家がきれいな街並みを形作っています。誰もが「ここで暮らしたい」と思えるような計画された街づくりがなされているように感じます。

シアトルの住宅の平均売買価格は、1990年を起点としたこの20年間で、前年対比平均で5.0%程度の上昇で推移してきています。
住宅の価値が上昇していくわけですから、シアトルに家を買って数年住むと資産ができるわけです。
例えば、若いときに中心市街地にある住宅を買って、老後はその住宅を売却して得た資産で郊外の別荘地のようなところの住宅を買ってのんびりと老後を過ごす、なんていう人生計画が本当に実現されているのです。シアトルから車で一時間ほど走った緑あふれる広大な高齢者住宅街区にも行きましたが、ゴルフ場に隣接した別荘のような住宅に住み、プールやジムのある立派なセンターハウスで汗を流すシニアの皆さんが生き生きと暮らしておられました。こういう優雅な暮らしが決して一部の富裕層だけでなく、中間層でも実現できているところが素晴らしいと思いました。
30年後には建物の価値はほとんどなくなる日本とは大きく状況が異なります。
うらやましい限りですよね。


■シアトルの住宅価値が下がらない3つの理由とは?

なぜシアトルの住宅は価値が下がらないのでしょうか?
いろいろな要因がありますが大きく3つのポイントがあるのではないかと考えられます。
それは「需要」と「供給」と「仕組み」です。

まず、「需要が高いこと」。
つまりシアトルの住環境としての価値そのものが高く、また人口も増加していることがあります。シアトルの都市としての特徴は、世界的に活躍する企業(マイクロソフト、ボーイング、スターバックス、タリーズコーヒー、アマゾン、コストコ...等)の本社が集まっているという点と、全米でも屈指の人気校であるワシントン大学をはじめとする教育環境が充実していることがあげられます。世界中から多くの知識労働者が集まる環境となっています。また好業績の企業が多いので平均的な所得水準も高いレベルにあります。

次に、「供給がコントロールされていること」。
これはシアトルに限りませんが、アメリカの多くの都市は都市計画がしっかりしていて、住宅においても新築の供給数が行政によって制限されています。一般的に住宅の需要に応じて新築の供給数が抑制的にコントロールされています。ですからシアトルのように人気のある都市では中古住宅がよく売れるわけです。住宅の価格は、他のすべての財と同様に「需要」と「供給」のバランスで決まりますから、アメリカで起きているのは、『需要>供給=価格上昇』・・・ですね。
シアトルのように景観が美しく利便性が良くて人気の高いロケーションに、所得水準の高い知的労働者が集まってくる環境があれば都市としての住宅地経営が行いやすい環境にあると言えますね。


■圧倒的な中古住宅流通量を支える不動産流通の「仕組み」とは?

三点目が、「不動産の取引を円滑にさせるための仕組み」が整っていることです。
シアトルに限らず全米の不動産流通の仕組みはとてもよく整備されています。

アメリカの不動産市場を語るとき、中古住宅市場の大きさは抜きにできません。
少し古いデータですが、2004年の日米住宅流通戸数を比較すると・・・

・日本 :新築116万戸+中古17万戸=133万戸
・アメリカ :新築195万戸+中古678万戸=875万戸

人口はアメリカが日本のほぼ2.5倍に過ぎないのに対して住宅流通量は新築・中古あわせてなんと6.5倍。中古に限って言えばなんと38倍です。
中古住宅の流通量が圧倒的に違うのです。
日本人が家を買うのは人生で1~2回なのに対して、アメリカ人は平均6~7回住宅を買い替えると言われています。
私たちの感覚でいうとほとんどクルマを買うくらいの頻度ですね。
住宅を売ることも買うこともアメリカ人にとってはとても身近で頻繁に起きることです。ですから不動産取引の仕組みがとても進んでいます。エンドユーザーにとっては不動産取引市場がとても売りやすく、また買いやすい仕組みになっています。
この日米の不動産取引市場の仕組みは大きく異なります。日本が、今後人口が減少していって必然的に新築住宅が減っていくことを考えるとこの中古住宅が円滑に流通していく仕組みを整備することはとても大事なテーマになってくると思います。
この日米の不動産流通の仕組みの違いと日本の問題点については次回、書きたいと思います。

今回は以上です。
次回、もっと日本が良くなっていますように。
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