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「米国はなぜ国民皆保険にしてこなかったのか?」 ~医療保険改革法にみるアメリカの苦悩〜

「米国はなぜ国民皆保険にしてこなかったのか?」 ~医療保険改革法にみるアメリカの苦悩〜

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
今回もアメリカの話。医療保険改革法についてです。
このニュースを知ると、今のアメリカが見えてきます。また日本のことも。


■医療保険改革法(オバマケア)、裁判の結果は?

6月下旬、ちょうど私がアメリカ・シアトルに滞在していたとき、オバマ政権が成立させた医療保険改革法が「合憲」という判決が出たことが大きなニュースになっていました。

医療保険制度改革はオバマ大統領が2008年の大統領選の公約に掲げた重要政策でした。そして、2010年3月、『原則、アメリカ国民に健康保険の加入を義務付ける』という「医療保険改革法」がスッタモンダの果てにようやく成立しました。この「医療保険改革法」は通称「オバマケア」とも呼ばれています。
しかし、「これは個人の自由を侵害する憲法違反だ」として州の知事たちが政府を提訴しました。その判決が今回、「合憲」となったことで「オバマケア」が法律として揺ぎないものとなったのです。これで2014年からアメリカの医療保険のあり方が大きく変わることになることが確定的になりました。


■オバマケアをめぐる背景

日本は、国民全員が健康保険に入らなければならないという「国民皆保険制度」です。裕福な人でも貧しい人でも誰でも少しの負担でちゃんとした医療を受けることができます。でもアメリカには高齢者向けなど一部の例外を除き、公的な医療制度がありませんでした。アメリカは先進主要国の中で唯一、国民皆保険ではない国でした。医療保険は個人個人が任意で民間の保険会社と契約しなければいけません。民間の医療保険の保険料も支払うことができない人は無保険になります。現在アメリカではおよそ5,000万人ちかくの人たちが無保険者だそうです。アメリカの人口がおよそ3億人ですから約16%、6人に1人が無保険です。こういう人が病気になるとアメリカの医療費は高額なのですぐ破産へまっしぐらです。「盲腸で破産した」などという冗談のような笑えない話もあったくらいです。

これを変えたのがオバマ政権です。「オバマケア」によって国民皆保険までにはいきませんが90%以上の人が医療保険に入れるようになります。これで、経済的理由で適切な診療が受けられずに、死ななくてもいい命が守られることになるのは素晴らしいことだと思いますし、私たち日本人にしてみればそれが当たり前のことでしょ、という認識を多くの人が持つのではないかな、と思います。


■共和党支持者がオバマケアに反対する理由とは?

合憲判決の翌朝、アメリカ人の初老の紳士と話をしていましたら、その人はオバマケアに反対していて違憲判決が出ることを信じていたとのことでした。

「なぜか?」と聞くとその人の主張はだいたい以下の通りでした。
・「医療保険制度に入るかどうかなどは個人の自由。国が強制することではない。アメリカは自由の国。保険が強制になったらそれはもう社会主義国家だ。」
・「ただでさえアメリカの企業は弱っているし、アメリカ財政も悪化している。それなのにオバマケアは企業負担を増やし、財政をさらに悪化させる。」
・「アメリカは日本とは違う。どんどん貧しい移民がやってくる。人口はこれからも増えていく。自分の国で生きていけない人たちまでアメリカが面倒を見る余裕はない。」

そして「この判決によって大統領選において共和党は不利になるだろう。」とも話していました。
オバマケアに反対して提訴した州知事のほとんどは共和党です。共和党は、医療保険制度に入るかどうかは個人の自由に任せるべきであり、国が医療保険制度を作るのは社会主義的政策である、として反対しています。私と話していた初老の紳士も共和党支持者でした。

確かに共和党のロムニー候補は、今苦戦しているようですね。
ロムニー候補は今でも医療保険加入を義務付けないようにしたいと考えているようです。しかし加入を義務付けずにオバマケアの制度を維持するというのは無理があるでしょう。
国民健康保険はみんなが入るから制度として成立するのです。
入りたい人だけ入って入りたくない人は入らなくてもいい、として病弱な人だけが加入して、健康な人は参加しないとなると保険料は高くなってしまいます。そうなるともう社会的弱者は保険料を払えなくなってしまい国民保険としては成立しなくなります。それに政府の負担も莫大なものになるでしょう。

ただ、オバマ政権としても社会保障費を増やしながら、どう財政を立て直していくかという困難な課題を抱えています。共和党も民主党もどっちも大変です。アメリカ国民がどう判断していくかは、日本も同様な問題を抱えているだけによく見ておきたいものです。


■さて日本では?

福祉と負担。日本でもよく議論されるテーマです。
「アメリカは自由主義。移民が多いこともあり、自己責任にしないと国の財政が持たない。」
こう語った共和党支持者の初老の紳士の話は日本にはないアメリカの現状を見た思いでした。
しかし日本でも国民健康保険に入らない(入れない)人が増えています。日本では保険に入っていない人が病気になった時でも冷たく突き放すことはせず、生活保護で守ったりしています。
社会保障費の増加により政府の財政が悪化し、地方自治体の生活保護負担も増大しつつある今、止むにやまれぬ事情があるケースも多いかとは思いますが、まずは国民保険料の支払を徹底させたいものです。
盲腸くらいで破産するような人がでるような国にはしたくありませんからね。


今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。
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