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「金融緩和って効果があるんでしょうか?」 ~日本の問題点、流動性の罠とは?~ 

「金融緩和って効果があるんでしょうか?」 ~日本の問題点、流動性の罠とは?~ 

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。
引き続き不透明感が続く世界経済。EU、米国に続き日本も金融緩和政策を発表しています。
今回は金融緩和・量的緩和についてです。
さて効果はどうなんでしょうか?


EU、アメリカ、日本が競争しあっているかのような世界同時金融緩和の状態です。
さて、金融緩和ってこの不況に対してどのように効果を発揮するのでしょうか。


■金融緩和のメカニズムとは?

まず金融緩和の流れを確認します。
「金融緩和をすべきだ」という時に、よく「もっとお金をじゃんじゃん刷ってバラまけばよい」という話がでますよね。あれは通貨の供給量をもっと増やして、世の中にお金を回そうということの比喩表現です。
実際にはお金は刷らなくても通貨の供給量は増やせます。
中央銀行である日銀が世の中の銀行が保有している準備口座にお金を入れます。出し方としては直接日銀が融資をする場合もあれば、銀行から国債など債券を買う場合もあります。
融資でも債券購入でも、お金を市場に流し込むことで金利上昇を抑え、資金の流動性を高めるという点では効果は同じです。
これが景気対策になるための前提は、銀行が資金を大量に保有すれば銀行はその資金を世の中に貸し出すだろう、ということです。
普通はそうなります。
日銀との準備口座の金利はゼロですから、そんな口座にお金を寝かせておくのはもったいない。
ですから、銀行はその資金を融資して運用します。貸した資金は、企業の投資に回り、それが売上になって、また銀行に戻ってきます。それをまた融資して・・・、というのを繰り返します。
こうして通貨の供給量が増えていく、というメカニズムですね。


■日本の問題点、流動性の罠とは?

ここから今の日本の問題点です。
日本はずっと金融緩和をしているのに、全然景気が回復しません。
金利はこれ以上下がらないレベルまで下げているし、さらに量的緩和といって大量の資金を出しているのに、お金の供給量は増えないし、ずっとデフレで不況のままです。

こういう状態をノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン教授は、「流動性の罠」と呼んでいます。
中央銀行が資金の流動性を高めていって、金利がゼロ水準にまでなって、企業が手持ちの資金を増やすのにまったくコストがかからなくなっているのにマネーサプライが高まらない状態。これが「流動性の罠」です。

クルーグマン先生は著書「さっさと不況を終わらせろ」の中で、この「流動性の罠」について以下のような論旨で書いています。(以下要約)
『名目金利がゼロになって景気刺激策として金利引き下げが不可能になった状態で、さらに量的緩和をして流動性を高めてもマネーサプライが高まらない。それでもまだ不況が続いたときにはそこからどう逃れればいいのか?まず持続的な金融政策が必要だ。金融緩和は一回だけでは効かない。コストゼロの資金を皆がため込むだけで市場には出てこないからだ。加えて必要なのは長期的なインフレ期待を高めること。インフレ期待が高まれば将来の実質金利は下がり、景気刺激効果がある。しかし量的緩和をしただけではインフレ期待には直接的にはつながらない。インフレ、すなわちモノの値段が上がるのは、商品の需要が高まった時だけ。好況にならなければインフレは起きない。
結局、原因は需要が小さすぎること。これは産業構造の問題でもなんでもない。単なる需要不足だから需要を作ればよい。誰も支出しないのなら、政府が支出を増やせばよい。その目的は問わない。』
(出典:ポール・クルーグマン著「さっさと不況を終わらせろ」より)

要するに流動性の罠の下では金融緩和を小出しにやっているだけではダメ。大事なのは、金融緩和をとことんやること、加えて経済成長策を打つことだということです。
景気がどん底で売上が上がる見込みがないのなら事業を拡張するわけにはいきませんから企業はお金を使いませんよね。

量的緩和をして日銀がお金を銀行に大量にお金を供給しても決して企業や国民が豊かになるわけではありません。お金が流動的になっただけです。使いたいときに使えるようにして資金が枯渇するのを心配しなくて済むようになっただけ。

成長期待がないのにむやみにお金を使う人はいないのです。ましてや今のEU、アメリカ、日本ともにそうですが、金融緩和してもそのあとに増税が予定されているようなら誰もお金を使わないのは当たり前でしょう。金融緩和か財政出動かという二者択一の話ではなく、両方。しかもとことんやった方がいい。・・・というのがクルーグマン先生の主張です。


■財政出動の目的はなんでもいい?

クルーグマン先生は、「流動性の罠の下では財政出動した方が長期的な負担は減る。」と言っています。
クルーグマン先生の教えはよく理解できます。ただ、政府が財政出動してでも需要創出が大事なのはわかるのですが、「その目的は何でもいい」というのは「本当にそうなのかな?」とも思います。
日本では、古くは自民党の公共事業、民主党でもエコポイントなどを自動車や家電、住宅などで財政出動をして需要創出を実施してきました。でも、一時はよくなるものの持続性はなかったですよね。
(クルーグマン先生は「その規模が小さく、かつ持続性がなかったのだ!」と言うでしょうけど・・・)
日本においてはいまさら誰も使わない空港を作ったりダムを作ったりしても景気は良くならないと皆が思っています。成長戦略に基づく「何に政府支出をするのか」というコンセンサスはやはり大事だと思うのです。


■経済成長と増税に関する民主党と自民党の違い

自民党では安倍晋三さんが新総裁になりました。
保守の旗頭であり、外交面でも期待されていますが、私が期待しているのは経済政策です。
安倍さんは経済政策に関しては、デフレ脱却をメインに打ち出して、消費税増税も経済成長を前提にしています。経済成長しない限り増税はしないとも明言しており、ここが野田・民主党との違いですね。
徹底した金融緩和→デフレ脱却→経済成長→それから増税。
この順序は正しいアプローチではないでしょうか。
あとは何をして経済を成長させるのかというところを議論してはっきりさせていただければ、と思います。

今回は以上です。
もっと日本が良くなりますように。

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