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「日銀の国債引き受けはなぜダメなのか?」~「引き受け」と「買い取り」の違いとは?~

「日銀の国債引き受けはなぜダメなのか?」~「引き受け」と「買い取り」の違いとは?~

川瀬 太志

ハイアス・アンド・カンパニー取締役常務執行役員。都市銀行・大手経営コンサルティング会社・不動産事業会社取締役を経て現職に。住宅・不動産・金融の幅広い経験を元に、個人の資産形成支援事業を展開中。

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こんにちは!ハイアス&カンパニーの川瀬です。

いよいよ選挙ですね。
各政党の政策の話を興味深くみていますが中には「ん?」と首を傾げるものもありますよね。

衆議院選挙を前にして、景気回復、財政再建、福祉充実、脱原発、消費税反対などなど、色んな政党が色んな政策を言っています。
どの政党であっても目指す最終ゴールは「日本国民の生命と財産を守り、安心して暮らせる社会をつくること」であり、同じはずです。
でもそのゴールへ向かうアプローチが全然違うんですね。
それが政治の面白いところなのですが、中には素人の私が聞いても「それはダメでしょ?」と思うような理屈の話も結構あります。
例えば、次の話なども結構すごい話ですね。


■「財源は日銀の国債引き受けです!」はダメ?

<安倍総裁 「国債、日銀引き受けを」>
(日本経済新聞 2012年11月17日付)
『自民党の安倍晋三総裁は、衆院選後に政権を獲得した場合、金融緩和を強化するための日銀法改正を検討する考えを重ねて表明した。「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていく」と述べ、日銀が建設国債を全額引き受けるのが望ましいとの考えを表明した。』

自民党は景気刺激策として公共投資を拡大しようとしています。
まぁその是非はさておいて、問題はその財源を「建設国債発行して日銀に全部買ってもらう」としていることです。

この「国債の日銀引き受け」はさすがにダメだと思います。
当然、政府はすぐ反応して反対意見を出しました。

<国債引き受けは「日銀の禁じ手」 財務副大臣> 
(日本経済新聞 2012年11月19日付) 
『武正財務副大臣は19日の記者会見で、日銀による建設国債の引き受けは「経済活動に混乱が生じる恐れがある禁じ手」とし、慎重に考える必要があると述べた。(中略)
野田佳彦首相も、自民党の安倍晋三総裁がデフレ脱却に向け日銀に建設国債の全額引き受けに言及したことについて「あり得ない」と厳しく批判した。』

金融に関係している人なら「日銀引き受けはありえん」と思うと思いますが、一般の人には何の話なのかわからないかもしれませんね。


■国債の「引き受け」と「買い取り」の違いとは?

国債を日銀が直接引き受けることの何がダメなんでしょうか?
理由は「コントロールできないほどのインフレになるから」なんですが、そうすると「もう20年近くも深刻なデフレが続いているんだからむしろインフレになるならいいじゃないか」とも思えますよね。
また、現実的に今現在、日銀は国債を大量に買い続けています。
金融緩和の施策の一環で民間の銀行が保有している国債を買って銀行に資金を出しています。これは「買い取り」と言って市場に資金を供給するデフレ対策です。
(参考:ハッピーリッチ・アカデミー151号「金融緩和って効果あるんでしょうか?」 )

今回安倍総裁が言った、日銀による国債の「引き受け」は、この「買い取り」とどこが違うのでしょうか?

「買い取り」は市場を通じて日銀が民間銀行から国債を買うのですが、「引き受け」とは、日銀がお金を刷って直接政府に予算として渡すことです。これだといくらでも予算なんて作れます。当然日本円の価値はあっという間になくなります。すごいインフレが起きます。だからこの日銀引き受けは法律で禁止されているのです。

「国債引き受け」について日銀のホームページにはこのように書いてあります。
『日本銀行における国債の引受けは、財政法第5条によって原則として禁止されています(これを「国債の市中消化の原則」と言います)。これは、中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛らなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからです。そうなると、その国の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまいます。これは長い歴史から得られた貴重な経験であり、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けが制度的に禁止されているのもこのためです。』(日本銀行ホームページ:「おしえて日銀」より)

国債は市場を通じて買わなければならないという原則があるのです。今、国債が大量に発行されながら、国債が暴落せずに流通しているのは、日本国民の膨大な預金が国債を裏付けしている構図があるからです。でもこれを日銀が何の裏付けもない紙幣を刷って、その紙幣で国債をどんどん引き受けて政府にお金を渡すようになったら、あっという間に「円」の信用は失われるでしょう。

「買い取り」は、国の借金を国民が貸しています。
「引き受け」は、国の借金を国自身が貸すことになります。

貨幣価値が下がる=インフレ、ですが日銀引き受けのような通貨が信頼を失って起きたインフレはコントロールができません。だから「通貨発行を政府から切り離して法律で禁じる」ということは先進国では当たり前のことになっているんですね。


■議論は大事!皆で日本のことを考えよう!

その後、世論の一斉の反発を受けて、安倍総裁も少しトーンを落としました。
「引き受けといっても金額は制限する。ハイパーインフレにはしない。」とも言っています。
この日銀引き受けは、増税をせずとも財政の財源を確保できる上にデフレ対策にもなるということでよく話題にはなります。でもさすがに日銀はやらないでしょうし、その前に国会で日銀法の改正法案が通らないでしょうね。
自民党にしてみたら、出口が見えないデフレ・円高に手を付けなかった民主党政権に「強気の金融政策」で違いを見せてやろう、という戦略なんじゃないでしょうか。
対立軸をはっきりさせるには「自民党はここまでやる覚悟だぞ!」とちょっと極端なことを言うのもひとつです。実際、一連の安倍発言を受けて少し円安になりましたしね。
だから「日銀の国債引き受け」も選挙パフォーマンスの類なんじゃないかなと思います。

さぁいよいよ選挙です。
テレビや新聞などで解説がないとなかなかわからない政策も多いですが、みんなが日本の現状と将来について考えて、議論するのはとてもいいことですよね。
政策への理解が深まります。
「誰がなっても変わらない」とか「政党が多すぎてわからない」とか言わずに折角の選挙を楽しみましょう。



今回は以上です。

もっと日本が良くなりますように。



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