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スマホで失うもの  その5  忘れる

スマホで失うもの  その5  忘れる

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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スマホで失うもの  その5 忘れる

  商社時代の同僚から聞いた話だ。同僚は、10年近く南米に家族と一緒に駐在した。駐在し始めた時、長女が幼稚園前だったが、すぐに現地に馴れた。
 現地の言葉、英語よりもとりわけスペイン語をどんどん覚えていった。現地の友達もたくさんできて、楽しい生活を過ごしていた。日本人学校にも通ったが、スペイン語はネイティブと同じように、上手だった。

 中学3年の頃に、日本に帰国して、日本の私立中学に入った。両親は帰国後、家庭教師をつけたりして、気を使ったが、非常にリベラルで良い雰囲気の中学だったので、ゆっくりととけ込んでいった。

 高校に入った後、南米で友人だった家族が日本にやってきた。家族のつきあいをしていた友達が、家に入ってスペイン語で話し始めた時、お嬢さんは自分がスペイン語を完全に失っていることに、突然気が付いた。話そうとしても、言葉が浮かばない。自分でも当然、話せると信じていたスペイン語が、出てこない。突然奪われたように気が付いたのだった。
 相手の友達も驚いた。「どうしたの、あんなに話していたのに...」と言われて、お嬢さんは強烈なショックと恐怖感に襲われたという。
 友人家族が帰った後も、呆然としてしまい。部屋に閉じこもってしまった。せっかく勉強を始めていた英語も関心をなくしてしまった。その後のことは聞いていないが、きっとスペイン語を勉強し直して、取り戻していったと思うが、人によっては、最悪、外国語嫌いになることもある。「言語緩慢忘却性ショック」などと言うが、「使わないと忘れる」。当たり前のことなのだ。幼いころ、子供のころに覚えた言語は、覚えるのも早いが忘れるのも早い。この御嬢さんも、そのあとで、落ち着いて思い出そうとしていたら、スペイン語がポロポロ出てきたのではないだろうか。

 これと同じなのが、漢字学習だ。漢字を読めることから、書けると信じていても、スマホで画面をひっ掻くか、パソコンでもキーボードでしか、文章を書いていないと、日本語の文章はますます書けなくなる。端的には、「日本語を読むことができるだけの日本人」になってしまうのだ。

 もちろん日本語だから、特定の漢字が分からなくても、別の漢字や熟語で置き換えて、瞬間的に逃げ切ることは、だれでもあるが、それが高じてくると、これは大変だ。書くことが嫌いになる。書くことを避けようとする。書くことに恐怖感ですら感じるようになる。 もっと大事なことは、私たちは書こうとして考えたり、書きながら考えたり、書いた後を見て考えたりしていることだ。この部分は人の創造性と関係してくる大切なことだと思う。

 

スマホと手帳、スマホとノートは、セットで持ち歩き、常に手書きすることだ。分からない漢字は、必ずスマホでも調べて、手帳に何度も書くことだ。