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食べ物珍体験 菜食主義  その1 ファーストコンタクト

食べ物珍体験 菜食主義  その1 ファーストコンタクト

樋口 健夫

アイデアマラソン研究所所長 ノートを活用したアイデアマラソン発想法考案者であり、電気通信大学講師。現役時代は三井物産の商社マン。 企業の創造性トレーニングでは、ジャパネットたかたの全社員運動、アサヒビールでの研修などを続けている。独創性を命と考えている。

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菜食主義  その1 ファーストコンタクト 
 ネパールのカトマンドゥに赴任した直後に、ネパール人のビジネスマンの招待で会食をした。出てきた料理はアフガニスタン料理でカレーだった。最後まで、何がアフガンなのか、わからなかった。
とにかくすごく旨かった。最初にチャパティに辛味の付いたミントソースで食べて、飲み物が美味しくなる。

 その後、出てくるパンであるナンをちぎって、それとカレーや肉と合わせるとが絶妙な味だ。
 
 ふっと見ると、招待者であるネパール人のビジネスマンは肉を食べていない。
「あれ、どうされましたか」
「はい、私は菜食主義なのです」
「エエッ、そうすると、この鳥カレーも、マトンも、全部だめですか」
「そうです。魚もだめです」
「な、なんと。この美味しい...」と、私は絶句した。このネパール人ビジネスマンと私の差は、8000メートルのヒマラヤの登坂中の者と、日本海溝を「しんかい8000」で潜っている者との差がある。

(そうか、ヒンズー教徒にはベジタリアンが多いのだ)

 菜食主義者のビジネスマンは、野菜とスープと野菜で造った厚揚げのようなものを食べていた。

 そのビジネスマンは、数十の企業を保有しているネパールの有数の企業グループの総帥である。
 その後、彼が日本へ行ったとき、本社の対応部が食事を招待することになった。
 すでに彼が菜食主義だと連絡していた。どこの店を選ぶかと考えた始めた時に、菜食主義が問題になった。考えた挙句、「そうだ、天ぷらなら野菜の天ぷらもあるから、大丈夫だろう」ということになり、上等の天ぷら屋さんになった。
 
 小さな部屋を予約して、当日、彼が店の席に付いて注文を取る時、
「まことに申し訳ないが、ここの店では、同じ油で肉や魚や海老を揚げていないだろうか。揚げていれば、食べることはできないのです。ここの店のご主人に油を新しくすることをお願いしてもらえないだろうか」と言い出した。

 はっきりといえば、同じ油で肉や魚を揚げれば、油が穢れてしまっていて、それで菜食しているということは言えないという。あるいは肉食のにおいが移ると考えているのかもしれない。

 担当者は、困ったなあと思った。こんな天ぷら屋さんでは、かなり大きな
天ぷら油の鍋を使う。それを彼専門に油を新しくすることは可能だろうかと心配しながら、店の人に尋ねた。
 店員も、さすがに困ったという顔をして、
「店主に相談します」と引き下がった。

 店主が出てきて、その事情を説明すると、店主は、すかさず
「わかりました。こちらの方のための料理は、新しい油にしましょう」と、目の前で言い切った。そのおかげで無事に食事が終わったという。このように菜食主義に味が沁みこむとか、においがするなどというのが一緒になると、これは大変なことになる。

 天ぷらの場合、確かに油は、新しくしたから良いが、まな板や包丁では、肉も魚も切っている。調理用のお箸では、両方を触れている。このような事態を徹底的に避けるようになると、非常に厄介だ。

 ヒンズー教徒の場合には、牛が神様であるから、牛肉はもともと食べない。ますますややこしくなる。このネパール人の企業家の場合には、天ぷら屋のご主人が、「油を新しくします」と言い切ってくれたことで、納得したのだが、包丁とかまな板とか、同じ用意皿に盛るなとか、言い出せば、もう無茶苦茶になる。

 ネパール人の企業家は、同席している他人が何を食べても気にならないレベルの菜食主義であるから、私は、羊や魚を食べることができた。ただ、この企業家の場合に非常な矛盾を起こしていると思うのは、彼がすごいヘビースモーカーであるということだ。また、酒もかなり飲む。

 更に、その企業家は、年中、仕事で海外旅行をしている。そのことから菜食主義を考えると、ちょっと簡単に食事をしてとか、外食で済ませてとか、カップヌードルも、インスタントラーメンも無理だ。スープだけでもとか、できなくなってしまう。鰹節の出汁がもうだめだ。

 彼の場合には、自分が食べるものを持参して旅行しているのかもしれないが、いつも空腹を感じているのだという。食事の回数を減らしているかもしれない。そのために、胃酸が過多になりがちで、胃酸を抑える薬を飲みつづけているという。色々な波及の影響があるようだ。

 菜食主義の外国人をもてなす時は、お店に頼んで、お店の主人から先制を切って、下記のことを言ってもらうと良い。

(1)野菜のための特別の鍋(や大豆油)を使っています。
(2)料理は、肉と野菜を別々のまな板で料理して、盛ります。
これ位の気遣いが必要だ。それでも嫌がる時は、その食事はみんな菜食にすることだ。