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「すぐできるテクニックを教えてください」の真意を探る

「すぐできるテクニックを教えてください」の真意を探る

野原 淳

キングジムファイリング研究室でファイリングや机の整理のしかたなどの指導・提案をしています。

当ブログ「ファイリングは捨てることと見つけたり」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/jun_nohara/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 皆さんこんにちは。キングジムファイリング研究室、コンサルタントの野原です。
 USTREAMのセミナーの途中休憩の間に、当社の進行役がしてきた質問に私はこの話題を出したわけですが、そこでの補足の意味も含めてここでお話ししたいと思います。

 

【どういう意味の「すぐできる」か?】

 すぐできるテクニックと言えば、「管理できない量になったら捨てる」「使ったものを元に戻す」などだと思うんですよね。これなら、効果もあります。

 ほったらかしにしているはずなのに探せちゃう、みたいなテクニックを期待しているのなら、残念ながらそう言うのはないです。

 ただ、そういうことを努力(大した努力じゃないと思いますが)しよう、自分でやろう、そう心に決めた人を「助ける」テクニックはあります。

 

【すぐできるテクニックに感じる危機感】

 そう考えて、ファイリングにまつわる「テクニック」を振り返ってみると、殆どすぐできるものばかりなんですよね。ある程度の訓練が必要なのって、捨てる判断の正確さ、くらい。

 USTREAMの時に取り上げた、「立てる」「表示する」「色分けする」なんかは、まさにすぐできるテクニックではないかと思います。

 これを聞いて、「何だ、そんな当たり前のことか」と、がっかりされた方は、まず最初にやることはその意識を変えることですね。ひらめきのような、これさえ分かれば全てが分かるみたいなのを期待していると思うのですが、それはやることをやった人だけに与えられる恩恵であると認識すべきです。

 

【「しっている」と「している」の大きな差】

 「しっている」と「している」は違う。この言葉は私のオリジナルではありません。確か子供の頃、先生が言っていたか何かだったと思います。でも、これって、世の中のいろんな所に言えると思うんですよね。もちろん、ファイリングでも同じです。

 話を戻します。

 なぜ、「すぐできるテクニック」として誰でも知っているようなことを言うと、残念そうな顔をするのでしょうか。それは多分、出来ないのではなく、やっていないだけ、ということを認めたくないからなのではないかと思うんです。

 「ファイリングって難しいんですよね、だからなかなか出来なくてもしょうがないんですよ」と言われると安心する。難しいんだから出来なくても仕方がないって言い訳できる。でも、「誰でも出来ることの積み重ねです。」って言われちゃったら気分が悪い。簡単なのに出来ていないのは自分のせいだからです。原因は自分にあると言うことを認めるのが嫌な人はいます。

 だから、自分はやっているけど、あいつがやらないからだとか、上司がやる気がないからだとか、自分以外の所に原因を見出したがる。ま、確かにそう言うケースもあります。ファイリングは全員でやらないと効果が著しく低下します。意識が高い人が一人だけいてもなかなか進みませんから。その場合はその方々にこれを認めていただかないといけないわけですが、誰が原因だという話はひとまず置いておくことにします。

 -できないんじゃなくて、やってないだけ-

 とにかく、こう言う意識改革って、多くの人にとってパラダイムシフトだと思うんですよね。しかも、決して気分の良いパラダイムシフトではありません。でも、このパラダイムシフトを全員に乗り越えて頂く必要があるわけです。

 「しっている」と「している」との間には、このパラダイムシフトがあったのです。

 ファイリングの難しさは、実はこんな所にあるのかもしれません。そしてファイリングコンサルタントはその領域に踏み込まなければなりません。当然、そこには反発が待っています。

 

【じゃぁ、テクニックはないのか?】

 もちろんあります。しかし、テクニックの恩恵を受ける人は、先のパラダイムシフトを受け入れた人だけです。

 その人は視点がもう完全に変わっています。だから、USTREAMのセミナーで取り上げた、「立てる」「表示する」「色分けする」なんて当たり前のことでも響いて来る。

 例えば、「立てる」だと、使ったものを元に戻すと言うことが、飛躍的にやりやすくなるわけです。積み上げている書類の途中から抜き取ったものを、使い終わったら元の場所に突っ込みますか?やりませんよね。いちばん上に乗せるしかないでしょう。これは元の場所ではありません。

 でも、パラダイムシフト前の人は、いくら立ててあってもそこいら辺の適当な所に置いちゃうわけです。「意識」がない人はいくら立てても恩恵は得られません。「使ったものを元に戻す責任は自分にある」と思っている人が、「立てる」を実行したことによって、「これは責任を果たしやすい環境だな」と思えるわけです。

 パラダイムシフト前の人は、「表示する」や「色分けする」が「探す」ことに利くと思っています。しかし、パラダイムシフト後の人は、「戻す」ことに利くのだと気づくわけです。

 そうでしょ?「表示」は乱雑に戻されたファイルを探すためのテクニックではありません。オフィスには500とか800とか、そういう数のファイルがあるわけですから、さすがに元の場所に戻さなかったら、いくら表示してあっても探せません。

 そうではなくて、使ったものを元に戻したときに、「確かにこの位置で間違いないな」と確認するためのものであり、色分けがなされていれば、周りの人たちも「元に戻っている」と言うことを視覚的に確認できます。「表示」や「色分け」はそういう意味の方がずっと強いのです。

 

【ファイリングコンサルタントは嫌われる運命にある】

 できないんじゃなくてやっていないだけ。こういうことを言わずに「テクニック10連発!」みたいな方がきっとウケは良いのだと思います。読んでいても気持ちがいいし、うまくなったような気になります。誠ブログのページビューも稼げるかもしれません。

 しかし、本当に効果を出してもらうためには、何としても意識改革、パラダイムシフトが必要なのです。これがない人はいいテクニックを得ても、「継続する」と言うことができません。そしてそれをテクニックのせいにしてしまう訳です。

 だから私は、このパラダイムシフトを促すわけです。それは「誰でも出来ることをあなたやっていませんね」と言って回ることです。もちろん正面切ってそんな言い方はしませんが、とにかく色んな言い方をしてそこに気づいてもらわなければなりません。だから私は誠ブログもその意識改革を促すことにこだわりたい。

 時にはテクニック10連発!みたいなことも必要でしょう。ただしその上で、「ほら、面白いでしょ?でも、本当に効果を出すためにはね...」と、やっぱり意識改革を促しますよね。そうじゃないと、本当のファイリングにはたどり着けないと思っているからです。

 もし、「すぐできるテクニックを教えてください」の真意が、「パラダイムシフトを効果的に促すテクニックを教えてください」と言うことでしたら、この質問の意味は実に深いです。

 これは私も探している旅の途中です。誠ブログはその旅の記録にすぎず、今の所、結論が記される予定はありません。しかし、もしかしたら、このブログのどこかが、誰かのパラダイムシフトのきっかけになればいいと思ってこれからも書き続けていこうと思います。