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就職活動をしたことがないサラリーマンの私から、ひとつご提案

就職活動をしたことがないサラリーマンの私から、ひとつご提案

野原 淳

キングジムファイリング研究室でファイリングや机の整理のしかたなどの指導・提案をしています。

当ブログ「ファイリングは捨てることと見つけたり」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/jun_nohara/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 みなさんこんにちは。キングジム、ファイリング研究室コンサルタントの野原です。

誠ブログには、「お題」が提示されます。今回は「就職活動」ということで、どれだけ参考になるか分かりませんが、私も少し書いてみたいと思います。

 

大学で一生働く会社を決めることに対する恐怖心

 私は就職活動をしたことがありません。

 大学を卒業する間での間も、キングジムに再就職する時も、エントリーシート(ってどんなものか、よく知らないのですが)を書くような活動は今まで一度もしたことがありません。やってもいないので、就職活動がどういうものなのか実はよくわかっていないまま書いています。

 大学当時私は「まだ学生の身分で、一生働く会社を決められるわけがない」そういう恐怖感でいっぱいでした。

 何もしていない私は「ヤバくない?」と友人に心配されましたが、私にとってみれば、なりたい自分が描けないのに就職活動を始めることの方が「ヤバい」ことだったのです。

 ただそれだと大学から指導されるので、「教員になります」とウソをついていました。

 教員になりたいと本当に思ったのは教育実習に行った時です。この仕事は面白いと思いました。教員には臨時的任用という、手っ取り早く言えば、教員版派遣社員みたいな制度があります。希望する地区の教育事務所に登録しておくと、産休や生徒数の急な変更による増員など、正規の職員を用意できないときに代理の教員として働ける仕組みです。

 教員免許さえあれば良く、試験もありません。辞めたければ登録を抹消してもらえば良いだけの話です。

 私はひとまず臨時的任用で教員として、社会人として自分がどれだけやっていけて何が足りないのかを見極めないと、将来やりたいことも選べないと思いました。

 大学では就職活動に腐心する友達を傍観して過ごし、そのまま卒業を迎えました。

 「まぁ、そう簡単に空きがでるはずもない。しばらくは人生の夏休み第2ステージを謳歌しよう」などとのんきなことを思っていた3月31日、教育委員会から電話があったのです。

 

気持ちの準備もつかぬまま

 「深谷市(埼玉県)で社会科の教員をやっていただきたいのですが。可能なら、今すぐ手続きに来れませんか。」

 来て欲しいとも来て欲しくないとも思っていた電話が、こんなに早く来るとは思ってもみませんでした。

 え?!ヤダヤダ、社会人になるなんてボクにはまだムリ!心の準備もできていないし、教育実習の2週間でもヒイコラ言ってたのに、いきなり一人で授業もやるなんて、できっこないよ!

 と思いましたが、断る勇気もありません。2時間後、教員採用試験のためだけに買ったリクルートスーツを着て、私は深谷市の教育委員会に出向きました。

 詳細は忘れましたがとにかく何らかの手続きをして、配属される学校へ車で連れて行ってもらいました。

 「野原さんには第1回職員会議のある4月2日から着任していただきたいのですが」

 (明後日かヨ?!)とも思いましたが、もう後戻りはできません。

 翌日。「教員・野原淳」の誕生まですでに24時間を切っていました。私は書店に行き、授業で使えそうな資料という資料を買いあさりました。学校の忙しさは教育実習で嫌と言うほど実証済みです。平日は授業と部活動と翌日の授業の準備、土日も部活動で全てつぶれます。資料を集めに行く時間などありません。使えそうなものは今全て買うしかないと思いました。

 それから2年間、私は学校の教員として働きました。2年で最も役に立ったのは、このとき買いあさった資料ではなく、小学校から10年以上かけて延々集めてきた、大量のマンガでした。私は1時間に1枚のプリントを使う授業をしていて、そこには必ずマンガを入れたのです。生徒たちは次の私のプリントに何のマンガが入っているのか、本当に楽しみにしていました。これは完全に私の個性になりました。

 付け焼刃の社会の知識で勝負してもベテランの先生にかなうはずもありません。それよりも時間をかけて本気で蓄積し、繰り返し読んで来た -ともすると勉強のジャマとされるはずの- マンガの方がずっと自分のキャラを立たせることに役に立ったのです。

 2年間やって教員を辞めたわけですが、その理由はいろいろあって一言では説明できません。一番大きかったのは自分で働いた成果がそのまま稼ぎに反映される世界で働きたいと思ったからです。つまり独立することでした。

 

そしてキングジムへ

 子供の頃からなりたいと思っていた夢は物書きやゲームのプログラムをしたいそんなことができたらいいと考えつつ、まず自分のホームページを作り、そこに日記やエッセイなどを掲載していました。いつか誰かが見つけてくれるかもしれない、そんなのんきな活動をしつつ、小さな個人経営のお店のホームページを作ったり、広告チラシを作ったりして小銭を稼いでいました。

 そんな生活を10ヶ月ほど続けた頃、見かねた父親が持ってきたのは1枚の求人広告。近所の役所でのファイリング業務の手伝いでした。それを請け負っていたのが当社(正確には子会社)であり、これが私とキングジムとの出会いとなります。

 そこで私は、別の人が書き取った手書きのファイルタイトルなどをExcelに入力するという作業を担当しました。単なる入力作業の他に、ある条件に従ってセル内改行を入れたり、半角を全角にしたり、そういう単純な繰り返し作業もたくさんありました。

 私はそこで、マクロプログラムを作って、それらの作業を一気に行うアプリケーションをいくつも作り、相当の作業を効率化させました。

 プログラムは中学生の時に手にした「ポケットコンピュータ」というもので身につけました。ポケットコンピュータとは工業高校や大学の工学部などに行くと使う教材で、一般のエンジニア向けにも販売されていました。複雑な演算をさせるためにプログラムが組める機能を搭載していたのですが、この機能を利用してゲームを作り、時々雑誌などにも掲載されたりしていたのです。

 ただまぁ、その程度のテクニックではソフト屋さんになることは到底ムリだったのですが、それでも簡単なマクロを組むくらいのことはできますし、そのレベルでも役に立つことは現にあったのです。

 当時は情報公開制度が始まったときで、その役所が終わった後も次の役所、次の役所と次々受注しました。たぶんこうしたスキルが面白いと思って頂けたのでしょう、私もその度に呼ばれ、なぜファイル整理がうまく行かないのか、行かないとどうなってしまうのかのたくさんの事例をこの目で見る機会に恵まれたのです。

 同時に、Excel上のファイル管理表のデータを調整するマクロも充実していき、最後にはそれを統合して一つのアプリケーションへと完成させました。

 その後、単機能の寄せ集めだったものをソフトらしく改良を続けていき、これがきっかけとなって私はキングジムに入ることになったのです。独立することはできなくなりますが、組織の中でどれだけやっていけるか試せるチャンスは二度とないと思って決めました。

 このソフトは今もファイリングコンサルティングで使用しており、お客様の声を反映しながら、まだ発展を続けています。プログラムしているのは、もちろん私です。

 

想い続ければ、かなり近い状況まで実現できる

 その後、こうして誠ブログなども執筆させていただく機会をいただきました。

 振り返ってみると、キングジムは出版社でもなければ、ソフト屋さんでもありません。でも私はゲームではないもののプログラムを作って世の中に送り出すという仕事も携わり、こうして物書きもやっています。世の中、思い続けていれば、完全な形ではないものの、近い形で実現するものなのだと、本当に思いました。

 もし、これから就職活動をされる方で自分のやりたいことがあるとしたら、その業界に行くことだけでなく、全く別の業界でも好きなことに携わることは可能だという柔軟な考えを持つことを提案します。

 たとえば私は車が趣味なんですが、車に関わる仕事がしたいと思ったとしましょう。でもそれはカーディーラーや中古車屋さん、自動車メーカーや工場だけではありません。たとえばホームページの制作会社に入ることになっても、自動車関連の企業の仕事を取ってくると、そういう業界の人と接して -普通に業界に就職したら逆に話せないような人と商談することもあります- 「ばかに詳しいですね」なんていわれたりするわけです。

 話の通りが良いと、お互い気持ちよく仕事ができます。業界の癖やしきたりを理解して「またこの人と仕事をしたい」と思わせる人になることができるかもしれません。

 運転するのが好きなら車で営業する会社に行っても良いですし、整備がしたいなら、営業用の車やトラックを沢山持っている会社なら自前で整備する部署を持っているかもしれません。

 今の就職活動がどのように行われているのか、学生の方々の企業選びのポリシーがどのようなものなのか、私は全く理解していないのですが、とにかく私が大学生の時にはこのような考えは持っていませんでした。最近、ようやくたどり着いた一つの考えです。

 でも、これまでに「意味がない」「時間の無駄」だと言われながらも続けてきた遊びや趣味を本当に無駄にするかどうかは自分次第なんだということを、今強く感じます。これは何度かこのブログにも書いてきました。

 やりたいこととは全く別の業界に入っても、好きなことを自分の「個性」として仕事に活かす、そんな方法もあるという考え方を、これから就職活動をする方に役立つかどうかは別として、お伝えできたら幸いです。