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原子力論考(7) できるかぎり「動作原理にさかのぼって考える」習慣を持とう
開米のリアリスト思考室
原子力論考(7) できるかぎり「動作原理にさかのぼって考える」習慣を持とう
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
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原子力について(6)まで書いてきましたが、正直まだ半分も終わっていません。書かなければいけないことがまだまだたくさんあります。
ですが、ここでいったん「動作原理にさかのぼって考える習慣の重要性」について書いておきたいと思います。これは私の本業に直接関わることでもあり、原子力・電力問題を考える上でも重要なポイントなので、このあたりで書くのがちょうどいいタイミングでしょう。
私の本業は「読解力・図解力・教える技術」に関する教育研修です。要は「複雑な情報を自分自身で考えて理解し、人に教える」活動に必要なスキルと習慣を身につけるための教育を行っています。
その本業のほうで先週使ったばかりのあるチャートを見てみましょう。
上図は私が通称「正解教えて君」と呼んでいる人々の困った思考習慣について書いたものです。いや、思考習慣というよりは「思考しない習慣」というべきですね。何しろ「正解教えて君」は、自分で考えようとせず、「誰かが考えた正しい答えだけを教えてもらおうとする」のが困りものなのです。
何か問題が起きたとき、それを解決して「望む結果を得る」ためには、「適切な実現方法」を実行する必要があります。
ところがその「適切な実現方法」というのは、「ものごとのしくみ(=動作原理)」と、「その時の状況」に応じて「考え」なければわかりません。この「考える」ことをせずに「適切な実現方法」という「正解」だけを教えてくれ、というスタイルで通すのが正解教えて君の特徴で、「状況」が変わってもまったく応用が効きません。
そればかりでなく、もし、間違ったことを教える人が出てきた時はどうなるでしょうか?
間違ったことを教える人、の例を1つあげましょう。
Aさん:福島第1原発3号機では核爆発が起きた
Bさん:いや、起きていない
Aさんは間違っていますが、実際にこれに近いことを言って不安を煽る人が中にはいます。しかもAさんに有名大学の原子力関連の研究所員という肩書きがついていたら、思わず信じたくなるのも無理はありません。
こういうときに、「動作原理までさかのぼって考える」ことを少しでもしておくと、
原子力発電所の核燃料が溶けたとしても、
瞬間的な臨界状態が起きることはあっても
核爆発のような大規模なものは起こりえない。
Aさんの主張には無理がある。間違いだ
と気がついて、判断を間違えずに済むようになります。
とはいえ、そんなのは無理だよ・・・と思うかもしれません。実際、この話でAさんが間違っている、と気がつくためには核分裂反応の制御に関する多少の知識が必要です。一般人向けの科学入門書に書いてあるようなレベルで十分なのですが、それでも理系の話が苦手だと、ハードルが高く感じるのは無理もないところです。
そんなときはどうしたらよいのでしょうか?
そんなときは、自分の代わりに判断をしてくれる人を探しましょう。
どうしても、前提となる予備知識がない分野については「動作原理までさかのぼって考えて判定を下す」のは難しいものです。そこでそういう場合は、自分の代わりにそれをやってくれる人を探しましょう。その場合の条件は、
動作原理までさかのぼって考える習慣を持っていて
テーマとなる分野についての前提知識もある程度持っている
ということが必要です。必ずしも自分の直接の知人である必要はありません。ネット上でブログやtwitterを読んでいる人、でもかまいません。
ここで重要なのは、「動作原理までさかのぼって考える習慣」のほうです。この習慣がある人なら、多少知識が足りなくても時間をかければそれを調べて補うことができるので、最終的には正しい判断を下してくれます。しかし、これがないと結局「信じたいほうを信じる」になってしまい、間違いがなかなか修正されないのです。
では、どうやってそんな「動作原理までさかのぼって考える習慣を持っている人」を見つければよいのか? 次はこれが問題になりますが、まずは自分の専門分野については自分自身がその習慣を持っていることが重要です。「知識」は数日の調査でなんとかなる場合もありますが、本質的な思考習慣は1ヶ月や2ヶ月の付け焼き刃では身につきません。
私の経験上、このような「動作原理まで考える習慣がある人」にはいくつかの行動上の特徴があります。自分自身が同じ習慣を持っていれば、こうした特徴に心当たりがあるので、他人の言動を通じて判断がつきます。
<動作原理まで考える習慣がある人の特徴>
- なかなか100%断定しようとせず、「○○である可能性が非常に高い」といった言い方をする(ただし、原理的に考えて断定できることについてはあっさり断定してしまったりしますが)
- 「例外」がありうることを常に忘れない
- 判断の根拠には必ずソースをつける
- 自分自身で体験的に確認したことと、そうでないことを区別する
- 特定の個人や組織への批判・非難が少ない
- テーマの全体像を描いて複数のチェックポイントの整合性を確かめようとする
- ちょっとした疑問点に妙にこだわって「なぜ、なぜ、なぜ」と、追求を繰り返すことがある
- 他人に絶対安心を保証してもらう意識が少なく、トラブルが起こるリスクを自分で見積もって対応策を考えている
ざっとこんなところですね。この他にも何かあればtwitterやコメントでお知らせください。
■「自分の代わり」に判断をあてにできる人がいると、余計な心配をせずに済みます
2週間ほど前のことですが、私はある知人にこんなことを言われました。
「地震直後の原発が危ないって言われてる時期に開米さんがtwitterで
『お出かけなう』とかのんびりつぶやいてるのを見てすごく安心しましたよ」
もちろん私は誰かを安心させるつもりはまったくなく、単にお出かけだから「お出かけなう」とつぶやいただけだったのですが、どうやら開米がこんなにのんきにしてるなら大丈夫なんだろう、と、直接の知人を安心させる効果があったようです(笑)。
まあ、もちろん安心できる時ばかりではありません。私のような人間の書くことを読むと、「原子力発電をやめる」ことにもたとえば安全保障上や金融経済上の大変なリスクがあることに気がついて、それまで心配せずに済んでいたことが心配になり、日本の先行きが不安になることもあるはずです。
それでも、まったく気がついていなかったリスクにある日突然襲われて右往左往するよりはよほどマシです。だから私はこの原子力論考シリーズを書いています。「原子力発電」の廃止や推進に潜む本当のリスクを知るための一助になることを願って。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ