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原子力論考(20)電力会社に依存しない生活は可能か?-3

原子力論考(20)電力会社に依存しない生活は可能か?-3

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 原子力論考(18)から始めた、「電力会社に依存しない生活は可能か?」シリーズも3つめです。
 このシリーズを書いている理由のひとつは、「自分で考える力を伸ばす」ためのトレーニング法を例示することですが、それは前回までで一段落としまして、ここからは本題の「電力会社に依存しない生活は可能か?」を、もっと詳しく考えることにしましょう。

 さて、前回はこんなことがわかりました。

最大電力:100V30Aを太陽光発電で確保するためには
約15畳の面積が必要で、
マンションでは無理。一戸建てならできるかもしれない


 一戸建てならできるかもしれない、と希望の光がさしてきますが、実際には他にも考えなければいけない条件があります。
 誰でもすぐわかるように、「太陽電池は晴れの日中しか発電しない」ので、たとえば真夏の日中、いちばん暑くてエアコンをガンガンかけたいときに発電してくれる、とは限りません。
 真夏の日中で暑いときだったら晴れてるだろうし大丈夫なんじゃないの? という気もしますが、「気がする」だけではダメで、データが必要です。そこで、データを探しに行きます。Google先生、よろしく! というわけで検索してみると。

    Googleで 「家庭の時間帯別消費電力」を検索

 ↓私が検索したときには2件目でそれらしいデータが見つかりました。

資源エネルギー庁 平成23年5月作成
夏期最大電力使用日の需要構造推計(東京電力管内)

   

 ソースの信頼性は申し分ありません。読んでみるとこんなデータが載っています。



 なんと、家庭の電力消費量は日中よりも18時以降の夜間のほうが多く、19時~20時にかけてピークが来る! ということです。日中じゃないんですね。

 これは推計値であって実測値ではありませんが、同文書p6 の推計手順は十分な緻密さがあると思われるため、実際と大きく違ってはいないでしょう。ということは、

    太陽光発電は電力が一番必要な時間帯に使えない

 ということです。
 となると、蓄電池が必要になります。では、どのぐらいの能力の蓄電池が必要なのか? 次はそれを考えなければなりません。



 発電と消費の時間帯が一致しないので、そのギャップを埋めるためには蓄電池が必要です。そこでやらなければならないのは、

    時間帯別の消費電力を調べ、
    時間帯別の発電能力を調べ、
    そのギャップを計算して、必要な蓄電能力を求める

 ことです。といっても、話を単純化してこういう仮定を置いてしまいましょう。

連続4日間の雨天に対応可能なこと
1日あたり平均電力量:20kWh/日 を1週間継続可能なこと


 ん? どっかで見覚えが・・・と思うかもしれません。実はこれ、1回目で制約条件として設定したうちの2つなんですね。
 連続4日間雨が降る、ぐらいの天候は十分ありえます。この場合、発電量は晴天時の10~20% 程度に落ちます。完全にゼロというわけではありませんが、それに近いですね。
 この状態で1日当たり平均電力量20kWh/日に対応するとしたら・・・

    A 4日間の発電量概算値
      3kW × 80% × 8時間 × 15%  × 4 = 11.5 kWh
   
    B 4日間の電力消費量概算値
      20kWh × 75% × 4  = 60 kWh

 発電量概算値の ×80% は、太陽の角度の関係で公称最大電力いっぱいの発電能力を発揮できる時間帯は非常に限られていることから、現実的な線に落とすための数字です。8時間は発電可能な日照時間。15%が雨天時を考慮した係数です。こう仮定すると、雨天時の4日間で発電できるのは 11.5kWh。約12kWhとしてしまっていいでしょう。

 一方、消費量概算値の ×75% は、雨天が継続するとエアコンの使用量が減るものと考えて消費量を落とすために掛けてあります。この仮定で4日間の消費量は60kWh。

 したがって

    B - A = 48kWh

 これが不足する電力量です。これを蓄電池でまかなわなければ、最初に設定した制約条件は達成できません。果たして、可能でしょうか?

 例えば最近よく使われている充電式乾電池の eneloop は単三で1本1900mAh の容量を持っています。eneloopの定格電圧は1.2V なので、単位を換算すると、

    48kWh     = 48000 V ・A・h
    1.2V × 1900mAh =   2.3 V・A・h

 というわけでざっくり言って単三eneloop2万本分ですね。まあ、もちろん単三電池をこんな用途に使うはずはないので、現実的な線でリチウムイオン電池を使うことを考えましょう。リチウムイオン電池はパソコンや携帯電話に使われていて、小さな体積で大容量の蓄電が可能な性質を持っています。
 そこで、ある会社の産業用リチウムイオン電池のカタログを見ますと、最大のモデルの定格容量が3.7V ・240Ah 、サイズが450 × 325 × 15 mm = 0.022立方メートルのため、

    48000 / (3.7 ×240 ) = 54 個
    0.022×54 = 1.18 立方メートル

 必要になります。これなら1メートル四方程度なので大きさ的にはなんとか設置できるかもしれません。
 ・・・・とはいえ、そのためにかかる費用を考えると頭が痛くなります。

    NEDO二次電池技術開発ロードマップ2010概略版

 ↑こちらは独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構がまとめたレポートの概略版です。「現状」における「コスト」欄を見てみましょう。

    50~200円 / Wh

 つまり、1Whあたりそれぐらいのコストがかかるということで、これを単純に掛け算すると

    48000 (Wh) × 50~200 = 240万~960万円


 ということになり、電池コストだけでも、最低10年以上無故障で使わない限り、年間 20万円には収まりません。ここでは詳しく書きませんが、実際には電池以外にも太陽電池パネルやパワーコンディショナーが必要なので、さらに費用がかさみます。ちょっと非現実的ですね。
 要は、大規模な蓄電を必要とするようなシステムは金がかかりすぎるのです。
 というわけで、

 Q3:電力会社から電力を購入せずに生活することは可能か?
    <制約条件>
    投入コスト:年間20万円まで
    瞬間最大電力:100V30Aを確保可能であること
    1日あたり平均電力量:20kWh/日 を1週間継続可能なこと
    停電許容率:1年間につき24時間まで
    連続4日間の雨天に対応可能なこと


 太陽光発電のみでこの制約条件をクリアするのは無理なようです。
 何か打開策はないでしょうか?

 (続く)

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 詳細はこちら→http://www.chusanren.or.jp/sc/sdata/2282.html


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