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原子力論考(42)風力発電は原発代替にはなりませんので

原子力論考(42)風力発電は原発代替にはなりませんので

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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 数日前に某TV局で放映された番組で、非常に誤解を招きやすいものがあったので念のために書いておきます。

 その番組では、栃木の中小企業が独自開発した小型風車による風力発電システムを紹介して「こんなによく回る風車は見たことがない」という識者のコメントもつけて絶賛するような構成でしたが、こういうものは原発や電力会社の代替にはならないだけでなく、火力発電の代替も無理で、いくら技術開発が進んでもちょっとした補助電源以上のものにはなりません。

風力発電には「風速3乗比例・直径2乗比例」という法則があります。
風が強くなると、風速の3乗に比例して大きな電力を取り出せる。
風車のローターが大きくなると、直径の2乗に比例して大きな電力を取り出せる。
というのが風速3乗比例・直径2乗比例の法則です。

「風速3乗比例」の法則を別な言い方で言うと「弱い風で発電しても無意味」ということです。
風力発電がまともに実用になるには「最低でも平均風速6.5m/s以上が必要」と言われています。風速が1/2になると発電量が1/8以下になってしまうので、ほとんど意味がないわけですね。

小型風力発電システムは「我が社の風車は微風でもよく回ります」という売り文句を使っているところが多いですが、「風車が回って見える」のと「それで発電できている」のは別な話ですからご注意ください。
(まともに発電する風車を作りたければ発電機も大型になるため、その分抵抗が強くなり、微風では回らなくなります。逆に、微風でも回る風車というのは発電機が小さい = せっかく強風が吹いても大して発電できない ということに)

また、直径2乗比例の法則があるので、発電能力的には小型風車はそれだけでかなり不利。
そんな小型風車をわざわざ使わなければいけない場所、というと、要は市街地なんですよね。市街地に直径何十メートルの大型風車は作れませんから。

ところが一般的に「市街地」は風が弱いです。地上の障害物に阻まれて風速が落ちるからです。
しかも、小型風車を市街地に設置するのに、大して高度は稼げません。風は地面から離れた上空の方が強いので、市街地に小型風車を設置するのはこの点でも不利です。

それに対して、大型風車「直径2乗比例の法則」的に有利なだけでなく、大型化すると「高度を稼げる=地表から離れた方が風が強い」ので「風速3乗比例の法則」的にも有利です。だから、風力発電の風車は大型化してきました。

その番組では八丈島の開けた丘の上に小型風車を設置して、その電力で電気自動車を充電して使うという実験を紹介していました。実験自体は事実でしょうが、八丈島というのはもともと強風で有名な地域、その開けた丘の上つまり「市街地」でもなく「低空」でもないというかなり恵まれた条件でやっと「250万円の風車1基で1kW程度の発電」をしていました。(この数字も本当は風速データがなく詳細不明ですが)。

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つまりその番組で紹介していた八丈島の実験というのは、相当に理想的な条件下でゲタをはかせまくった数字なので、東京に持ってきても絶対に同じ数字は出せません。八丈島と東京の風況の違いを考えると、1/10もいかないでしょう。実際、同じ風車を屋上に設置した東京のビルの事例では「今は100Wです。順調に発電してます」と発言していました。100Wといえばトイレの電球2個分程度です。それで「順調」ということは・・・・1/10以下という推定もあたらずといえども遠からずでしょう。

順調でも100W、の電力を得るために250万円の風車を買えますか? と考えたら、まあ、無理な話です。

いや、技術革新すれば性能向上が期待できる、今は新技術のために投資することが大事だ、という意見も目にしますが、技術開発を考えるにしても、小型風車を原発の代替として期待するのは筋が悪すぎます。「風速3乗比例」「直径2乗比例」というのは物理の法則なのでいくら技術革新しようが乗り越えるのは不可能なんです。

まったく役に立たないとは言いませんが、八丈島のように「電気自動車の充電用独立電源として使う」か、電球を1個2個つけるための電源と割り切って使うか。その程度のもの。

原発事故以来、自然エネルギーへの過剰な期待が盛り上がっている関係で、大手メディアにもこういう報道だかなんだかわからないような番組・記事が多発しているようですが、「新聞に載ったから」「TVに出たから」といって鵜呑みにするのは禁物なわけです。


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