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震災時コンビニエンスストアはライフラインとなれたのか

震災時コンビニエンスストアはライフラインとなれたのか

川乃 もりや

とあるところで、とあるコンビニのオーナーをしている、「川乃 もりや」です。事情により、匿名です。とあるコンビニの元社員が仕事や感じたことを、時にはコンビニの内情のあれこれをブログにしちゃいます。みなさんお付き合い下さい。

当ブログ「とあるコンビニオーナーの経営談議」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/kawarimonoya/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


初めに、東北関東大震災の被害にあわれた方々に、心からお見舞い申し上げます。

平時、コンビニエンスストアは商品の販売から銀行送金まで行ない。皆様からは『ライフライン』の如く利用されていますし、そう思われていたことだろうと自負がありました。
震災地のど真ん中でどうであったかはわからないのですが、今回、当店舗も些少ではありますが痛手を負いました。そこで「コンビニはライフライン」というのは、幻想であったのではないだろうかと、思ったので書き記しておきたいと思います。

3月11日午後、突然の揺れ。店内の商品は棚から落ち、ファーストフードを作成するフライヤーからは油が飛び散り、従業員共々パニックになりました。
昨年、自分のマンションの防災訓練にて、地震体験として阪神淡路大震災と同様の揺れを体験していたのですが、そんなシミュレーション体験は、なんの役にも立ちませんでした。

では、コンビニは阪神淡路大震災から学び、今回の東北関東大震災に活かせたのでしょうか?阪神淡路大震災とは違い、関東圏も震災の端に位置していたため、単純に阪神淡路大震災と比較するわけにはいかないでしょうが、店舗を動かしていた前線からの感想は「何も学んでいなかった」というのが、事実です。

◯危機感の無さ
私の地震体験シミュレーションと同様、コンビニ組織も経験の無いことの準備は出来ていませんでした。心のどこかで「そんなこと起きないだろう」こんな心構えだったのでしょう。小学生の娘の方が、地震後の避難準備は万端でした(バックの中にサランラップまで用意する周到さです)
これが、関西の方々だったらどうでしょう、間違いなく関東の者よりスムーズに対応したのではないでしょうか。

◯マニュアルの不備
マニュアルには、一応災害時の項目はあります。しかし、現実には役立たない冊子でしかありませんでした。事実、震災の中1度も開くことがありませんでした。入口ドアの張り紙の方法など書いてあっても役立たないのです。本当に知りたい、震災時起こりうる想定問題が載っていないのが問題でした。今後、マニュアルの変更をしなくてはならないでしょう。

◯連絡系統の不備
これは、電話が不通になることといった程度の不備ではありません。必要なものは揃っているが、活用できてないのです。店には光回線が引いてありますが、これをネットにつなげて使用できるのは本部の人間だけで、本部のPCだけがネットに接続できる設定なのです。店舗でインターネット使用する場合は、店舗自身で回線を引いていなければなりません。目の前にWindowsOSの入ったPC、フルキーボードまであるというのに、店舗業務以外に使用できないのです。
わたしは個人的にPCを店に持ち込んでいるので、色々な情報を入手することが出来ました。何より、Twitter等を利用して外部と連絡が取れたのが良かった。今回、携帯電話はもちろん携帯メールも繋がりにくい状態の中で、TwitterやFacebookといったサービスは非常に役立った。これが全店均一に使用できたら、どれほど役に立ったかと思うと今後の店舗インフラの見直しを期待せずにいられない。
もう一つ連絡系統の不備としてあげられるのは、本部との連絡です。
色々な緊急連絡が錯綜する中で、店から本部へ何度も連絡しなくてはならない状態でした。しかし、それは本部から連絡が来ないからです。定期的に「コレは出来るようになった」「コレはまだ復旧してない」と一覧にしてメールしてくれれば済んだことなのです。もしくは、ネット上に掲示板一つ作って、情報を公開すれば良いだけなのです。クローズドな掲示板を作るなんて容易なことなのに、「ネット=情報流出=悪」のような考えが本部にあるようです。私が言うのもなんですが(汗

◯物流
何よりコンビニにとって今回最大の問題点はココにあったと言えるでしょう。
「開いてて良かったぁ」は、商品有っての言葉。
皆さんも、コンビニに行って商品が買えないなどという経験は初めてに近い経験だったのではないでしょうか
もちろん、工場自体にも被害が及んでいたので、単純に商品が無いことを問題と上げるつもりはありません。
問題は商品在庫と店への納品に対して、何も取り決めをしていなかったのです。
災害時、商品が無くなるのは何度かの震災で明らかになっていたのですが、運良く関東圏が震災地になることは無かったため、関東圏への物流を規制するだけで、震災地への供給がなされていました。しかし、今回は関東圏そのものに商品が無くなるという事態が発生したのです。
日配品の工場が止まってしまったので、弁当等の供給が出来ないのは仕方が無いのですが、それ以外の非日配品までが止まってしまったのです。非日配品は倉庫内に沢山あるのに納品されない状態が続いたのです。

それは何故か?
一番大きな原因を挙げると『商品の納品は店舗からの発注』このルールに縛られていたからです。
平常時のルールを災害時に適用すると、本来の目的を達成出来ないことになる。
「店舗発注→商品納品」というルール。もちろん間違ったことではない。平常時、本部が勝手に商品を送りつけたりすれば(返品を条件に平常時もあるが)店は経営計画に困る。
しかし、今回はこのルールが邪魔になったのだ。
店からは発注が上がる。だけど、それら商品を倉庫側が用意しきれない(というより倉庫側も人材が足りないし、倉庫内も乱れていたに違いない)
交通網が荒れている中、なんとか配送してくれた倉庫従業員に聞いたところ「商品はあるんですが、店側の発注と不一致が理由で持って来られないんですよ」と言っていた。
そうです。店から上がる発注は緊急用品(水や電池といった物)が多くなる。しかし、それら商品はすぐに無くなる。何が発注出来て、何が出来無いのかの認識が店にないのだから、どうしようもないのです。
そこで、災害時の発注を本部なり倉庫なりに委ねるルールを設けていれば、ある程度の商品欠落は回避出来たのであろうと思う。

現在は、商品の生産自体がストップされていることが多く、店の商品は空っぽである。
書いた通り「開いてて良かったぁ」は、商品有っての言葉。早く商品を充実させることが、コンビニの『ライフライン』としての責務を果たせる唯一の条件であることを我々は忘れてはならない。
その為には、今回の震災を教訓に『ルール』を変えていかなくてはならないのだ。

※今回、コンビニから商品が無くなった要因は他にもあるが、内的問題に焦点を合わせて記しました。
また、震災時の店舗営業に関する問題点はまだまだ沢山あります。落ち着いた時点で、店舗マニュアルを改定しなくてはならないでしょう。