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『泥臭さを持たない事業つくると、彼の巡礼の年』

»2013年5月10日
新規事業の罠

『泥臭さを持たない事業つくると、彼の巡礼の年』

平野 健児

新卒でWeb広告代理店入社後、新規事業支援で独立。無料家計簿アプリ「ReceReco」、WebサイトM&A「SiteStock」等、多数の新規事業を立ち上げ、運営。

当ブログ「新規事業の罠」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/kenji.hirano/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


 事業つくるは今年から新規事業の担当者だが、なかなか事業開発が進展しない。
つくる「それが存在し、存続すること自体が一つの目的のビジョン・・・」
つくる「たぶん・・・」
彼女(同僚)「ビジョナリーカンパニーに書いてあったように?」
つくる「ビジョナリーカンパニーのことはよく知らない」
つくる「でも今の僕らの会社には、それがすごく大事なことに思えるんだ。僕らの会社に生じた特別なケミストリーを大事に護っていくこと。風の中でマッチの火を消さないみたいに」
彼女(同僚)「ケミストリー?」
つくる「そこにたまたま生まれた場の力。二度と再現することのないもの」
彼女(同僚)「セレンディピティみたいに?」
つくる「セレンディピティのこともよく知らない」
 つくるの彼女は、世間ズレしたつくるが泥臭い経験を積むことなく新規事業を行おうとして現実を知らないことに原因があると考えて、つくる自身が現場の各担当者たちに会って現場の問題を体験することで事態を打開するように勧める。
 企画男は笑った。「企画書に嘘偽りはない。あのままだ。しかしもちろんいちばん大事な部分は書かれていない。それはここの中にしかない」
企画男は自分のこめかみを指先でとんとんと叩いた。
「シェフと同じだ。肝心なところはレシピには書かない」
「あるいはソーシャル活用もあるかもしれない」と宣伝女は言った。
それから愉快そうに笑って、指をぱちんと鳴らした。
「するどいサーブね。事業つくるくんにアドヴァンテージ」
法務男は言った。「俺は思うんだが、利用規約というのは砂に埋もれた都市のようなものだ・・・」
 つくるは、社内の一風変わったスペシャリストたちのもとを一人ずつ訪ね、新規事業はエクセルやパワポの上で完結しないことを知る。その上で自分の新規事業を立ち上げたいと決意する・・・

 いやー、村上春樹さんの新作が相変わらず村上春樹然としているという話を聞いたものでたまに読んだ大学時代を思い出して、我慢できずについパロディってしまいましたが、今回のテーマは村上春樹論ではなく、「新規事業の担当者はどこまでやるのか?」です。
 実際いろんな会社でよく耳にします。「平野さんの仕事って立ち上げまでですか?そしたらどんどん次の新しいのやるんですか?」とか、「今度うちの会社でも新規事業のアイデアを目安箱みたいに募集しようと思うんだよ」とか。正直耳にし飽きて、私が村上春樹作品の主人公なら、
 僕はやれやれと思いながら、口に放り込んだナッツをウォッカで一気に流し込んだ後、「トレンド調査、ブレスト、フィジビリティスタディ、事業計画策定、社内調整、稟議申請、チームビルディング、プロジェクト進捗確認、デザイン検討、契約書作成、料金設定、PR計画、広告計画、マネタイズ企画、営業資料作成、営業スクリプト作成、モチベーション管理、予実管理等々、事業にはよりますが、どれ一つ欠けても新規事業は成り立たない上に、こういうこと全部やっても新規事業の成功率は低いので更にやることを自分で増やさないといけないので、事業は何回作っても泥臭く、いつも一杯一杯です。で、ご質問なんでしたっけ?」とかスカした後に女性が声を掛けてきて物語が始まる展開ですが、
 実際は社会人も10年経ってくると、「はぁ、そうですねぇ、新規事業はまあ楽しいですからねえ、えへへぇ」とか言うのみです(笑)ただ、あえて言うなら、新卒時代に先輩からこんなことを言われました。「この業界じゃ自分がアイデアを思いついたら、そのアイデアは同時に10,000人は思いついたと思った方がいい、んで実現できるのがそのうち100人、最後まで立ってられるやつが1人。」これは今でも肝に銘じていて、個人的にはアイデアは最後までやり切らないと価値を持たないと思っています。もちろん、全部自分で抱え込む必要はなく、いろんな人を巻き込むのは大前提です。ですが、それは丸投げはしないという前提でです。ジョブスだってiPhoneの細部にまで口を出してました。凡人ならなおさらでしょう。今回は最後まで村上春樹から抜けきれませんでしたがこの辺で。さすがは偉大な作家です。

僕らはとても不完全な存在だし、何から何まで要領よくうまくやることなんて不可能だ。不得意な人には不得意な人のスタイルがあるべきなのだ。
村上春樹