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国会限定!吉野家の「牛重」1,200円は高いのか、安いのか
»2013年10月16日
公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」
国会限定!吉野家の「牛重」1,200円は高いのか、安いのか
ベルギービールをこよなく愛する公認会計士。座右の銘は「できるときに、できることを、できるだけ」。
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こんにちは。今回もお読みいただきありがとうございます。
さて、国会議事堂内で吉野家が1,200円の「牛重」を販売していると言うことが話題を呼んでいます(参考画像はこちら)。この牛重は、国会議員をはじめ「国会通行証」を持っている人でなければ食べることが出来ない特別なものだとか。そして、これに対して、「国会議員だけが特別扱いを受けるのはおかしい」という批判や意見がでているようです。
確かに、この「牛重」は色々な意味で特別なようです。
- 和牛のロース肉を使っている。(通常の牛丼は米国産です)
- 味噌汁+お新香がついている。(通常なら別料金です)
- 器が重箱。(通常は当然、どんぶりです)
なるほど、確かに牛重は少し豪華な雰囲気を感じます。消費者としては「一度くらい食べてみたい」というのが心情というもの。
しかし、私は同時にこんな疑問を抱いたのです。
「この牛重...1,200円も払う価値が本当にあるのだろうか?」
国会議員だけが特別扱いといわれていますが、冷静に考えてみると、それは「1,200円」がオトクな値段であるときに初めて成り立つ批判であり、逆にその金額が割高なら、国会議員はむしろ損をしていることになりはしないか?ということです。
ということで、今回はこの牛丼・牛重の「原価」について考えてみたいと思います。
※この記事のうち意見に関する部分は筆者の私見であり、筆者の所属する組織その他の個人・団体の公式見解ではありません。
- 牛丼・・・原価は約100円、しかし儲けはほとんど残らない
まずは、通常の吉野家で食べる牛丼について分析します(並盛りを前提にしています)。
吉野家ホールディングスの損益計算書によると、売上高に対する売上原価の比率は概ね35%程度です。吉野家ホールディングスでは「吉野家」のほか「京樽」や「はなまる」といった業態も展開しているので一概には言い切れませんが、飲食店における原価率はだいたい30%台に落ち着くのが通常ですので、ここでは「35%」を素直に適用しましょう。
牛丼の価格は今280円ですから、これに35%を乗じると「98円」。まぁざっと100円が原価ということになります。
100円の原価に対して280円の価格と言うと、なんだかずいぶん「ボッタクリ」だなぁ、と感じなくもないですが、これはあくまで「粗利」の話です。ここから店舗の人件費や光熱費、家賃などが引かれていくと、利益はほとんど残りません。
吉野家ホールディングスの決算短信には、事業単位ごとに「セグメント情報」が記載されています。それによると、国内の吉野家で得られている営業利益は、売上高に対して、約3%程度。牛丼1杯あたり9円しか利益が残らないことになります。
裏を返せば、通常の店舗営業を行うにあたって、1杯あたり180円の粗利が残っていれば、どうにか黒字を稼ぎ出すことができるということにもなります。
- で、牛重・・・原価はどれくらい?
先ほど書いたとおり、牛丼と牛重の違いは「牛肉」が最たるもののようです。肉を米国牛から和牛に変えたとき、原価はどう変わるのでしょうか。
和牛と言っても、ピンからキリまでありますが、最高級「A5」ランクの場合、牛重で用いているロース肉の卸値は、約3,500円/kg。ちなみに牛丼で使っているアメリカ牛のものは約500円/kgです。
牛丼1杯に必要になる牛肉はおよそ70グラムですから、牛肉に由来する価格差はせいぜい210円、ということになります。
だとすると、先ほど書いた「1杯あたり180円の粗利」を残そうとして価格を設定する場合、「牛重」は牛丼の価格に先ほどの価格差210円を足して、490円で売れば採算が取れると言う計算が成り立ちます。
おしんこや味噌汁をサービスでつけていることを考えても、せいぜい550円というのが妥当な価格だと思われます。
しかし、実際には1,200円・・・この差は一体何なのでしょう?
結局は「味」以外の要素が価格に影響を与えている
実は、この価格の差は「回転率」が大きな影響を与えています。
通常の吉野家の店舗はご存知の通り、カウンターに簡素な椅子が並んでいます。そして注文を受けると、早いときには10秒程度で品物が提供され、それを食べる人も5~10分で食べ終えて席をそそくさと立っていきます。
ランチタイムになると少し行列が出来たりもしますが、ピークタイムであっても来店⇒食事提供⇒退店というサイクルを高速でまわすことによって、1杯あたりの粗利が少なくても黒字を計上できるようにオペレーションをしているのです。
牛丼の安さは、1つの店舗にたくさんのお客さんが訪れる「高回転モデル」で初めて成り立つものなのです。
いっぽう、国会議事堂内の店舗では、前述の通り国会通行証を持っていない限り来店すらできないわけで、この店舗が都心の吉野家のように繁盛することは事実上ありえません。ですから、通常の店舗のように回転率を高めることに制約があるのです。
したがって、国会議事堂の店舗を独力で採算ラインに乗せるには、通常とは異なる価格設定がおのずと求められると言うことになります。一杯あたりの単価を上げて、少しでも早く店舗の経費を回収する「高付加価値モデル」です。
1,200円と言う価格は、このような事情が多分に加味された値段であり、必ずしも「材料の違い」つまり「味の違い」だけで生じるものではないと言うことです。
したがって、私の結論としては、「牛重の価格はとても割高である」ということ。
これは同時に「牛重は国会議員を特別扱いしたメニュー・価格ではない」ともいえますね。
表面的な価格や「和牛」という響きに、どうしても私たちは「また政治家ばっかり!」敏感に反応してしまうところがあります。また、場合によってはそういった心理を逆手に取ったポピュリズム的な発言をする政治家が現れることも考えうるところです。
そういう偏ったものに惑わされず、ロジカルに、冷静に判断することが、国民には求められているのだろうと思います。
- おまけ:筆者より告知
さて、少し告知をさせていただきたく。
この度、「株式会社日立システムズ」のWebサイトにて、私が連載を持たせていただくことになりました。
(こちらからどうぞ)
活中の大学生が「会計とビジネスの知識」を身につけていく、ストーリー形式のコラムです。漫画家のたちばないさぎ先生とのコラボで、漫画+小説で楽しむことが出来ます。
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