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「知」を生むための「場」の共有――AgileJapan2010 野中先生 基調講演から

»2010年4月21日
Yet Another Computer World

「知」を生むための「場」の共有――AgileJapan2010 野中先生 基調講演から

岑 康貴

しがない編集者です。@IT自分戦略研究所を担当しています。


4月9日に開催された「アジャイルジャパン2010」というイベントのレポート記事(の後編)を@IT自分戦略研究所に掲載しました。アジャイル開発と呼ばれるソフトウェア開発手法にまつわるイベントなのですが、開発者の方でなくとも参考になる部分があると思うので、少しご紹介します。

■ 知のスパイラルを加速させる「場」の重要性

記事では、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生の講演内容をレポートしています。「ナレッジマネジメント(知識経営)」の提唱者のおひとりとして知られる野中先生のお話は、非常にエキサイティングであり、多くのビジネスパーソンに目を通していただきたい内容になっています。

さて、ここでは野中先生の講演の中から、特に「場」について、簡単に触れたいと思います(ここですべてを解説することはとてもできませんので、詳細はレポート記事や、講演資料をご覧ください。また、アジャイルジャパン2010実行委員長の平鍋健児さんも、ITmedia オルタナティブ・ブログで、この話について言及されています。あわせてどうぞ)。

知識には「暗黙知」と「形式知」の2つがあります。暗黙知をチームで共有して形式知化し、それをチームの構成員が活用することで新たな暗黙知が生まれ、それをまたチームで共有して......というスパイラルが、組織的な「知」を創造する、というのが野中先生の提唱する「SECIモデル」の肝です。そして、組織において「知」を循環させ、共有していくには、特に「『場』をタイムリーに作り出すこと」が極めて重要である、と野中先生は主張されています。

これはどういうことか。ここでいう「場」とは、「組織体制」のような抽象的なものを指しているわけではありません。そのものずばり「場」です。「いま、ここ」を共有する「物理的な場所」のことです。

「いま、ここ」を共有することで、それぞれの主観が影響し合って「相互主観性」が生まれ、知識が生成されていく。リーダーは、そういう「場」を作り出す能力が必要である、というのが野中先生の主張です(これは、ソフトウェア開発に限った話ではありません)。

講演では例として、ホンダの「ワイガヤ」が挙げられています。チームメンバーが温泉宿で3日3晩、寝食を共にする。最初はぶつかり合うが、やがて「思いを共有する」ようになり、新しいアイデアやコンセプトが生まれる。「場」の共有は、実にオーソドックスな手法であるといえます。

■ 「場」の共有を重視するエンジニアたち

こうした物理的な「場」の共有が重要である、ということが「ソフトウェア開発者」の間で共有される、というのは、実に興味深いことだといえます。開発者/エンジニアに対し、何でもメールやメッセでコミュニケーションを済ませ、1人もくもくと作業をする人たち、というイメージを持っている人は、まだまだ少なくないのではないでしょうか。しかし、実際のところ、エンジニアほど「場」の共有を重視する人間はいない、と僕は考えます。

そもそも、このイベント自体、わざわざ多くのエンジニアが会場に集まって話を聞き、議論し、知を共有しているわけです。

それだけではありません。世の中には「異業種交流会」なる催し物が存在しますが、エンジニアはもっとフランクな形で、「コミュニティ」や「勉強会」という名のもと、集まって、話し、聞き、議論し、知を共有し続けています。

エンジニアにとって「勉強会で集まる」のはかなりポピュラーな行動となりつつあります。会社という垣根を越えた「場」に物理的に集まり、知を交換し合うことの重要性を、彼らは実践を通じて理解しているのだと僕は考えています。

現代はWebの進化によって「『場』を共有しなくてもコミュニケーションができる」時代になりました。ですが、そうした進化を推し進めてきたエンジニアたちは、もちろんWeb上でのコミュニケーションも活発に行いながら、同時に「場」を共有したコミュニケーションを活発に行っています。

現代においてビジネスパーソンが「知を共有する」必要性を感じたならば、身近にいるエンジニアを見てみましょう。彼らの勉強会文化から、きっと何かを学べることでしょう。

ということで、僕も明日は勉強会に参加します。資料、準備しなきゃ......。

● 野中先生の講演資料