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Ustreamが日本語化された夜、1人の神が降臨した――10000 freaks meets Derrick May @DOMMUNE

»2010年4月27日
Yet Another Computer World

Ustreamが日本語化された夜、1人の神が降臨した――10000 freaks meets Derrick May @DOMMUNE

岑 康貴

しがない編集者です。@IT自分戦略研究所を担当しています。


Ustream.tvが日本語化されました。自社の決算発表に合わせるあたり、うまいなあと思います、孫正義氏。

ソフトバンク決算発表会の中継は最大5200人が試聴したそうです。すごいですね。

しかしその夜、ある1人の男がUstream上で10000人オーバーという記録を叩き出しました。その名はDerrick May。デトロイト・テクノと呼ばれる音楽の創始者の1人にして、世界最高のDJの1人です。

■ Derrick May @DOMMUNE!!!!!!!!

DOMMUNEをご存じでしょうか。映像作家だったりVJだったりする宇川直宏氏プロデュースによるライブストリーミングスタジオです。金曜と土曜を除く毎日、19時から21時までトークライブを、21時から24時までDJ StreamingをUstreamで生中継配信しています。最近はUstreamやTwitterの普及と合わせて話題に上ることが増えてきたので、名前だけは聞いたことがある、という人もいるでしょう。

DOMMUNEでは夜な夜な、素晴らしいDJたちのプレイが生中継されています。テクノミュージック大好きっ子の僕は「最近、クラブ行ってないなあ。歳だし、一緒に遊んでくれる友達も減ったし」と思っていたところだったので、毎晩のようにPCのラインアウトをスピーカーにつないで楽しんでいます。

2010年4月27日。その日のDJは当初「Secret Guest (from Detroit)」とアナウンスされていました。これはきっと相当の大物が来る......。そう思っていたら、やっぱりでした。Derrick May――Juan AtkinsやKevin Saundersonと並んで「デトロイト・テクノ」を生みだしたとされるDJです。彼が1987年にRhythim Is Rhythim名義でリリースした「Strings of Life」は、ダンスフロアの永遠のアンセムとして、今でも数多くの人間をLockし続けています

DerrickのDJが自宅で生で見られる。こんな時代が来るなんて、ビバ・テクノロジー!

そう思っていたのは、僕だけではなかったようです。21:30から22:30までのたった1時間のセットでしたが、最終的に10600人ほどの人間が彼のDJで酔いしれました。

■ メディア化するUstream

さて、これだけだと単なる趣味で終わってしまうので(笑)、Webとメディア、という観点で少しお話しします。

10000人という人数が1つの映像を見て、リアルタイムでTwitterで言葉を発信する、というのは、ちょっと尋常ではない体験です。Ustreamを使ったことのある方ならご存じだと思いますが、Ustreamの画面の右にはTwitterなどの投稿画面があり、そこでpostされたものがすべて見られます。この日のタイムラインは異常でした。何しろ10000人です。1人ひとりのpostは高速で吹き飛んでいき、1秒ごとに新たなpostが大量に飛び込んでいきます。「まるでビートに合わせてるみたいだ」「タイムラインがリズムを刻んでる」――そんな風につぶやいた人を見かけました。同感です。

Derrick May @DOMMUNE

右側がタイムライン(モザイク処理済み)。10000人オーバーしてます
キャプチャしたタイミングが悪くて、Derrickが変な顔になってしまいました(^^;

僕も興奮して、何度もpostしました。大好きなテクノミュージックに合わせて、10000人もの人々が狂喜乱舞しているんですから、そりゃあもうアガります。クラブやフェスで盛り上がるのに似た感覚を覚えました(もちろん、実際はもっとすごいですが)。

こういうと大げさかもしれませんが、僕はここに、Webという空間におけるメディアの1つの到達点を見い出します。Webは双方向性や非同期性が特徴として挙げられますが、この夜のDOMMUNEは単なる双方向というより、DJという触媒を利用した「無限方向性」が、「同期した時間」において紡ぎ出されるという不思議な状況を生み出しました(......と書いていて、それはまさにクラブと一緒だなあ、と思ったり)。

■ DOMMUNE 2 the Floor

かくしてDOMMUNEはUstreamとTwitterを武器に「Webにおけるメディア」の1つの到達点へと至ったわけですが、主宰者の宇川氏のねらいは、まったくもってそこにはない、と思われます。

それは、DOMMUNEが「金曜と土曜はお休み」であることからもよく分かります。なぜか? 簡単です。「金曜と土曜はクラブに行け」ということなのです。

Webテクノロジーを利用したメディアによる「フロアーの拡張」は、これまでよりも多くの(興味を持っていなかった)人々にそのマシーンビートを届けることに成功しつつあります。でも、その先にあるのは「場の共有」。やっぱり最後は現場でしょ。

我々はUstreamとDOMMUNEのおかげで、気軽にフロアーにアクセスできるようになりました。そして、気軽にアクセスできるようになったがゆえに、現場に行かなければ得られない「価値」に気付くようになります。そこには「メディア」の持つ力を感じます。Ustreamは確実に「メディア」としての重要性を増大させていると感じます。

ということで、明日の夜、Derrickがプレイする代官山のクラブに行こうかなあ、などと考えながら眠りにつくのでした。