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音楽業界が熱いようです

音楽業界が熱いようです

島田 徹

株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。

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今、にわかに音楽業界が熱いようです。


ということで、今年10月から楽曲ファイルの違法ダウンロードに刑事罰が付されるようですね。

まあ実効性的にはどうなのか分かりませんが、これで音楽業界は、売上減少への一定の歯止めがかかるのではとの期待があるようです。


しかし、これはどうなんでしょうかねー。

ここで私が、「これは逆効果で音楽離れを助長する」と言っても、「いや、これはCDの売上げに少なからず貢献するだろう」と言っても、どちらもうなづけるだけの根拠が出せそうなので、そんな予言はしません。

ただ、一つ言えることは、基本的にこの動きは罰則強化で今の体制を守っていこうという姿勢以外の何物でもない、ということですね。

沈みゆくタイタニックの上で、「この食事は頼んでいない」とか「部屋から財布が盗まれた」とか言って争っているようなものです。今自らに降りかかっている危機について正面から向き合っているとは到底思えません。

津田大介氏の言うように、その争いは全然関係ないところに影響するので、是非止めていただきたいというのはあります。

(↑後段、非常に読み応えがありました。)


▼問題に正面から向き合うとは

さて、この音楽業界に起きている問題に正面から向き合うとは、どういうことでしょうか。

たとえば、何がどうなってどうなのかを、レコード会社のおじさんたち(若いのかも知れませんが私の持っている業界的なイメージです)、ミュージシャン、消費者の三者が、すべてあからさまにして話し合うのは、確かに一つの手です。

レコード会社:ミュージシャンを売り出すにはお金がかかる、そのお金を回収できないと次のミュージシャンが育てられない。また、実際はお金をかけたけど売れなかったミュージシャンも多数いて、そのコストも回収しなければならない。

ミュージシャン:自分たちは音楽を愛していて、それを理解してくれるファンに届けたいだけ。もちろん努力に見合う報酬は欲しい。でも売るための方法が分からないし、プロモーションとかできない。

消費者:私たちはただミュージシャンから音楽を「直接」届けてもらいたい。その方がきっと安いだろう。また音質劣化は嫌だし、チェックアウト回数制限とか苛立たしい。どんな端末からも聞けるようにしたいし、気に入った音楽は友達にも聞かせてあげたい。

等々。まあいつもやってますね。

しかし、この手のざっくばらんな話し合いは割とうまくいかないのです。

売るためのものすごいノウハウ・スキームを持つレコード会社のおじさんたちと、その手の知識的には何も持ってないが才能や情熱に溢れ、おじさんたちのスキームにうまく乗れば開花する可能性がある若者ミュージシャンでは意識がまったく異なりますし、そして無責任な消費者は、単純にこれまでと同品質のものを中抜き(仲介業者のない直接取引)で入手したいと望んでいるからです。

情報量と意識と利害が違いすぎるので、話し合いは必ず平行線に終わります。

そもそも今まで業界のおじさんと若者があけっぴろげになんでも話し合ってやってきてうまく回っていたわけではなく、

「情報は敢えて偏在させておいて、その情報と引き換えに、新しいコンテンツの販売権を得る。消費者は直接コンテンツの制作者にアクセスすることが出来なかった。」

ということでうまく利害が一致し、統制がとれていたのです。

そうです。単純にこの環境が変わったのです。


▼可能になったのではなく不可能になったという危機感を持つべき

さて、では環境がどのように変わったのでしょうか?

これは非常に陳腐な話になってしまい、口にするのも恥ずかしいのですが、要は

インターネットとPCの普及が、音楽を含むすべてのデータを簡単に無劣化でコピーすることを可能にしてしまった

ということです。

「技術の進歩でこの忌々しいことが可能になった世界で、どうするかが問題だよなー」

と、おじさんたちは頭を抱えています。

しかし、この悩み方は半分正しくて、半分違うと思うのです。

何かが可能になったのではなく、不可能になったと認識すべきなのです。

何かが可能になってしまって「困ったもんだなー」などと苦笑している場合ではなく、事業の根幹に関わることが不可能になったのですから、顔面蒼白で二の手三の手を出していかなければいけないのです。

冒頭の罰則強化などは、明らかに苦笑の中で出してきた一手です。真剣味が足りないと思います。

大海原から稚魚をつかまえてきて、生簀(いけす)に入れ、餌を与えて、教育しながら成魚にし、満を持して市場に売りに出す。

こういうビジネスが回っていたのですが、なんらかの外的要因でこのモデルに必要不可欠な漁船や生簀が作れなくなってしまったのです。

漁船や生簀に使用する材料が手に入らなくなったとか、魚が突然変異で空を飛ぶようになってしまったとか、そういうレベルの変化が起きているのであって、これは誰にもどうにもできない状況なのです。

「できない」ことを「できるかも」などという甘い前提で話すのは、経営的にはかなりイカンです。

1人のドライバーに無理をさせることによって低価格を実現していた長距離バスの会社があったとき、1人で運転するのは絶対に許されない法律ができたとします。そうしたらそのビジネスモデルはおしまいです。

もっと簡単な例で言うと、効能豊かな温泉の湧き出る旅館があったとしますと、その温泉が出なくなればそれで終わりです。

そこは諦めて別の手を考える必要があります。


▼おじさんたちだけでなくミュージシャンにも血が流れる

今、音楽業界の旗色が悪いのは、レコード会社のせいでもミュージシャンのせいでももちろん消費者のせいでもなく、本質的にはこの環境の変化によります。

まずはそれを受け入れて、その環境の中で自分たちがそれぞれどんな役割を担い、価値を提供できるのだろうか、ということをゼロベースで考えることだと思います。

もちろん、レコード会社や著作権に絡む人たちからはたくさんの血が流れるでしょう。

しかし血を流すのはそういう旧来型のビジネスをやってきた人たちだけではありません。

単純に今、優れた才能を持つミュージシャンのタマゴが、売出し方について相談するため叩く門がなくなるかもしれません。

あるいは、昔であれば億単位で稼げていたような才気溢れるミュージシャンがWebを使って細々とダウンロード販売を始めて、得られるのは年収100万200万という世界かも知れません。

ミュージシャンが楽曲から得る報酬についても大きく揺さぶられるでしょう。

かの大御所、井上陽水氏や松任谷由美さんも去年こんなことを言っています。


こんな感じで、ミュージシャンに支払われるお金というものは、お賽銭のような世界になってもなんら不思議ではないです。

そうなってくると、当然、ミュージシャンになってドカンと当ててやろうという人は少なくなり、消費者の元には大きなお金をかけた楽曲は届かなくなり、音楽は自分で楽器を買い、個人資本でできるだけのことをやり、録音してネットで売るだけ。大資本が必要なライブやタイアップ企画などは無くなる、ということになるかも知れません。

これは、先に述べたように「できなくなった」ことにより起こる現象であり、どうしようもないです。

通常、できないことをできるようにするのは、「なんらか手がある」もので、それを考えるのが起業家・実業家だと思うのですが、今回のケースのできなくなったことをできるようにするためには、できてしまうことをできなくする必要があります。

それは自由主義社会では無理だし、そもそも相当の理由がない限りそのような自由の制限はあってはならないことです。

もしその相当の理由が、「音楽業界の衰退」なんていうのであれば、それはあまりに弱いです。


▼みな変わっていかなければならない

私はとりあえず、レコード会社のおじさんたちは、いったんその原始の世界まで落として考えて、その環境の中で、自分に何ができるのか、を真剣に考えるべきだと思いますね。

  • ダウンロード課金のプラットフォームを構築しよう
  • ミュージシャンのタマゴを育てるファンドビジネスを考えよう
  • ミュージシャン同士のつながりを作れ、ネット上でユニットを組めるようなプラットフォームを構築しよう
  • ミュージシャンと広告業界をつなぐマッチングビジネスを考えよう
  • プロデュース業務を切り出ししてそこだけで売っていこう

こんな方向性ではないでしょうか。まあはっきり言って別の事業です。

でも意外と、今のビジネスモデルに拘るよりは、これまでのノウハウ、スキーム、人脈を活かしつつ生き残れるような気がします。当然のことですが、これまで長年努力してやってきたことが無価値であるなどというはずはないのです。

一方、実はミュージシャンはもっと難しくて

  • 混沌の中、恐れずに新しいことをいろいろ試してみよう
  • 音楽業界のおじさんたちにいろいろ支援してもらうのは諦めよう
  • いい曲を作るだけで大金持ちになるのはもはや無理。実業家としての嗅覚を身につけよう

こんな感じでしょうか。

ちょうど作家の佐々木俊尚氏が、自書を紙より安くダウンロード販売し、それを「コピーして友達に配布しても、全然いいですよ」と言ったように、なにか新しい常識の中にシフトしていかなければならないと思います。



あることが「出来なくなった」という厳然たる事実の中で、みな変わっていかなければならないと思います。