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佐藤優氏講演録「鳩山首相は何を間違えたのか」

佐藤優氏講演録「鳩山首相は何を間違えたのか」

本間 理絵

都内在住の編集者。趣味は食べ歩きと旅行。


    今日66日、ホテルオークラ東京で行われた元外務官僚・佐藤優氏の講演会に行ってきた。

背任罪などで500余日の獄中経験のある佐藤氏は「前科一犯の佐藤です」と挨拶して笑いを誘った後、「外交は国家がやるもの、でも今その国家はぶっこわれかけている。だからテーマは(当初のお題「日本外交再生への道」の代わりに)政変について話したい」と切り出した。

 

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私が佐藤氏の話を聞くのは、4月のホリエモンとの「獄中ライブ対談」に続き二度目である。彼のスピーチの特徴は、眼光鋭いギョロ目で客席を見据えながら、精緻な論文のように完成度の高い内容をレジュメも見ずに弾丸のようなスピードで話していく点にある。全部書き取るのは至難の業なので、以下はできる限り書き取った講演録である。

 

――私(佐藤氏)は527日午後8時にすでに「政変」について知っていた。なぜならその日の夕方に小沢氏に会った鈴木宗男氏が、携帯電話で「今晩から異変が起きる(=鳩山降ろしが本格的に始まる)」と教えてくれたからだった。結果、鳩山氏は官僚や野党や社民党やマスコミによる包囲網に囲まれて、孤立無援になって退陣せざるを得なくなったのだ。

鳩山氏は何をなぜ間違えたのか。

 そのことを考えるためには、彼が学者時代に書いた「マルコフ連鎖」※についての一連の論文を見るとよく分かる。学者としては一流の彼は、皮肉にも「決断論」の専門家だった。なかでもマルコフ連鎖について、多くの論文を残している。

 マルコフ連鎖では、たとえば「理想の嫁をどう見つけるか」という論題で、「1000人の彼女候補を集めて、何番目で決めたら一番いい人が見つけるか」を考える。それが仮に368番目であったら、368番目まで断ってそれ以降368番目より少しでもいい人が出てきたらそれが最良」と考える。つまり「あるタイミングを決めて、その直前より少しでもよければ、それが最適」と考えるのがマルコフ連鎖的論理なのである。

→※「マルコフ連鎖」とはWIKIPEDIAによれば、確率過程の一種であるマルコフ過程のうち、とりうる状態が離散的(有限または可算)なもの(離散状態マルコフ過程)をいう。マルコフ連鎖は、未来の挙動が現在の値だけで決定され、過去の挙動と無関係である。各時刻において起こる状態変化(遷移または推移)に関して、マルコフ連鎖は遷移確率が過去の状態によらず、現在の状態のみによる系列である。特に重要な確率過程として、様々な分野に応用される。

 さて鳩山氏は普天間問題について、このマルコフ連鎖(=過去の挙動は無関係)を使って、沖縄の状況を考えた。数学で言えば「微分・積分」の「微分」を使ったのである。

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ところが沖縄は「積分」の世界である。沖縄は先の太平洋戦争で本土から「捨て石」のように扱われ、戦後も米国に占領されるという長く苦しい歴史を持っている。現在でも日本の陸地面積のわずか0.6%の沖縄に在日米軍基地の74%が存在するという不平等な状態を強いられている。

 米軍基地を辺野古に移せば、沖縄県民の感情を逆なでし、米軍は周囲の県民たちの敵対感情の中で任務をこなすことになる。それは双方にとって非常に難しい状況である。鳩山首相は沖縄問題の全体を見て積分できなかった、そこが彼の間違った点である。というのが佐藤氏の説であった。

 ――鳩山氏が何を間違って辞任に追い込まれたかについて、マスコミではさまざまな論調が出ている。

 だが、「マルコフ連鎖」や「微分・積分」にその答えを求めた人は、佐藤氏くらいのものではないか。独自の視点で展開された、非常に興味深い二時間だった。

  私は生粋の文系で微分・積分も遠い彼方であるので、さらに深く知りたい方は「佐藤優の眼光紙背」~「鳩山内閣の崩壊は誰の利益に適うか?」をお読みください。http://news.livedoor.com/article/detail/4759954/?p=3