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商品力をUXで探る

商品力をUXで探る

鹿島 泰介

長年のプロダクトデザインから離れ、インターネット最前線に飛び込んで10年が経過。ITの世界を多角的視点から取り組むデジタルマーケターの鹿島泰介が、デジタルマーケティングとUXの現在や未来について、予見力を駆使しブログを書きつづる。

当ブログ「鹿島泰介の「UXのトビラ2」」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/tkashima/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


・商品力っていったい何なのだろう

image_05-1.jpg商品力とは、売れるもの、お客さまに愛されるもの、長持ちするもの、高い性能、豊富な機能、使いやすさなど、数え上げたらきりがないし、何だって商品力と取れなくもない。特にBtoCの場合は、すぐに売り上げやクチコミに反映されるので、商品力の確認が容易だ。商品力が認知されたらルートが拡大できるし、広告費だってかけられる。そもそもマーケティングがきちんとできているので、商品力の無いものが市場に出ることすら、未然に防げているのではないだろうか。

私自身、プロダクトデザイナー時代にはテレビのデザインを担当していたが、売れる魅力についてデザイン面から常に考え、商品力に直結しそうな新素材があれば積極的に検討していた。もちろんエンジニアから提案のある技術については、市場を見据えたうえで、魅力の味付けにまい進した。それがBtoCの世界であるし、売れないモノづくりは企業にとってすなわち罪悪である。

ところが、BtoBの世界だと状況は一変する。よく野球の打率が例に挙げられるが、3割打者はそんなに居ない。2割でもヒットすれば上出来だという議論もあるが、「(少なくともマーケットに出すからには)それはないだろう」というのが私の本音だ。

今回のコラムは、BtoBの商品力について「ITサービスの今後を見据えた商品力」「お客さまとITサービスのタッチポイント」「経験価値構造とマズローの5段階欲求に見る商品力」という切り口で考えてみたい。

・ITサービスの今後を見据えた商品力について

BtoBの世界は、他社製品との違いが分かりにくいうえ、使った人の意見や事例も少なく、もちろん試すことなど論外で、一か八かの賭けのようなことが半ば常識となっている。強いて言えば、最も決定要因が強いのは価格だけだろう。自治体や公共案件では入札という制度があるが、これはその典型と言える。ただ最近は説明機会を設ける案件もあるため、一概に価格だけとは言わないが、総じて価格は最大ポイントだ。

しかし今後のBtoB商品力は、以下の3つが大きなポイントとなっていくだろう。

(1)決断力を促す要素を持っている
・世界に一つしかない
・シェアが一番
・求めている機能が他社をりょうがしている
・調達しやすい(コネがある、地の利がいい、すでに取り引きのあるベンダーである)

(2)共感が湧く、経験が共有できる
・同じ悩みや課題を持つ会社が導入事例として紹介されている
・営業員が課題をよく理解している
・たまたま見たコミュニティサイトで、同じ商品の話題が出ていた
・会員サイトや会員同士の会話で、課題を共有できた

(3)試せる、合わなかった時に返品できる
・フリートライアルが設定されている
・契約期間に自由度がある
・返品に対するペナルティーがない

商品やサービスを提供する側としては、やや不利に思えるが、実は全くそうではない。むしろこの商品力をきちんと理解しておけば、より有利になると考えた方が良い。(1)は従来の商品力であり、純粋な企業努力に依るところが大きいが、UX観点では(2)と(3)を上手く使いこなせば、これがすなわち商品力の強化につながる。ベンダー側には努力の伸び代が増えたとも言えるが、場合によっては商品の実力が無くても戦える。

・お客さまとITサービスのタッチポイント

次にしっかり考えなければいけないのは、BtoBの場合は商品そのものより、その仕掛けに重点が置かれているということだ。BtoCのようにテレビでコマーシャルを流すわけでもなければ、店頭に商品が陳列されているわけでもなく、営業力を総動員し、メディアでローラー作戦を組めるわけでもない。では、BtoBの仕掛けは何かというと、まさに顧客タッチポイントのすべてで、気配りがあることに尽きる。

商品提案の後、見て・触って・試したうえで良いと感じたら、それはすなわち商品力が強いと判断できる。利用後に、単に良いという感想だけでなく、感動のレベルまで持って行ければクチコミの拡散も期待できる。商品力というと、どうしても機能や性能に目を奪われがちだが、購入前から廃棄に至るまでのタッチポイントの検討と、オムニチャネル(全ての顧客接点)の設計が重要だ。

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・経験価値構造とマズローの5段階欲求に見る商品力

経験価値構造では、ハード・ソフトの価値に加えて情緒的価値が論点となっている。商品そのものや、その成熟度に応じて、情緒的な価値が購入決定要因になっていくというもので、これは商品力に置き換えることも可能だ。コンパクトだとか薄い軽いといった、ただそれだけがうたい文句の商品では、コモディティ化の波にさらわれ、コストのダウンスパイラルに巻き込まれてしまう。したがって、使いやすいとか、以前より仕事がはかどるといった、ちょっとした心理的な便益が、お客さまの心をつかむ。

しかし最近は、この程度のことでは購買の決定要因にはなりにくくなっている。例えば、ハード購入後にネットワークにつないだらプレゼントが届くといった、思いもしないサービスが付帯しているなど、本来の期待を大きく超えることが、その商品ブランドのファンを増やし、新規顧客を呼び込むようなクチコミが拡散する。

以前から考えていたのだが、これはマズローの5段階欲求と、思考のステップが同じではないだろうか。つまり、欲求の低位レベルではそれを欲求と思わず無意識に日々営んでいるが、高位の欲求になると意図的なカタチとして知覚される。期待と欲求は並走していて、こうなれればいいなという期待が、こうなりたいという欲求を喚起する。

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高位の欲求に合致した経験を提供できる商品こそが、UX観点で商品力が強いと言える。単に食べるとか寝るといった低位欲求への対応から、仲間を感じる、尊敬してもらえる、理想の自分を発見するといった高位欲求への対応が必要だ。そのようなプロセスを後押しする商品は、それだけで経験価値が高く商品力が強い。特に昨今は、クラウド化やソーシャルメディアの普及が、人々の欲求をより高次元に導き、結果としてその高位の欲求に合致することが商品力の強さを証明する。

欲求→期待→経験の連鎖は、昨今の商品やサービスに対して、複雑で高度な解を求めているように見える。しかし、これをUXでひも解けば、そこに解が見えてくる。

今回は商品力について探ったが、次回はUXの中心課題となるCS(カスタマーサティスファクション)について、考えてみたい。 


※文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

 

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