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【次世代PR試論】語るな、見せろ
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ここ2回ぐらい、僕がもはや時代遅れと思う広告手法について書いてきた。今回は、今後の方向性を示すものを紹介したいと思う。
数日前から、僕の数少ないFacebookの友達の間でも数回取り上げられたCMフィルムがある。
ユニリーバの基礎化粧品ブランドDoveの『リアルビューティー スケッチ』というタイトルのCFである。2013年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで金賞を受賞した作品だ。
ちょうど3分。ぜひご覧になってから、続きを読んでいただきたい。
● なぜこのフィルムが面白いのか?
さて、フィルムを見ずにまだ読んでおられる方は別として、フィルムを見て続きを読んでいるのであれば、何らかの感銘を受けたのであろう(そうでない方は、つまらないものを見せやがってと、すでに離脱しているはずだ)。
僕は、素直に面白いと思った。以下のような意味でだ。
- ミステリー仕立てである(謎があり、謎ときの快感がある)
- ただ謎があるわけではなく、メッセージを引き立てるための謎になっている
- メッセージが志(BRAND WILL)を感じるものになっている
僕はあまり熱心な読者ではないが、東野圭吾の作品と共通するような構造だと思う。
ミステリー仕立てであることが重要なのではない(後述する)のだが、ダレることなく後半の謎解き(=メッセージ)まで食い入るように見てしまうのは、ミステリー仕立てという工夫をしているからに他ならない。
メッセージの表現の仕方も秀逸であり、テレビCMでなければ不可能(ラジオでは無理)な表現である。登場人物(元警察官の似顔絵描き)の必然性も計算しつくされている。
メッセージそのものも、Doveが以前から強調している「リアルビューティー」(フィルムのタイトルでもある)を補強するものとなっている。
Doveは言ってみれば、石鹸や基礎化粧品を製造・販売しているブランドだ。しかし、彼らが本当に提供している価値は「リアルビューティー」だと言うのだ(この手の主張をBRAND WILLという」
要するに、ありとあらゆる計算と工夫がなされている上に、メッセージにも共感できるから面白いのである。
これが、これから求められる(僕が「次世代PR」と呼ぶ)ものの本質だ。
● 語るのではなく見せることが求められている
もう少し詳しく述べる。
感動的なメッセージで消費者の心をつかもうとするCMが多い(なぜか金融業とか医薬品製造業、医療機関などに多い。格別な理由でもあるのだろうか?)。
しかし、僕の個人的意見では、多くは失敗しているように思う。ツイッターなどの反応を見ていると「うさんくさい」、「もうあきあき」、「地に足がついていない」などのような感想が目につくからだ。
本当に失敗しているとしたらなぜなのだろう?
それは、感動的なことを語るのはたやすいが、それを表現するのは難しいからだ。
本当の医師なのか、売れないタレントなのか良くわからない人達が何人か出てきて、「好きな言葉は××(例:努力)です」のような前向きな言葉を次々と言うCMがある。これがネットではとても不評なのだが、理由は明らかだ。
「言うだけなら誰でもできる」からだ。こんな安易なつくりのものに本気さは感じられない。
これと冒頭で示したDoveのCMフィルムを比較して欲しい。
本気度の違いは一目瞭然だ。
人は、ただメッセージが美しいだけでは共感しない。そのメッセージが本気なのかどうかに反応し、本気さを感じれば共感する。
素晴らしい価値を提供するのであれば、そのPRも素晴らしくなくてはいけない。
「私たちは真の美しさ(リアルビューティー)を実現します」などと連呼しても誰も共感しないのだ。
しかし、CMフィルムで「真の美しさ」(美しい画像、すばらしい構成のストーリー、計算されつくした「美しい」工夫など)を表現していれば、「Doveはすごい!」ということになるのである。
「語るな、見せろ」ということを消費者は要求しているのだ。
● 小さな会社でもやれる
Doveのブランドオーナーであるユニリーバは、世界的な大企業である。広告予算も潤沢だろう。こういう企業が本気ならできるけど、中小企業はどうなのか?
当然の疑問だが、あきらめないで欲しい。
同じく2013年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで銀賞を受賞した日本の中小企業の作品がある。
関西の漢方薬メーカー、ムラタ漢方の「梅花五福丸」のCMである。
たった15秒である。これこそはぜひ見ていただきたい。ムラタ漢方が梅花五福丸で、どういう価値を提供したいかが、一発で分かる。主たるターゲットである年配の方々の共感度も高いであろう。
「梅花五福丸を飲めば元気になる」というのが、このCMのメッセージである。しかし、それを言葉では言わない。元気とはどういうことかを動画で表現する。
別にミステリー仕立てである必要はない。また、いわゆる感動系でなくていい。こういうユーモアやエスプリといった笑いの感覚があるほうが、返って信念は伝わりやすいと思う。なぜなら、人を泣かせるよりも、爆笑であろうとクスり笑いであろうと、笑わせるほうが難しいからだ。より本気度が伝わるし、また好感ももたれやすい。
このようなCMが、少なくともPRのプロたちが集まって審査するカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで国際的な高い評価を得る時代なのである。
これも「語るな、見せろ」の好例である。
<参考文献・サイト>
- 「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」について詳しく知りたい方は、『教えて! カンヌ国際広告祭』(アスキー新書・佐藤達郎)をお読みください。本記事も、同書から大きな影響を受けています。
- 2013年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルの講評は、こちらのサイトを参照しました。感謝します。
⇒ http://www.osaka-ad.or.jp/newstopics/news/2013/12/3067.html