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"憧れの企業"に憧れて就職してはいけないワケ
»2011年7月 1日
メディアとWebと人材と
"憧れの企業"に憧れて就職してはいけないワケ
理系学生向け就職情報誌『理系ナビ』初代編集長。ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務等もお手伝い中。
当ブログ「メディアとWebと人材と」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/careerbase/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
毎年冬ごろになると、就職希望の企業について人気ランキングが発表されます。ざっと調べてみたところ、学情とダイヤモンド・ビッグ アンド リード、毎日コミュニケーションズ(マイコミ)の3社によるランキングが見当たりましたが、マイコミのランキングの方がツッコミやすいので、そちらから話を進めさせてもらいます。
前々々々回で20代の方には、次のような話について知ってほしい、ということをお伝えしました。
1. 譲れない"軸"を知っておく必要性
2. 働き方の"路線"を考えておく必要性
3. 本当に求めている"職業"を知っておく必要性
◆"憧れ"と"仕事"をごっちゃにしてはいけない
マイコミのランキングでは1位はJTB。ランキングの仕組みやら大手志向の学生の心構えやらに疑問を口にする言説をよく目にしますが、今回は仕事というものへの理解について苦言を呈したいと思います。
「学生をバカにするな!」と怒られそうですが「旅行が好きだからJTBに入社したい」と考えている人は居ませんか? JTBの人事の方が否定されているように、「旅行が好きだから添乗員になりたい」と考えている人はJTBを志望してはいけません。JTB人事の方が仰っている内容をそのまま引用すると、JTBのビジネスの軸は「旅や交流を通じて、人を喜ばせたり、お役に立つことを考える」こと。ググってみたら、すばらしいエントリーシートを見つけましたが、これが恐らく正解。この人がJTBを志望することを止めませんし、応援します。
というわけで、今回は"憧れ"と"仕事"をごっちゃにしてはいけないという話です。
◆オリエンタルランドが"好き"なのか、オリエンタルランドで"働きたい"なのか
2番目にツッコミやすい学情のランキングではオリエンタルランドが1位。ディズニーランドに憧れている人は多そうですからね。オリエンタルランドを貶すつもりは一切ありませんが、けれど一度、考えてみましょう。「あなたはディズニーランドが"好き"なのですか? それともディズニーランドで"働きたい"のですか?」と。
ディズニーランドで働き始めたら、恐らく、これまで一般客として楽しめていたディズニーランドの楽しさは二度と味わえなくなることでしょう(別の角度で楽しめるようになるかもしれませんが)。
ディズニーランドが"好き"という気持ちが強いんだったら、しっかり休みが取れて収入もソコソコの会社に入って、毎週末ディズニーランドに通った方が幸せな人生を過ごせるんじゃないですか?
◆笑い話では済まされない"アラサー前病"
ここまでは良くある笑い話?ですが、実は私にとっては笑えない理由が2つあります。先に書きやすい話から始めると、実は30歳が視野に入ってきた20代後半の方が、同じような理由で転職を考えるケースが、目に付いてしまうからです。
例えば、高学歴で良い会社に入り、しっかりと実績も残している人が、突然「自己実現のためにWebデザイナーになりたい」と言う。あるいは同じように20代後半になって、突然「芸能プロダクションでマネージャーをやりたい」と言う。結構居るんです。
「自己実現のためにWebデザイナー」と言いますが、幾つか問題点が。
まず第1に、30近くにもなってまったくの未経験者を採用してくれる企業は(ゼロじゃないけど)多くありません。また仮に採用されても新卒並の給与になることは覚悟しておいてください。
そして2点目の問題。「自己実現でWebデザイナー」と言いますが、Webデザイナーの仕事をご存知ですか? アーティスティックなデザインをする人は(よほどの天才クラスでない限り)評価されず、ユーザビリティに優れた使い勝手の良いデザインをする人が評価される世界です。あるいはマークアップエンジニア寄りの仕事、デザインよりもコーディングの仕事で時間を取られる人も居れば、Webディレクターのような仕事まで担当している人も居る。それで本当にあなたの考えている「自己実現」はできますか? 趣味でサイトを作るんじゃダメなんですか?
同じように芸能プロダクションのマネージャーを考える人へ。本当にマネージャーの仕事のことを理解してますか?(以下、略)
◆実は私も仕事のことがよく分かってなかった
と、偉そうなことを書いてきましたが、実は自分自身が仕事のことを分かってなかった、という強烈な自己反省があります。
私は学生時代、ITバブルに踊らされて、ある広告代理店にアルバイトで入り、エンタメ系の情報サイトを作ってました。コンテンツを考え、Webサイトを作り、まぐまぐなどのメールマガジン発行システムを使い、プレゼントキャンペーンで読者を増やし――。といった活動の中で、私が熱中していたのは「会員を増やすための仕組み作り」。どんなコンテンツを書くか、記事の質をいかに上げるか、ということを考えるよりも、「○曜日の○時にメルマガを出すとまぐまぐで上位に入る」「プレゼントは○○と××で告知すると一気に会員が増える」という仕組みを考え、それを自分の手で実行し、その結果を見て一喜一憂する。そんな体験が好きでしたし、会員数もわずかながらですが増えていました。自分の手でPDCAを回して成果を出す、ということにハマっていったのです。
というわけで、就職先の1つとして考えたのは、Webメディアを作っている会社。幾つかの幸運に恵まれて望み通りの職場に入ったはずなのに、結局2年半で退職することになってしまいました。経験させていただいていた仕事は、営業職や編集職でした。
今振り返ってみて「バカだったなぁ」と思いますし、こんな恩知らずを育ててくれた恩師の皆さま方には平身低頭、足を向けて眠れないような気持であります。結論、退職の最大の理由は、自分のやりたい仕事が「Webプロデューサー」やら「Webマーケティング」やらだったはずなのに、それが分かってなかったんです。
学生時代に新聞作ったりムック本作ったり、バイト先で3日徹夜して〆切間に合わせたりと、並の学生よりは仕事のことを知っていたつもりだったんですが、分かってなかったんだと今でも反省してます。
と言いつつも、自分でその事実をはっきりと認識できたのは20代後半になってから。もっと早く気付けていれば、迷惑掛けずに済んだのになぁと反省しています(幸い、遠回りしたとはまったく思ってません。当時、基礎を作っていただいたおかげで今があります)。
そんな反省の念でいっぱいで、何かドデカイことを成し遂げたわけでもないオッサンが、Webの片隅でこんな話をぼやいているわけです。
これから就職活動を迎える学生さんには、同じような反省をしてほしくないですし、20代の方ならまだ取り返しがつきます。くれぐれも自分が好きな"憧れの企業"へ安易に就職しようとするのではなく、本当に自分がやりたいことについて考えてみてください。