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たった"15秒"の積み重ねが経営を左右する
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"15秒"の顧客接点が、その会社の命運を分けているとしたら・・・。今から約20年前の1990年に発刊された『真実の瞬間』という書籍をご存知でしょうか?市場が落ち込み、削減できるコストはぎりぎりまで削減したものの、2年連続で赤字。万策尽きたと思えた航空会社の再建を引き受け、成功させた、ヤン・カールソン氏の著書です。20年経った今も売れ続けています。今日はその書籍からヒントを得て、顧客サービスを業績につなげる考え方のヒントをご紹介します。
"顧客接点=真実の瞬間"という考え方
スカンジナビア航空を形成しているのは旅客機とかの有形資産の集積だけではない。もっと重要なのは、顧客に直接接する最前線の従業員が提供するサービスの質だ。
1986年、1000万人の旅客が、それぞれほぼ5人のスカンジナビア航空の従業員に接した。1回の応接時間が、平均15秒だった。したがって、1回15秒で、1年間に5000万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その5000万回の"真実の瞬間"が、結局スカンジナビア航空の成功を左右する。その瞬間こそ私たちが、スカンジナビア航空が最良の選択だったと顧客に納得させなければならない時なのだ。
顧客が自分の会社のサービスを受ける時、何人ぐらいのスタッフが、どのくらいの時間接しているか、計ったことはあるでしょうか?
例えば、コンビニエンスストアの利用で考えると、(1)入店時の声がけ、(2)レジでの会計、(3)退店時の声がけが多くの人がスタッフと接する機会です。それ以外でも、探している品物を聞く、トイレを借りる、道を教えてもらう、などがありますが、(1)~(3)を平均すると一人につき、15秒/回ぐらいになるのではないでしょうか。その15秒/回がここでいう、"顧客接点=真実の瞬間"です。
一人につき3回×1日の来店客数、1ヶ月の来店客数、1年の来店客数・・・と、考える。また、コンビニエンスチェーン全体で見れば×店舗数になります。
顧客がスタッフと接する平均15秒の接点。この15秒を最も重要な機会ととらえ、"顧客が期待する最大の価値をスタッフが提供できるようにしよう"と考えたのがヤン・カールソン氏でした。
顧客接点が"人"とは限らない今
1980年代後半は、インターネットは普及していません。そのため、ある会社のサービスを受けようとすると、多くの"人"が介在していました。しかし、2010年の現代は、ある会社のサービスを受ける時"人"が介在しなくなりつつあります。先に例に挙げたコンビニエンスストアも、会計がセルフ化されているところも出てきています。
入店・退店時の挨拶が"機械音"、会計がセルフ。顧客が店舗を運営する側と全くやりとりしなくて良いサービスが、成り立ちつつあります。
しかし、そんな時代だからこそ、顧客と接する"人"への期待が高まり、重要性が増していると言えます。・・・とはいうものの、前の記事のホテルの事例でご紹介したように、サービスを提供する人たちは、その重要性に気がついていないのか、顧客をがっかりさせるようなサービスを提供しています。これでは、人がいる意味を成していません。
がっかりしたサービス事例を元に考える
前の記事(〔ケーススタディ〕でビジネス力を高める~あるホテルでの対応~http://blogs.bizmakoto.jp/harada6stars/entry/3423.html)の記事でご紹介したホテルについて考えてみましょう。このホテルでの顧客接点は(1)駐車場係、(2)チェックイン時のフロント係でした。
それでは、課題を明確にしたうえで、私だったらこうするだろうという<サービス改善(案)>を考えてみたのでご紹介します。
(1)駐車場係の課題:ホテル隣接の駐車場数が、ホテルの客室数の20%しか用意できていない。周辺に契約駐車場もあるが、それも約20%分しか用意できていない。駐車場係の案内が不明確。遠方から来ている利用者に対するねぎらいがない。遠方から来ている利用者にとっては周辺の地理がわからないことに対する配慮がない。
(2)フロント係の課題:遠方から来ている利用者へのねぎらいの言葉がない。駐車場で不便をかけていることへの謝罪がない。不満を伝えると、平謝りでペットボトルのお茶を差し出す。お茶を濁された感が増幅する。
<サービス改善(案)>
(1)予約時の案内メール
・車の利用に関する留意事項など、事前に伝わりやすくする
(2)駐車場係
・契約駐車場が満車な場合に備え、周辺駐車場の案内図を用意(ナビで検索しやすいように住所を入れる)
・長距離運転へのねぎらいと、ホテル利用のお礼を伝える
・契約駐車場が満車であることへのお詫びをする
・周辺の時間貸し駐車場の案内図を渡す。その際、隣接駐車場、契約駐車場の料金を明記。周辺の時間貸し駐車場の利用も、料金的なデメリットがないことが伝わるように配慮
・重い荷物などは、先に預かる場所を用意
・手間をかけることへのお詫び+礼
(3)フロント係
・遠方からの利用へのお礼、駐車場の利用に不便がなかったか確認。不便をかけた際にはお詫びの言葉
・ホテル内や周辺のイベントなど、その時々の話題を提供
・ホテル利用に関する案内
・(駐車場が遠い場合など)ミネラルウォーターなどのサービス
・「ゆっくりされてください」などねぎらいの言葉 (笑顔&礼)
(案)では、顧客接点を(1)事前案内からとしました。案内は、自動メール配信システムを見直すイメージです。間接的に接する機会も、重要な顧客接点と捉えました。その他にも考えられるアイデアはあるかもしれません。(よかったら、コメント欄にお寄せください。)
機械やコンピューター以上の仕事を人にさせてほしい
「経営が大変だ」という話をよく聞きます。金融危機、自然環境災害など、一時的に経営が厳しいことはもちろんあるでしょう。しかし、なかなか回復しないというのであれば、現状を見直す良いタイミングかもしれません。
文句を言わず、仕事にブレがない、コンピューターの音声や、自動会計をはじめとしたシステムは、経営をする側、リーダーとして人の指導にあたる側から見れば、投資さえすれば、安定したサービスを提供できる経営資源でしょう。しかし、本来人は、コンピューターには提供できない価値をもたらします。また、コンピューターに仕事をさせるのは人です。
しかし、スタッフがある一定以上のサービスを直接的、間接的に顧客に提供できるようにしていく、或いは、新たな価値を組織にもたらすことができるようになるためには、経営者やリーダーが「顧客が期待する以上のサービスや価値を提供したい」という想いを持つことや、スタッフがそれを提供できるようになるための考え方や技術習得の機会が必要です。
経営者やリーダーが想いを継続すること、スタッフが考え方や技術を身に付けるのには、時間がかかります。そのため、人が提供していたサービスがどんどん機械に置き換わっているのでしょう。しかし、そうした投資を重ねている会社ほど、お客様が離れているように私には感じられます。反対に、約15秒とも言える顧客接点を貴重な機会と捉え、稚拙でも、少しずつでも人が提供できるサービスや価値を向上させていこうという想いを持った会社は、お客様を増やしています。それは、私の仕事上の経験からも明白です。
"真実の瞬間"では、
スカンジナビア航空を形成しているのは旅客機とかの有形資産の集積だけではない。もっと重要なのは、顧客に直接接する最前線の従業員が提供するサービスの質だ。
と言っています。20年経った今も、廃刊になるどころか、増刷を続けているのには、何かしら理由があるように思います。
直接接するかどうかを別にすれば、どのような会社でも必ず顧客接点はあります。今一度、「自社に対して顧客が期待する価値」と「顧客接点」を明らかにしたうえで、「人にしかできないこと」に視点を置き、経営や仕事を見直してみると、業績向上に向けて取り組めることが見つかるのではないでしょうか?
(参考情報)
真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか ダイヤモンド社刊 ヤン・カールソン著
http://www.diamond.co.jp/book/9784478330241.html
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