誠ブログは2015年4月6日に「オルタナティブ・ブログ」になりました。
各ブロガーの新規エントリーは「オルタナティブ・ブログ」でご覧ください。

【4/4】火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制 - オール電化住宅の意義

【4/4】火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制 - オール電化住宅の意義

生内 洋平

EGGPLANT楽団主催 株式会社デザインバンク代表 & アート・ディレクター 株式会社アニー・デザインオフィス アートディレクター ジャンルの垣根なく、仕事活動中。二娘のパパ。音楽は家族。デザイン・アート人生の相棒。創り続ける目的は自分と関連あまたの豊かさ創りです。

当ブログ「イクナイの未来派生活研究室」は、2015年4月6日から新しいURL「​http://blogs.itmedia.co.jp/ikunai/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。


ここまで、現状のエネルギーの供給について、おさらいしてきました。
ここまでの話の中で1つ気づく事があると思います。

これまでの話はあくまで「電気」に限って進めています。
が、実際エネルギーとは電気の事だけをさすものではありません。

★実はロス(欠損)だらけの「エネルギーとしての電気」

ストーブを例にとりましょう。
電気ストーブ(エアコン含む)と石油・ガスストーブ、部屋を暖めるのに、低コストで済むのはどれでしょう?
この問題における「ガス or 灯油はどっちが得?」については、実は地域的ごとの環境差で順位が逆転する場合があるのですが、両者と比べて「部屋を暖める」のに一番お金がかかるのは「電気ストーブ」です。

これは、家庭レベルだけの話ではなく、発電所などにも当てはまる事です。
例として、火力発電で生み出している電気を使って部屋を暖める図式を考えてみましょう。
※ここは数字の問題ではありませんので詳細な数値説明は省きます。

1.火力発電で化石燃料(熱)を電気に変換する(変換ロス)

2.電気を家庭まで送る(送電ロス)

3.家庭で電気ストーブにて熱に変換し、部屋を暖める(変換ロス)

このように、本来的な熱資源は3段階のロスを経て部屋を暖める用途に達します。
例えば火力発電で使っている燃料をそのまま部屋を暖める目的に使う事ができれば、間の幾つかのエネルギーロスは減ります。
(代わりに燃料の輸送コストなどが発生するので、このバランス式を経済学に当てはめるのはまた一段難しい事ですが、今回は原理の話だけをします。)

そしてここ日本でも北部地域では、もはや「暖房」機能がないと人は生きていけません。
このことを意識すると、いくつかの事が見えてきます。

★電気は「通貨」

エネルギーには他にもたくさんの種類があり、暖房器具の熱エネルギーに加え、自動車の運動エネルギー(走っている自動車はその気になれば建物に突っ込んで対象物を破壊することができます。)、高い位置にあるものはそれだけでエネルギーを持ちます。
高い位置の水を一気に落として発電する水力発電は、ある意味ではこの「位置エネルギー」を元に発電しているとも言えます。

そんな中で「電気」がもてはやされる理由は、やはり手軽で取り回しが聞き、様々な局面で利用しやすいからという事につきます。
熱エネルギーはそのままでは部屋や料理などの対象物を暖める事しかできませんが、熱によって発生した蒸気を用いて運動エネルギーに変換したり、発電によって電気エネルギーに変換する事で、様々な局面に活躍する事ができます。

もうひとつ、電気はこれまでのインフラ整備における多大な努力の結果、輸送に関して都度のコストがほとんどかからなくなりました。
例えば発電所で生産された電気は、トラック便などを介する事なく各家庭や事務所、工場などに送られます。
これは水道やガスと同じ状況で、エネルギー供給がインフラ化されている面です。 ただ電気やガスと異なる一つの性質として、電気には「送電ロス」があります。遠くの拠点であればあるほど、電気は送電する段階ですり減っていきます。これは送電線の材質の問題で、この送電ロスが少ない材質の事を「超伝導」と呼びますが、超伝導は生産が高コストだったり存在環境(超伝導物質が超伝導性を発揮できる環境。一般的には温度(低温状態)など)が特殊だったりと、まだ送電線にそれを使えるほどの技術が発達しきっていないので、それなりに減衰しながら電気は各家庭へ運ばれているのです。
※送電ロスを電気の輸送コストだとする考え方もあります。エネルギーを取り巻く環境は兎角複雑です。

また、電気は電池に代表する「蓄える技術」がとても進歩していて、
・様々なものに変換できる技術インフラがある
・蓄える機能が手軽に使える
・世界的に普及している(諸国の電池式ラジオを含む) ・輸送コストが安い。(配電線の維持費などだけで済む)

この4つの特徴は、人間社会における通貨に通ずるものがあります。
それゆえ電気は「手元のエネルギー代表」として語られる事が多いのです。

★エネルギーの適材適所

前回エネルギー供給体制の乱立についてお話ししましたが、
「部屋や料理を暖める技術」は直接命に関わるだけあって、現在も様々な技術によって支えられています。
薪ストーブ、灯油ストーブ、ガスストーブ、電気ストーブ、ガスコンロ、IHヒーター、薪釜、
いざというときに「暖める」という方法が様々揃っています。
命に関わる寒さが襲う北国にとってこんなに心強い事はありません。

★オール電化住宅

そういった意味ではオール電化住宅は、非常にエネルギー効率の悪い住宅だと言えます。
化石燃料を電気に変換してその電気で部屋を暖めることを考えると、
化石燃料で直接暖めたときと比べて実に3倍〜4倍の燃料を必要とします。

さらに「電気がなくなると何もできない家」になります。
そういう意味では「インフラ1極依存型のもろい家」だと言うこともできます。
オール電化住宅が商品として成立していられるのは、電気を安定供給するインフラ整備の努力結果に他なりません。
いわば「当たり前の電気」の象徴です。

★それでも電気のみを使う事のメリット

それでも電気が積極的に利用され、オール電化という住宅体系まで確立されているのは、「家庭にとっての電気」の
・クリーン(暖房・冷房時に排ガスなどを出さず、環境負荷が低い)
・比較的安全(灯油ストーブなどは転倒即火事。電気ストーブは転倒で自動的にスイッチが切れ、火事に至るようなエネルギー発生を自動で中止できるような制御メカニズムを搭載可能)
・メンテナンスフリー(煙突の交換や、水道管の交換などのインフラ維持の為のコストが他に比べて安価。部品の交換やメンテナンス頻度はかなり低い。)
・取り回し易い(電池などに蓄電可能。延長コードなどで使用箇所まで気軽に移動可能。様々な用途に使える機器が容易く手に入る)

というような特徴から来ているように思います。
これらの特徴は、電気の流れのコントロールはガスや水道と同じく物理構造だけど、それに使われる電線などが限りなく倫理構造に近い性質を持つことができるからです。
電気は回路が繋がっていないと伝達しません。(遠隔充電などの蓄電技術技術発達もありますが、効率の良い伝達技術という観点からはまだ無視してよい技術ですのでそれはまたの機会に)
つまり、ほとんどの電子機器でスイッチ(動作)ON / OFFを指先のみで一瞬で行うことができるという特性です。
この特性をうまく捉えると、スイッチとコントロールパネルの位置さえ気をつければ、ある程度の効率的な運用リスクマネジメントが容易に行えます。

★電気の利用性質からくる発電体制のやむなき弊害

電気が水道やガスなどの他のライフラインと決定的に異なる点は、
「それが瞬間的であっても停止する可能性を前提とした機器整備が一般化していない」
という点です。
水道であれば「あれ?水が止まったぞ?」ガスも「火がつかないなぁ?」を皮切りに発生する利用停止状態で事は済みますが、電気の停止は本当に想定されていない事が多いので、急激な電圧変化による電子機器の破損やデータ欠損などの結果をもたらします。
こういった電気電子機器類の事情は、数年前まで電子機器メーカーが「電気が止まるなんて事は滅多にない」という状況の中で商品開発を行ってきたからで、一般家庭や小規模オフィスなどで使用される電気電子機器類に停電耐性が付与されるようになったのは本当にここ数年の事です。
今後起こり得る原子力発電の廃止や新エネルギー供給技術の確立などで発電体制が変化し、電気供給の安定性が優先できなくなるころには、電気電子機器類の停電耐性は今後標準的なものになっていくと思いますが、現在は過渡期のような状態です。
※サーバーやデータセンターなど、専門業者が重要データを扱う機器には、昔から停電対策としてUPS(無停電電源装置)などがよく利用されています。これは大きなバッテリーのようなもので、通常時にはバッテリーに充電しながら電子機器に電気供給を行い、停電時には充電していたバッテリーからの電気供給を行い、停電状態を回避するものです。

日常触れる手元の近い仕組みにノートPCがあります。
ノートPCも電源供給が切れた際にはバッテリーからの給電に即座に切り替わります。

★電力が安定供給されない世界とは

電力が安定供給されない世界は、地球上にもいくつもあります。
そういった世界に住む人でも、ラジオやウォークマンなどを楽しんでいる場合があります。
家まで電気が来ているわけではないのにそういったものが楽しめるのはまさに蓄電技術(電池)のおかげです。
もし、家電単位で自己蓄電できるようなインフラが整えば、電気の安定供給など必要なくなるかもしれません。
家庭の主要な家電製品が1時間のダウンタイムに耐えることができれば、電力の供給事情はかなり変わってくると思います。
今までそういった方向に話が行かなかったのはまさに電力が安定供給され続けてきたから(日本でも過去には大きな電力供給ストップ事故が起きましたが)です。 電池の宿命とも言える「寿命と廃棄」の問題がクリアできれば、蓄電技術の成熟とともに総電力量の心配が膨らむ次世代に、そういった方向での技術変革があってもおかしくはないかなと思います。

★最後に

私の書くシリーズ物のブログは大抵そうですが、基本的に「こうですよ」と結論づける事はしません。
ここに並んでいるのは「その問題がおかれている状況」と「私の所感」です。
また、状況は詳しく説明するときりがない為、必要最低限の事を書くにとどめています。
それを見て皆さんが考えた結論があれば、是非みんなで共有しましょう。

そうした結論の共有が、お互いの理解を深める。
そんな場になればと考えています。

ご意見・ご要望・文句は@ikunaiまで。

前ページ:【2/4】火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制 - 発電方式ごとの仕組みを考える

火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制
【1/4】火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制 - ここまで嫌われる原子力発電とは?
【2/4】火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制 - 発電方式にはどんなものがある?
【3/4】火力?水力?原子力??乱立エネルギー供給体制 - 発電方式ごとの仕組みを考える