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原子力論考(26)キセノン検出だからといって再臨界ではありません

»2011年11月 4日
開米のリアリスト思考室

原子力論考(26)キセノン検出だからといって再臨界ではありません

開米 瑞浩

社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。

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 原子力論考もついに30が見えてきました。始めた当初から「こりゃ30はいくぞ・・・」と覚悟はしてましたが、実際その数字が見えてくると、もう一度覚悟し直さなければならないかもしれません。「こりゃ60は・・」と(笑)。

 さて、一昨日、こんなニュースが流れました。

福島第一原発2号機で微量のキセノンが検出された。
核分裂が起きている可能性が否定できないため、ホウ酸水を注入している。
共同通信11月2日報道) (東京電力 11月2日発表 福島第一原子力発電所2号機原子炉格納容器ガス管理システムの気体のサンプリング結果について

 この報道を受けて、短くまとめると「そらみろやっぱり再臨界しているじゃないか、これじゃ冷温停止なんて無理だ! 東電は信用できない!!」という趣旨の反応があちこちから上がりましたが、その後、検出されたキセノンの量を精査すると、「自発核分裂で起こる、問題ないレベルであり、再臨界ではなかった」と発表されて落ち着いています。(東京電力 11月3日発表 東北地方太平洋沖地震による影響などについて【午後3時現在】

 で・・・ところで、再臨界って何でしょうか。自発核分裂って何でしょうか。このあたりがわからないままで報道を聞いてもピンと来ませんので、原子力については専門外な私が(笑)、わかるように解説してみます(無謀な奴、と笑ってください)。

 (一応意図を書いておきますと、「専門家」じゃないからこそ、素人が読んで理解しやすい解説が書ける、という場合もあるのです(理由は略))

 さて、それではここから先はいくつかグラフを使いますが、いずれも「おおまかなイメージをつかむためのテキトーなグラフ」であって、座標軸のスケール(目盛)には大した意味はないと思ってください。

■「臨界」が起きると発熱量が激増する

 「臨界」が起きたかどうかがなぜ問題なのか?
 それは、「臨界」状態になると発熱量が激増するためです。

 そもそも原子炉は運転を止めて放っておいても発熱します。これが3/11の大震災以来起きていることで、現在福島第一ではその発熱を冷却するために注水を継続しています。(東電発表 H23/11/03 過去の実績 8月以降分

2011-1104-01.png 

 したがって「発熱量が増えると困る」わけですが、「臨界が起きると発熱量が激増」します。困りますね。

 そこで「臨界が起きると発熱量が激増する」とはどういうイメージか、グラフにしてみましょう。

2011-1104-02.png

 時間軸に沿って発熱量がどう変化するかをおおざっぱにプロットしたのが上の図ですが、左端の黒線は原子炉が「正常な臨界状態」のもとで運転中の発熱量です。臨界を止めると急激に発熱量は減りますが、ゼロにはなりません(緑線)。現在でも運転中の数パーセントの発熱量は残っていると見られています。しかし、震災直後よりは格段に減っています。今後も減り続けるため、収束は楽になる、はず・・・です。

 ところが、もしここで「再臨界」が起きると、せっかく減った発熱量が一気に上がります(橙線)。このときの「再臨界」は、正常運転中とは違って制御されていないため、一定の発熱を保つことはなく、細かく山や谷を繰り返します。しかしながら緑線のような「あとは崩壊熱だけだから減る一方」の線よりは多くなるため、収束が見えなくなります。しかも制御不能なままだと赤線のようにドンドン上がり続ける恐れも極めて小さいながらないではない、というわけで、非常に困ったことになるわけです。

 ちなみに「再臨界」がたとえ起きたとしても瞬間的なものなら大きな問題にはなりません。継続すると熱量が溜まり冷却が難しくなるため、困ります。


■「キセノン検出」は、再臨界の痕跡という可能性があった

 さて、そこでキセノンです。キセノンというのは核分裂によって生成される主要な物質のひとつで、原子炉が運転を始めるとあっという間に膨大な量が溜まりますが、半減期が短いため一定量以上は増えず、臨界が止まると急速に崩壊していってこれもあっという間になくなります(図中、赤実線)。そのため、臨界停止後8ヶ月近くたった現時点ではほとんど残っていない、はずでした。

2011-1104-03.png

 ところが10月27日に測定を行ったところ、微量のキセノンが検出された、というわけです(赤点線)。なお、もう一度書きますが、このグラフはおおまかなイメージを示しているだけなのでスケールは無視してください。実際に検出された量はこのグラフで示されているよりも何桁も小さい微量です。

 そこで、微量とはいえもし再臨界の結果生成されたものであれば悪い兆候だ、ということで問題になりました。キセノンは核分裂が起きなければ生成されませんので、なんらかの核分裂が起きたことは確実です。問題はその原因物質の種類と期間と量で、「原因物質=ウラン235、期間=継続的」だとつまり再臨界を示しており、発熱量が激増するため、「これはまずい」ということになります。

2011-1104-04.png

 さて、問題を整理してみましょう。

関心事項:再臨界が起きているのかどうか?
    ケース1:(最善)まったく起きていない
    ケース2:(次善)瞬間的に起きたことはあっても継続するような状況にはない
    ケース3:(やや悪)ある程度継続的に起きているが、発熱量は限定的であり、暴走する状況にはない
    ケース4:(最悪)大規模な再臨界が起きる(この場合、再び放射性物質の大放出が起こる可能性があります)

 (ちなみに1997年の東海村JCO臨界事故で起きたのはケース3に近い事態でした)

 次に、どのケースに該当するのかを判断する材料が必要です。判断のポイントを挙げていくと以下のとおりです。

    ポイント1:核分裂が起きているか?
    ポイント2:その原因物質はウラン235の誘導核分裂か?
    ポイント3:継続的かつ高頻度かどうか?

 すべての答えがYESであれば最悪で、ケース4に発展する恐れがあります。

 11月2日の時点で報道されていた情報を見ると、各判断ポイントについてそれぞれ次のような状況でした。

ポイント1:YES キセノンが検出されている以上、何らかの核分裂が最近起きたことは確実。

ポイント2:不明 可能性があるのは、下記3種類で、(c)なら悪材料、(a)(b) の場合は問題なし。
    (a) ウラン235や238,プルトニウム239の自発核分裂
    (b) プルトニウム240,その他の超ウラン元素の自発核分裂
    (c) ウラン235の誘導核分裂

ポイント3:今までのところNO
    圧力容器温度等の計測値の変化を見る限り順調に下がっていっているため、再臨界が起きた兆候はない。

 ここまでが、11月2日時点の報道でわかった情報です。ポイント1だけがYESと悪材料側で出ていましたが、ポイント2については不明、ポイント3はNOでした。
 ポイント3がNOだったことから、悪い事態ではないんじゃないかな、と私が思っている間に、物理学者クラスタでは(a)(b)の可能性が指摘され始めていました。
 「自発核分裂」というのはあまり知られていませんが、原子核外部からの中性子の衝突がなくても勝手に起こる核分裂のことで、一部の放射性元素がこの現象を起こします。いずれもキセノンを生成しますが、自発核分裂の場合は激増することはないため、心配は要りません。

2011-1104-05.png


■キュリウム242,244の自発核分裂と判明

 と、そうこうしているうちに3日になり、東京電力から発表がありました。

ポイント2:NO キュリウム242,244の自発核分裂によって起こるキセノン生成量と一致する。

 以上、ポイント1だけがYESで残りがNOと判明し、再臨界の可能性は否定されました。したがって、「関心事項」のケース1(最善)か、悪くてもケース2(次善)にとどまります。

 そんなわけで、今回のキセノン騒動も「再臨界! 制御不能!」といった事態ではありませんので、安心してください。
 

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