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会社設立手続きと初めての社員 (新事業の話-2)
»2012年9月20日
そろそろ脳内ビジネスの話をしようか
会社設立手続きと初めての社員 (新事業の話-2)
株式会社プラムザ 代表取締役社長。システムコンサルタント。1998年に28歳で起業し、現在も現役のシステムエンジニア、コンサルトとして、ものづくりの第一線で活躍しつつ、開発現場のチームとそのリーダーのあり方を研究し続けている。
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■会社設立手続きを自分でやるということ
昨日も夜遅くなってしまったが、新社長と打ち合わせした。きたる約10月1日に新会社を発足させるにあたって、事務手続きなどを進めているようだ。
以前、飲みながら
『会社の設立手続きは、司法書士に頼んでも数万円(印紙代等は別)なのだから、自分でやらずにプロに頼んだら?』
と言ったが、新社長が自分でやってみたいというので、まあそれならそれでもよいか、と思った。
そもそもなぜ多くの起業経験者が『会社設立の手続きなどアウトソースした方がいい』というかというと、その経験がほとんど将来にわたって役に立たず、この作業に10時間-20時間とかの暇をかけるのであれば、本業に割いた方が全然よいからだ。
でもスタート時は納期に追われるような仕事があるわけではないし、数万円でも売上で回収しようと思ったら大変なことではあるし、忙しいほど精神的に安定する面もあるし、この経験は将来のよい思い出話にもなる。
なので、まったくの無駄というわけでもない。
私も15年ほど前、会社を作った際にはすべて自分で手続きをした。
特に世田谷の公証人役場に定款にハンコをついてもらいに行ったときは、おじいちゃん先生方の呑気な仕事ぶりをみて、現状の自分の気合いとのギャップに驚いたものだ。
こんなおじいちゃんが、自分の何倍も稼いでいるのかと。
基本的に定款の内容を精査して不備を指摘するのは、そこにいる数名のおばちゃんだ。
おばちゃんの1時間とかに及ぶ審査(*1)を通過したら、やっと公証人のおじいちゃんのところにそれを持って行ってくれる。
そこでおじいちゃん先生は言う。
『この紙ねえ、ペラペラでしょう。でもこれは何十年も持ついい紙なんだよ。コピー用紙じゃダメなんだ。会社っていうのは、この紙に負けないように何十年も続かなきゃいけないんだよ。』
と、ちょっとホロリとさせてくれつつ、長い柄のついたハンコを『バーン』『バーン』と付く。
内容なんて見ちゃいない。
うらやましいとはまったく思わなかったが、社会の縮図をみた気がしたものだ。
(*1) ちなみにおばちゃんの審査に1時間とかかかったのは、私が会社設立手続きのド素人だからだ。あちこちで直しを入れさせられる。事業内容の1つに『システムインテグレーション業務』と書いたら、『わからないから直した方がいい』という。『業務内容はここに書かれている内容から選んだほうが間違いない』、『定款を見て取引先がどうこう言うことはない』などと教えてくれた。
面白いもので、決して『直さないとダメ』とは言わない。前例にないことは書かない方が無難だし、それで特に問題ないということだ。
勉強になるというか、なんだよそれというか、まあ要は勉強になった。
■社員を採るということ
ところで、1回前の打ち合わせで、新社長が『事業がうまくまわり始めたら、是非社員を採りたい』と言っていた。
これは実は大事なことだ。
一人で営業をやって、仕事を取ってきて、一人でこなしていれば、もちろんリスクは無いが広がりも無い。いつまでたっても忙しく、仕事は大変なままで、たまの休みも取れない。病気になったら仕事が止まる。
事業は、まず自分でやってみて、試行錯誤で得た経験によりオリジナルの参入障壁を作る。そして他社が真似できないほど効率化させることができた時点で、そのノウハウを社員に委譲するのが王道だ。
これは当たり前のようでいて、意識していないとなかなかできない。
自分が工夫してもっともうまく出来るようになった仕事を他人に委譲するのはかなりのストレスがあるし、実際に効率は下がるし、お客さんからのクレームも来るだろう。だから常に『そうなりたい』と強い思いでイメージし続けないと心が折れるのだ。
ただ、今回、新社長が言う『いつか社員を採用したい』にはちょっと別の危うさを感じてしまい、『とりあえず、今は採用は考えない方がいい』と言った。
それは彼の輝く瞳の奥底に、ワンピースのルフィような、冒険の仲間を求める思いを感じだからだ。
これは本人に言うべきかどうか分からないので、今も言ってないし、これを読んでいたらたぶん読まない方がいい(かもしれない)。
私もそうだったように社長が初めて社員を採用しようというとき、期待するのは仲間であり盟友だ。
自分と同じレベルの視点で物事をとらえて、時に意見を戦わせ、一緒に事業を大きくするよう努力して、もしうまくいけば同じ喜びを分かち合いたいと。
それが不可能かと言えば、そんなことはない。数ヶ月くらいの間は。
根っからの猿山のボス気質の社長は別にして、普通のプレイング社長なら、社員の給与は、スタートアップ時であっても他社と同じレベルで出そうと考える。彼の損益分岐点分析のシートにもそれくらいの給与額が予想計上されていた。
しかし、たいていその時期には、社長自身の報酬はその1/3とか、ときには報酬とは名ばかりで、もらった瞬間に会社に貸し付けるようなことを行うので『ほとんど出てない』ということもある。
そして、社長はなんとかこの社員とともに頑張って、自分の給料をこの社員と同じくらいもらいたいと切望するものだ。
今は苦しいけど、社員の給与は守って、なんとか会社を軌道に乗せよう。いや、資金繰りを軌道に乗せよう、と。
彼の損益分岐点分析からはそういう思いがひしひしと伝わってきた。
しかし、一方で社員はというと、社長と一緒に事業を頑張って、退職金制度や有給制度がいち早く整うように夢見る。
もし仮にそんな制度に興味のない社員だとすれば、それは本当に経営視点でものを見れる野武士的人物かも知れない。だとしたら彼は近いうちに独立していくだろう。
社長の下でおとなしく言うことを聞いてやっていこうという人間と、一国一城の主である社長は決してフラットな立場の仲間にはならないのだ。
このことは、私は新社長にあえて言わなかった。
なぜなら、これは会社という船を漕ぎだして始めて体験する大波であるべきだからだ。
船を漕ぎだし、防波堤を超えたら、その波にまっこうからブチ当たる必要がある。
その波を超えると、社長とは何か、社員とは何か、がはっきりと分かる。
サラリーマンをやっている友人と飲み行っても、会話が噛みあわなくなる。さびしいことだがそれはしょうがない。
勘違いされたくないのだが、これは、どちらがいい悪いでもなく、どちらの視点が高いか低いかでもなく、仕組みの問題、役割分担の話だ。
とりあえず、彼の『一緒に戦う仲間が欲しい』という欲求を差し引けば、その社員に求める役割は外注で賄えるだろうことを諭して、『損益分岐を考える上では当面社員はゼロで行こう』と言っておいた。
その裏の意図は『大波にぶつかるのが早すぎると船が大破するから』だ。
これは日本の労働基準法があまりにも社員(=労働者)に有利であることも原因だ。一定の利益を生み出す優れた機械でも、基本的に一生解約できないリースを組めと言われたら、誰だって躊躇する。
まあざっと粗利で、コンスタントに50~60万取れるようになったら、1名採用だろうか。
(新事業の話-バックナンバー)
初めての営業 (新事業の話-6)
会社を作ったらまっさきに目指すべきもの (新事業の話-5)
言う必要のないことは言わない (新事業の話-4)
持ち株比率の件 (新事業の話-3)
会社設立手続きと初めての社員 (新事業の話-2)
損益分岐点分析とコスト予測の話 (新事業の話-1)