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原子力論考(40)「反対運動」が先鋭化する病理をシステム思考的に考察すると
»2012年2月25日
開米のリアリスト思考室
原子力論考(40)「反対運動」が先鋭化する病理をシステム思考的に考察すると
社会人の文書化能力の向上をテーマとして企業研修を行っています。複雑な情報からカギとなる構造を見抜いてわかりやすく表現するプロフェッショナル。
当ブログ「開米のリアリスト思考室」は、2015年4月6日から新しいURL「http://blogs.itmedia.co.jp/kaimai_mizuhiro/」 に移動しました。引き続きご愛読ください。
文書化支援コンサルタントの開米瑞浩です。
もうじき、東日本大震災から1年になります。そろそろ、これから書くような現象が顕在化してくるころなので、書くことにします。身の回りの人への対応に参考にしてください。
なお、このチャートはシステム思考に似た手法を使って書いています。詳しくは過去の記事をご覧ください。→めぐりめぐる因果の輪を考えやすくする「因果ループ図」、恐怖のメタボまっしぐら因果ループを考えてみる、原子力論考(38)原発の稼働可否が社会的国際的にどんな影響を与えるかをシステム思考的に考える、
では、今回のチャートはこちら↓です。
人は、「A 自己効力感の未充足」状態になると、「B 他者への攻撃性」が高くなりやすいものです。
「自己効力感(→Wikipediaを参照)」というのは簡単に言うと「自分には力がある」という感覚のことです。
それが未充足だと攻撃的になる、という現象の一番単純な形はたとえば、「うまく行かないことがあるとイライラして人に当たり散らしたくなる」ということです。
そして「B 他者への攻撃性」が、「C アンチ型アクション」へと転じることがあります。「アンチ型アクション」というのは、とにかく何でもかんでも相手のすることを否定してかかるタイプの行動です。
最近起きた、というより現在進行中の事例としてはこういう事件が挙げられます。
→青森から沖縄に雪を運ぶイベント、放射能汚染を懸念した住民の要請で中止に
→斗ヶ沢秀俊記者による、東京新聞のがれき広域処理無用記事への批判
この「C アンチ型アクション」が「E 成功」すると、つまり「沖縄へ雪を運ぶイベント、中止」「がれき広域処理、中止」といった結果を招くとどうなるか、というと・・・・
「E アクションの成功」は、「B 他者への攻撃性」をより強化する方向に働きます。ざっくばらんに言うと「次のターゲットを探してまた反対の声を上げる」という方向に行くわけです。
ここで、B→C→E→B と因果ループを作ることに注意してください。このループはシステム思考でいうところの「拡大ループ」であり、エスカレートしていきます。回れば回るほど雪だるま式にふくれあがるわけです。
しかし、行き過ぎたアクションは必ず反動を生みます。
「C アンチ型アクション」は、少し時間差はあるものの「D 社会的反動」を引き起こし、Eを止める方向に向かいます。たとえば沖縄の雪イベントについては
→栗原さん、放射脳ナイチャーを斬る - Togetter
そして→青森の雪、石垣の児童施設へ 那覇の体験行事中止受け(朝日新聞デジタル)
ただし、「反動」が出てくるまでには少々時間がかかります。この沖縄の雪イベントの場合は数日で来ましたが、場合によっては何ヶ月も何年もかかるケースもあり、その間はB→C→Eの拡大ループが止まりません。
しかしこの「反動」が出てくると、D→Aというもうひとつの作用を起こします。「D 社会的反動」というのは、極論でいうと「Cのような主張は間違っている。いいかげんにしろ」ということなので、「A 自己効力感の未充足」状態を昂進させてしまうわけです。
すると、Dが出てきた段階でA→B→C→D→Aというもうひとつの拡大ループが成立し、結果、他者への攻撃性もアンチ型アクションもより激しくなる、という事態を起こします。
こういうパターンは日本の戦後左翼運動の中ではいくらでも見ることができる典型的なもので、要はイデオロギーには関係なく、集団の中で生きる人間の心理が陥る落とし穴のよくある例なんですね。ですから、現在の原発問題においてはそれが起きない、と考える理由はありません。必ず起きます。
起きるとどうなるか、というと、だいたいは仲間割れを始めます。社会的反動が強まって、行政に対する「アンチ型アクション」がなかなか成功しなくなってくると、ターゲットを変えるわけです。アクションが成功しやすいターゲットに攻撃の矛先が向かうようになると、多くの場合その矛先は「反対運動」の内部に向かいます。つまり内ゲバが始まるわけです。
1960~70年代の「アンチ型アクション」とその結末
→安保闘争(60年、70年) (運動のエスカレーションと衰退)
→あさま山荘事件(72年) (仲間割れ)
反原発運動についてもおそらくそういう展開が起きます。もし身の回りに反原発運動にのめり込んでいる人がいたら、注意深くタイミングを見計らって声をかけてみましょう。
ただし、声をかけると言っても「科学的には、放射能の心配はいらないから安心しようよ」・・・・といったかけ方はやめたほうがよさそうです。
図中では「F 合理的・科学的知見」がどう影響する? と、どこにどう影響するか「?」をつけておきましたが、科学的知見を語ると「あなたが心配するようなことは起きないよ」となってしまうため、・・・・もっとハッキリ言うと「お前の言うことは間違っている」という意味になってしまうため、「A 自己効力感の未充足」をかえって昂進させてしまう恐れが高いのです。
この「反対運動が先鋭化する病理」というのは、出発点が「A 自己効力感の未充足」なので、そこを和らげるような手を打つ必要があります。Aを抑えることが出来れば、BCEの悪循環ループも抑えられます。それには、心配で不安である、という心理状態はまず認め、受容しなければならないわけです。
この件については以前書いたものもどうぞご参照ください。
↓
原子力論考(15)無限・無期型ストレスとの付き合い方(前編)
原子力論考(16)無限・無期型ストレスとの付き合い方(中編)
原子力論考(17)無限・無期型ストレスとの付き合い方(後編)
もうじき、東日本大震災から1年になります。そろそろ、これから書くような現象が顕在化してくるころなので、書くことにします。身の回りの人への対応に参考にしてください。
なお、このチャートはシステム思考に似た手法を使って書いています。詳しくは過去の記事をご覧ください。→めぐりめぐる因果の輪を考えやすくする「因果ループ図」、恐怖のメタボまっしぐら因果ループを考えてみる、原子力論考(38)原発の稼働可否が社会的国際的にどんな影響を与えるかをシステム思考的に考える、
では、今回のチャートはこちら↓です。
人は、「A 自己効力感の未充足」状態になると、「B 他者への攻撃性」が高くなりやすいものです。
「自己効力感(→Wikipediaを参照)」というのは簡単に言うと「自分には力がある」という感覚のことです。
それが未充足だと攻撃的になる、という現象の一番単純な形はたとえば、「うまく行かないことがあるとイライラして人に当たり散らしたくなる」ということです。
そして「B 他者への攻撃性」が、「C アンチ型アクション」へと転じることがあります。「アンチ型アクション」というのは、とにかく何でもかんでも相手のすることを否定してかかるタイプの行動です。
最近起きた、というより現在進行中の事例としてはこういう事件が挙げられます。
→青森から沖縄に雪を運ぶイベント、放射能汚染を懸念した住民の要請で中止に
→斗ヶ沢秀俊記者による、東京新聞のがれき広域処理無用記事への批判
この「C アンチ型アクション」が「E 成功」すると、つまり「沖縄へ雪を運ぶイベント、中止」「がれき広域処理、中止」といった結果を招くとどうなるか、というと・・・・
「E アクションの成功」は、「B 他者への攻撃性」をより強化する方向に働きます。ざっくばらんに言うと「次のターゲットを探してまた反対の声を上げる」という方向に行くわけです。
ここで、B→C→E→B と因果ループを作ることに注意してください。このループはシステム思考でいうところの「拡大ループ」であり、エスカレートしていきます。回れば回るほど雪だるま式にふくれあがるわけです。
しかし、行き過ぎたアクションは必ず反動を生みます。
「C アンチ型アクション」は、少し時間差はあるものの「D 社会的反動」を引き起こし、Eを止める方向に向かいます。たとえば沖縄の雪イベントについては
→栗原さん、放射脳ナイチャーを斬る - Togetter
そして→青森の雪、石垣の児童施設へ 那覇の体験行事中止受け(朝日新聞デジタル)
ただし、「反動」が出てくるまでには少々時間がかかります。この沖縄の雪イベントの場合は数日で来ましたが、場合によっては何ヶ月も何年もかかるケースもあり、その間はB→C→Eの拡大ループが止まりません。
しかしこの「反動」が出てくると、D→Aというもうひとつの作用を起こします。「D 社会的反動」というのは、極論でいうと「Cのような主張は間違っている。いいかげんにしろ」ということなので、「A 自己効力感の未充足」状態を昂進させてしまうわけです。
すると、Dが出てきた段階でA→B→C→D→Aというもうひとつの拡大ループが成立し、結果、他者への攻撃性もアンチ型アクションもより激しくなる、という事態を起こします。
こういうパターンは日本の戦後左翼運動の中ではいくらでも見ることができる典型的なもので、要はイデオロギーには関係なく、集団の中で生きる人間の心理が陥る落とし穴のよくある例なんですね。ですから、現在の原発問題においてはそれが起きない、と考える理由はありません。必ず起きます。
起きるとどうなるか、というと、だいたいは仲間割れを始めます。社会的反動が強まって、行政に対する「アンチ型アクション」がなかなか成功しなくなってくると、ターゲットを変えるわけです。アクションが成功しやすいターゲットに攻撃の矛先が向かうようになると、多くの場合その矛先は「反対運動」の内部に向かいます。つまり内ゲバが始まるわけです。
1960~70年代の「アンチ型アクション」とその結末
→安保闘争(60年、70年) (運動のエスカレーションと衰退)
→あさま山荘事件(72年) (仲間割れ)
反原発運動についてもおそらくそういう展開が起きます。もし身の回りに反原発運動にのめり込んでいる人がいたら、注意深くタイミングを見計らって声をかけてみましょう。
ただし、声をかけると言っても「科学的には、放射能の心配はいらないから安心しようよ」・・・・といったかけ方はやめたほうがよさそうです。
図中では「F 合理的・科学的知見」がどう影響する? と、どこにどう影響するか「?」をつけておきましたが、科学的知見を語ると「あなたが心配するようなことは起きないよ」となってしまうため、・・・・もっとハッキリ言うと「お前の言うことは間違っている」という意味になってしまうため、「A 自己効力感の未充足」をかえって昂進させてしまう恐れが高いのです。
この「反対運動が先鋭化する病理」というのは、出発点が「A 自己効力感の未充足」なので、そこを和らげるような手を打つ必要があります。Aを抑えることが出来れば、BCEの悪循環ループも抑えられます。それには、心配で不安である、という心理状態はまず認め、受容しなければならないわけです。
この件については以前書いたものもどうぞご参照ください。
↓
原子力論考(15)無限・無期型ストレスとの付き合い方(前編)
原子力論考(16)無限・無期型ストレスとの付き合い方(中編)
原子力論考(17)無限・無期型ストレスとの付き合い方(後編)